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我が国の内情を鑑みるに、その提案は受け入れられない‐10

「………では、以上の内容で。」


「うむ。頼むぞ。」


玉座の傍らに待機していた外務卿が、丸山殿に一束の書類を手渡す。


昨日制定、公布した『ベルゲン王国著作権法』の全文や取引に関連するアレコレが記されたものだ。

羊皮紙だからかなりかさばるなぁ。


「予定より早く終わったな。」


まぁ、もともとあった日本の法律やらに乗っかった形だからね。

それに加えて、意図的に謁見時の儀式をすっ飛ばしたりとか。

わざと時間を作っている訳です、はい。

「ふむ………丸山殿、少し話をせんか?」


「え?あ、失礼いたしました。喜んで。」


「うむ。では、侍従長、丸山殿を案内せよ。」

流石にこの謁見の間では人目もあるし、今回は日本に探りを入れる形になるからね。

接客用のサロンに案内して悪巧み………いや、ちょっと雑談するだけだよ?

ひょっとしたら、国家のアレコレが話題に上がるかもしれないけど。




「さて、丸山殿。どうだ?その後貴国は変わりないか?」

俺はティーカップを手に取りながら、丸山さんに話しかける。

ここは、王宮のサロン。

応接間よりももうちょっと砕けた雰囲気が演出されている。

内装もそれなりに豪華なもので、ベルゲン様式とでも呼べば良いのだろうか。

まぁ、三大国や移民してきた被迫害民族の文化をミキサーにぶちこんで上澄みだけを取り出した感じになっている。洋風家具だらけの部屋に、デザインを合わせた絨毯が壁に掛かっていたりとか。

こういった文化的なことにリソースぶちこむ余裕なんてあるわきゃないので、洗練されているとはお世辞にも言えない。


「はい、陛下。フェールデンとの戦争も早期に終りまして、国内の混乱も最小限となっております。此度の貴国との取り決めも、今後の友好的関係の第一歩として我が国の国民一同注目しております。」


そう言って、カップを手に取る丸山さん。

中身はコーヒーです。

此方にも一応あるんすよ、コーヒー。

ベルゲンでは気候的に栽培ができないので、ダイアス=ロングランドからの輸入品だけど。

因みにお値段はバカみたいにしやがります。


「それは何よりだ。嬉しい事だな。いくらか上が友好を演出したところで、国民同士が険悪であっては友好関係も長持ちはせんだろうよ。」

まぁ、何事にも例外はあるけどね。


「今後著作物以外にも取引が拡大すれば、貴国への注目は上がるかと思われます。」


つまり、もっとガンガン商売しようぜ!ってことですね。


「ふふふ、出来ればそうあって欲しいものだ。そうなるまで、我が国が存在していればだがなぁ………」


そう言って、暗い表情を作る俺。

こちとら、中学生位の幼さ残る少年の顔をしているからね!その破壊力は抜群よ!

………いや、誰にでも効果がある訳じゃないけどさ。

で、でも少年にイケないコトしたくなる特殊性癖持ちなら、イケる!?

そんな奴を、外交使節にする様な国は滅んでしまうだろうけど。


「………何か、問題が起きているのですか?」

まぁ、この丸山さんはそんなアレな人ではないから効果がある訳がない。

とは言え、めでたいことがあった直後にこんなこと言われたら気になるだろうし、聞いてみなきゃだろうからね。

今回の件、法整備に関してはかなりのハイペースで進めているからね。

国内で反発が起きて、それまで進めたことや決めたことが丸ごとおじゃんにされるとか、日本人なら覚えがあるだろう。


「いや、別に此度の取り決めに関しての事ではないのだ。国内に反対の声は無いしのぅ。」

反対する奴は国境送りですし。


「そ、そうですか。」

ホッとした様子で、再びカップに口をつける丸山さん。

今じゃ!


「実は今、フェールデンの大々的な侵攻を受けておってな。」


「ぶはっ!」


そう言って、コーヒーを吹き出す丸山さん。

やったぜ!


「うわ、す、すみません!すみません!」


うむ。ジャパニーズ平謝り、前世サラリーマン時代には時々見た光景だ。


「何、気にするな。日本風に言うなれば『ドッキリ大成功』と言う奴よ。」


俺は意図的に俗っぽい言葉を使う。



さて、突然のアクシデントと突如緩んだ空気。

これで丸山さんのガードが緩んでくれたら良いのだけどね。


「ま、フェールデンの侵攻については、残念ながらドッキリではないが。その様子では、日本国はこのフェールデンの動きを知らなかったと見える。」


「は、はい。今、初めて知りました。」


この反応は白かな?


「では、日本国にも伝わっていないと言うことか。」

そして、丸山さんだけに伝えられていない可能性は低いでしょう。


「いや、先の日フェ戦争時にも奴らの兵がはずっと国境近くにおってな、こちらでも警戒はしておったから充分に対策はとれておる。しかし、日本に敗戦した直後に大々的に兵を動かすと言うのは、理解に苦しむ。」


「………。」

眉にシワを寄せてこちらを見る丸山さん。

『何が言いたいのか分からない。』

って顔をしていらっしゃる。


「その事に関して、日本国とフェールデン帝国が手を組んでいるのではないか?等と言うものが出てきておる。まぁ、内務卿なのだが。」


「そ、その様なことはございません!」

ここで声のトーンを上げる丸山さん。

この言葉が出たなら、俺の仕事はおしまいかな?


「分かっておるよ。内務卿は余が嗜めておいた。すまんな、準備が出来ておったとは言え、我が国は侵攻を受けておる立場。皆少々神経質になり、視野が狭くなっておる。配下にはよく言い聞かせておくから、勘弁してやってくれ。」


「………陛下。この事、我が国に伝えても宜しいでしょうか?」


まぁ、それは問題ないでしょう。

どっちみち彼の仕事上それは伝えなきゃいけない事だし。

一応こっちに確認をとってくる姿勢に、俺個人の好感度は上がるんだけどね!


「それは構わんよ。………ふむ、何やら丸山殿には急ぎの仕事が出来た様だな。誰か居るか?」


「はい、陛下。」


そう言って、侍女が進み出る。


「丸山殿が迎賓館に戻られる。外務卿に送らせよ。」


「かしこまりました、陛下。」


後は、外務卿が道中の雑談を装って裏とりをしてくれる手筈になっている。

多分白だろうけどさ。


しかし、白となるとフェールデンの動きがますます解んない。

懸念事項も(多分)無くなったことだし、取り敢えずベルゲン王国を守ることに全力は傾けるけど………


鬼が出るか、蛇が出るか。

どっちにしても、ベルゲン王国にとってろくな理由じゃないんだろうなぁ………

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