番外編‐戦争の時間
更新に間が空いてしまいました、申し訳ありません。
ちょいと年末年始とゴタゴタがありまして。
もうちょっと、不定期の更新になります。
日本とフェールデン、この二つの国は戦争をしている。
事の発端はフェールデン帝国による日本への侵攻作戦である。
フェールデンの対日侵攻艦隊はその殆どが、日本本土を見ること無く海の底へ一直線であったが、一部の船が日本本土へとたどり着いてしまった。
たどり着いたと言うか、漂着したと言った方が正しい様な有り様ではあったが。
そして、日本本土の土を踏んだフェールデン帝国軍兵士が何をしたかと言うと、近くの集落を襲ったりする。
その結果、日本国内の世論は沸騰。一時的にではあるが、フェールデン死ね死ね状態となった。
まぁ、これ以上無いかたちで戦争を吹っ掛けられたのだから当然ではある。
対応が不味かった、防げた筈だと言われつつ内閣の支持率が急降下したりもして、政府は急ぎその世論に答える形となる。
こうして、転移前には考えられないスピードで、フェールデンへの逆侵攻が決定された。逆侵攻と言うと、上々刺激が強いが、あくまで防衛の一環ですので。
ここまでおおよそ一週間。
政府首脳としては
「転移してから国内の状況も回復してないのに、勘弁してくれ。どうせ終わっても、野党が強行採決がー!とか騒ぐんだろ!他にも問題山積みになるだろうが!もう嫌でござる。」
と言うのが本音だったとか。
日本国にとって、この戦争は国内の問題への対処の余力で行うものであった。
さて、そうしてやる事が決まればその後は早かった。
本来なら、これはおかしな事である。
防衛に特化した組織である自衛隊は逆侵攻へのノウハウを持っていない。作戦の立案も、必要な装備の調達もそんなに早くは行えない。
では何故素早く逆侵攻の準備が整えられたのか。
日本国内にも存在するのである、敵国への侵攻のノウハウがあってその為の装備を持っている組織が。
在日米軍。元世界の警察やってた人達である。
在日米軍は、積極的に日本への助力を行った。
日米安保のお陰で日本への協力の大義名分はある。
そして、アメリカ本土が迷子の現在、食糧燃料その他諸々全てを日本に頼らざるを得ない。
何とかして日本で存在感を出さないと、このままではアメリカ人という存在が消えてしまいかねないのだから………
フェールデン沖、アメリカ海軍第七艦隊旗艦『ブルー・リッジ』は同艦隊所属の仲間たちに囲まれて停泊していた。
その戦闘指揮所にて、艦隊指令が所属する全てのアメリカ軍人に対してスピーチを行っていた。
「さて、諸君。我々の愛するアメリカは、残念なことにこの世界には存在しない。元のあの地球があるのは、遥か星の彼方なのかはてまたSF映画の様な平行世界にあるのかそれすらも解らない。しかしだ、我々はそれでもアメリカ人である。過日、同盟国である日本に、未開の蛮族共が喧嘩を売った。そいつらは卑劣にも、民間人を老いも若きも殺してまわったらしい。諸君、今、我々のアメリカに友人と言える国は一つしかない。その友人の為に、我々は力を振るえる。これこそが、我々の魂に染み付いた正義の行いである。愛すべきアメリカ軍人の君たち、共に正義を成そう。いつの日か、我々が、あるいは我々の子供たちがあの懐かしき世界に戻った日に、胸を張って我々がアメリカ人であると、そう言えるように。………これより、オペレーションを開始する。さぁ、蛮勇しか取り柄のないフェールデンのクソ共に、我々の正義を教育してやれ!」
「LCU、LCAC発艦。対地攻撃支援機は、180秒後に発艦されたし。各艇、ポイントαに上陸後橋頭堡を確保せよ。」
「岩国の作戦機、全機空中給油完了。作戦空域において待機。」
「シャイロー、バリー、対地砲撃スタンバイ。」
慌ただしく動き出す指令室のなか、スピーチを終えた艦隊指令は椅子にどっかりと座り深くため息をついた。
「全くもって気に入らん。剣と弓とで武装した港に、この鉄量をぶつける………全くもってフェアじゃない。………だが、我々にはもう他に無いのだ。悪く思わんでくれよ。」
二時間後、指令部に上陸部隊から通信が入った。
「全隊上陸完了。敵影無し。これより、目標港湾都市に向けて進軍を開始する。」
フェールデン帝国、港湾都市『コルツベルグ』は帝国海上貿易の最大の中継地点である、船を動かすのに必要な水や食糧、労働力をここで船に積み込み、ここから更に帝国内外の目的地に向けて船が出るのだ。
帝国海上貿易の重要拠点であるからして、そこには相応の戦力が配備されていた。
但し………その殆どが海へ向けられていた。
その日の昼頃、コルツベルグの郊外に謎の一団が出現したと、領主へ報告が入った。
領主は、防衛態勢への移行を発令。
自身はコルツベルグ領軍を率いて、現場に向かう。
報告では正体不明の一団とされていたが、彼は敵の正体を推測していた。
恐らくは「日本国」の軍勢だろうと。
このコルツベルグからも先日、日本への侵攻艦隊の船を見送ったばかりなのだから。
しかし、ここに日本国の軍勢が現れたのならば、艦隊はどうなったというのだ?まさか、壊滅したのか?
いや、まさか。そんな筈はない。きっと、日本国もまた侵攻艦隊を出していて、味方艦隊と入れ違いになったのだろう。
不運が重なった結果だ。兎に角、コルツベルグを守らなければ。
出立の準備を進める傍ら、彼は部下に命令する。
「駐留艦隊指令部に伝令を出せ。付近に敵艦隊が居るぞ。」
「中尉、見てくださいよ、あれ。馬に乗ってますよ。敵の偵察ですかね?」
「ソードを吊ってるからな。多分そうだろうよ。」
上陸部隊のうち、歩兵戦車中隊を率いる彼は、部下の報告にぶっきらぼうに答える。
彼は、この作戦が気にくわなかった。
この作戦に従事する人員は、確かに目標の都市を占領するのに充分なものだろう。
しかし、彼はこの作戦が自分の知っている戦争とはあまりにもかけはなれたものになるだろうと予想していた。
事前に行われた空からの偵察で、都市を囲む城壁らしき構造物が確認されたらしい。
彼は、そんな障害にもならないであろう建物など、問答無用で吹き飛ばしてしまえばいいと考えていた。
しかしながら、上からのお達しでは最初に降伏を呼び掛けろとのことだ。
まぁ、最初から合衆国に喧嘩を売ってるテロ組織の拠点じゃないのだからそこはまぁ、良いだろう。
だが、彼を苛立たせる要因は他にもたくさんある。敵の軍事拠点とおぼしき建物が解らないのだ。
敵の兵舎が何処にあるのか?指令部は?行政は何処で行っているのか?一体何を確保すれば目標都市の掌握が出来るのか?
城壁前に敵が御行儀よく、全兵力を並べて居てくれない限り、市街戦は避けられないだろう。
………中東に居たときには、必ずしも正確であるとは言えないが、事前に情報部から人であれ建物であれ確保又は攻撃対象が此方に伝えられていた。
今回は市民の中から突然AKで銃撃されることは無いだろう。
だが、市街戦で恐ろしいのは、敵の武装では無いのを彼は経験から学んでいた。
いつ、何処から攻撃が来るのか解らないことが何よりも恐ろしいのだ。
建物の上からの矢を射かけられた場合、兵士が無傷で居られるか?
曲がり角から、ロングソードが飛び出してくるかもしれない状況で、全員が幸運のままで居られるのか?
敵は、日本で妊婦でさえ容赦なく殺したという。
そんな奴等に此方の常識が本当に通じるのか?
全くもって気にくわない。何もかもが気にくわない。
………やがて、目標の都市が見えてくる。
そこに、部下からの更なる報告が入る。
「中尉、目標の都市が見えます。………何か、城壁の上にえらい派手な奴が見えますよ。」
………そいつを狙撃したら、全部スッキリ終わりゃしないだろうか。
そう考えながら、彼は部下からの情報を、指令部へと伝える。
「あ、中尉。こっちに旗持った馬がきます。単騎ですよ?」
ほら見やがれ、もう訳が解らねぇ。
コルツベルグの領主は、城壁から「日本国」のものと思われる奇妙な一団を見下ろしていた。
土煙をあげながら、此方に向かう無数の馬車………いや、あれは馬車なのか?馬が居ない。
一体何なのだ…あれは。
何にせよ、領主としての仕事をせねばなるまい。
相手の目的が何であれ此方のやることは変わらない。
「使者を出せ!」
先ずは、彼らが何者なのか、何をしに来たのか。それを確かめなくてはならない。
十中八九、敵はなのだろうが。
使者が仕事をしている間に、いつでも打って出られる様に戦力をかき集める必要がある。
幸い、ここの他に敵が現れたという報告は上がっていない。
全兵力を此方に廻せば事足りるだろう。
たったあれだけの数で、このコルツベルグを落とそうなどと「日本国」とやらは戦争のやり方を知らんと見える。
いざ戦闘になれば、一撃でカタがつく。
帝国の恐ろしさを知れば、奴らも身の程を知るだろう。
城壁と、米軍との間を駆けるコルツベルグの使者は恐怖していた。
それもそうだろう、彼からしたら目の前の敵が一体何なのかが解らない。
戦場の慣わしに乗っ取って、此方は使者の証となる旗を掲げている。
だが、目の前の彼らはその意味を理解しているのだろうか?
嘲りと共に、突然自分を殺しにかかるのでは無いだろうか?
どんなに不安を抱いていても、彼の仕事は変わらない。
突如現れた彼らが、何者なのか、何をしに来たのか………そもそも本当に敵なのだろうか。
その辺りをハッキリさせるのが彼の仕事なのだ。
使者は、米軍のすぐそばで馬を止めた。そして、大声で叫ぶ。
「私は、フェールデン帝国コルツベルグの使者、騎士『レヘル・ライベルグ』である。その方らは、何者か、一体何をしに来た!」
………数秒後、突然の大声が辺りに響き渡った。
「此方は、アメリカ合衆国海兵隊所属第3海兵遠征隊である。貴国、フェールデン帝国が先日行った日本国への攻撃に対し、日米安全保障条約に基づき、我々は貴国への攻撃を決定した。その一環としてコルツベルグを占領することが我々の目的である。速やかに武装解除し、降伏せよ。繰り返す。速やかに武装解除し、降伏せよ。」
「………ふざけるな!道理も解らぬ蛮族めが!我がフェールデン帝国の力、その身に刻み付けてやる!」
と、叫んでからフェールデンの使者『レヘル・ライベルグ』は城壁へと馬で走り去ってゆく。
コルツベルグの使者は、城壁に向けて旗を大きく振る。
その瞬間、コルツベルグ領主は命令を発した。
「奴らは、帝国に仇成すものである!門を開いて、騎兵を出せ!愚か者共に鉄槌を!」
敵の侵入を阻むための、重い城門がゆっくりと開いてゆく。
その奥に控えるのは、領主の誇る防衛騎馬隊。
彼らは、見慣れぬ敵を追い散らし殺し尽くすべくコルツベルグから打って出る。
幸い、敵への距離は充分だ。
これならば、馬の突撃速度もしっかり乗ってくれるだろう。
その様子を見ていた米軍にもまた動きがあった。
敵兵力が目視で堪忍された後に、司令部から火器の使用許可が降りたのだ。
だが………
「………中尉、これ撃って良いんですかね?」
部隊の最前列に位置する歩兵戦車『M2ブラッドレー』の車内に、砲手の呟きが漏れる。
砲手は別に攻撃の許可を確認するためのものではない。
無防備に生身で突撃をかましてくる敵に対して、ブラッドレーの兵装である25mm機関砲を使用する事に感してだった。
『そんなことが、許されるのか?』
25mm機関砲。その砲弾が人に直撃すれば爆発四散するであろう破壊力。
勿論、兵器である以上、それは人を殺傷するために使われるものだ。
だが、それは、無防備な人体に対して使うものではない。明らかに火力が大きすぎるのだ。
いや、そうではない。それだけではないのだ。
火薬と鉄量で彩られた、現代人の戦争。
騎兵による突撃。
それも中世を生きる騎兵に向けて、現代戦の火力をぶつける。
そこに、この砲手は恐怖を覚えたのだ。
彼から見れば、敵はあまりにも無防備なのだから。
「敵の総兵力は依然として不明だ。ここで、出来る限りの数を減らしておく必要がある。その為の全兵装使用許可だ。命令を遂行しろ、マリンコ。」
それでも、やるべき事は変わらない。
「………サー・イエス・サー!」
この戦いは、この世界に居るアメリカ人にとって重要なものなのだから。
「それにな、見てみろ。敵はどんどん出てくる、弾が足りるかどうかの心配をした方が良さそうだ。よし、射撃開始!」
社長が射撃開始の命令を下した直後、彼の乗る車両も突っ込んでくる敵に攻撃を始める。
先程まで、迷いを見せていた砲手も、命令が下された瞬間兵士の顔に戻り、目の前の敵へと攻撃を加えていた。
その光景を、コルツベルグの領主は信じられない思いで見ていた。
敵の方向から豪雨が窓を叩くような音が聞こえだしたと思えば、此方の騎兵がバタバタと倒れてゆく。
少し高い位置にあるこの城壁の上からは、その光景がまるで壁に阻まれている様にも見える。
敵の魔法だろうか?いや、そこは今考えても仕方ない。
重要なのは、敵によって彼の兵士達が今この瞬間も倒れているのだから。
このままだと、接敵する前に全滅しかねない。
「騎兵を呼び戻せ!野戦は捨てて、籠城するぞ!」
その命令を受け、城門の旗手が眼下の味方部隊へと撤退命令を伝える。
だが、次の瞬間何かが風を切る音と共にその旗手の上半身が消えた。
「なっ、何が起きた!?敵の魔法か!?ここまで届くのか!?」
「領主様!ここは危険です!お下がり下さい!!」
「ええい、忌々しい!仕方ない!門を閉めろ!鉄柵下ろせ!」
「そ、それでは味方の騎兵隊が戻れません!」
「解っておる!解っておるが、敵をここに入れるわけにはいかん!城壁からの攻撃に切り替える!撤退してきたものには南の城門に向かうよう伝えよ!」
「………了解しました。」
「すまん、だが堪えてくれ。」
「中隊長、敵兵力の排除を確認。」
「取り敢えず、今出来ることは終わったか………次は障害物の排除だな。後方の砲兵隊に火力支援を要請。あの古くさい城壁を崩して貰うように言ってくれ。」
「了解。」
「………敵さんはどれだけ残って居ることやら。今ので全滅してくれりゃ御の字だが。」
「自分も、市街戦にはいい思い出がありません。異世界に来てまでバグダッド気分にはなりたくないもんです。」
「全くだ。城壁の排除後に、一応再度降伏勧告を行う。相手はクソ野蛮人だ。ブラッドレーで呼び掛けて、ダメなら爆発物処理班の装備で使者を立てろ。弓矢で戦死者なんて出したその日にゃ、俺らは世界中の笑われもんだ。」
「まぁ、笑う奴も今じゃ日本の自衛隊ぐらいなもんでしょうが。」
「………だったら笑う奴は居ないな。」
「と、言いますと?」
「ジョークで笑わん日本人だぞ?弓矢で戦死だなんてジョークみたいな事伝えても笑う奴が居るとも思えん。」
「相変わらずジョークが下手ですね、そんなんじゃ日本人じゃなくても笑いやしませんよ。っと、火力支援が来ますよ。」
「辛辣だなこの野郎。砲撃が終わり次第都市内部へ進むぞ。」
コルツベルグ領主にとって、その日は最悪の一日であった。
騎兵は敵に対して有効な打撃どころか交戦も出来ずに全滅。
味方がバタバタと倒れて行く光景はそれだけでもトラウマになる様なものであったのに、その数分後には更なる悪夢を彼は見せつけられたのだから。
「何だ………何なのだこれは。」
米軍は、彼ららしいダイナミックさで城壁、城門に対して執拗に砲撃を加えた。
本国から次元の彼方へと切り離されてしまった現状、砲弾1つとっても補給に苦労するような有り様ではあったが彼らは出し惜しみをしなかった。
その結果、コルツベルグを守る城壁は瓦礫の山と化し、それを乗り越えて鉄の箱が攻め込んでくる。
敵を撃退しようとする守備隊は、砲声と共に消し飛んだ。
そして………
「………領主様、港の駐留艦隊が………」
「………嫌な予感がするが、聞かねばならん事だろう。」
「突如現れた謎の大型艦によって、一隻残らず全滅です。我が方は、射程外から一方的に沈められたとの事です。」
「海上へも逃れられんか………」
『………我々はアメリカ合衆国海兵隊所属第3海兵遠征隊である。再度降伏勧告を行う。これ以上は、犠牲者が増えるだけである。無駄な抵抗は止めて、速やかに武装解除し、降伏せよ。降伏すれば、身の安全は保証する。繰り返す。我々は…………』
大音量で降伏勧告を繰り返しながら、遂に戦車は城壁の瓦礫を越える。
「最早是非もあるまい。これではいくら兵力があっても、死者が増えるだけだ。………私の首だけで済む内の方がよかろう。コルツベルグは降伏する。」
この日、フェールデン帝国海路の要衝たるコルツベルグは降伏した。
そして、同じような光景が帝国の主要な港湾都市の幾つかで見られた。
このコルツベルグと他の都市の相違点があるとすれば、彼らは『日本国』ではなく『アメリカ合衆国』に対して降伏したと言うこと。
しかし、その事を重要視するこの世界の人間は、まだ少ない。
自衛隊にドンパチしてもらうつもりだったのに、どうしてこんなことに………




