我が国の内情を鑑みるに、その提案は受け入れられない-4
さてさて、丸山殿が帰国した翌日の事である。
唯今絶賛会議中でございます。
「軍務卿、内務卿。先の提案について、話を聞こうではないか。示し会わせておったろう?」
あのテレビについての提案。その真意を確かめる為の会議である。
まぁ、一晩自分なりに考えて、何となく想像はついたが。
もし、俺の予想が正しかった場合はぶちギレさせてもらうんだけど。
場合によっては、二人には退場してもらう必要がある。
「その方ら、よもや外務の邪魔をするためだけにあのような事をしたのでは無かろうな?」
俺の予想。それは、今後の日本との外交関係が進むにつれて大きくなるであろう、外務卿の権限に対する牽制。
条約草案作成については確かに、内務及び軍部もまだ食い込む余地もあったが、今後条約締結に向けた交渉が増えるにつけて、外務の権限は強くなるだろう。
日本との関係悪化が予想されるのであれば、今まで通りの力関係で居られただろうが、(一応)トップの俺が今までになく外国である日本との友好関係構築に乗り気なのだ。
もし、外務卿が順調に、国王から任された大役をこなせば確かにその権限は拡大されるだろう。
しかし、丸山さんにあんなこと言ったその口で、足の引っ張りあいを仕掛けてるんだとしたら………
キレても許されるじゃろ?これは。
「「「その通りです、陛下。」」」
「うむん!?」
示し会わせたように、息ぴったりの返事が3つ………
3つ!?
内務卿と軍務卿はまだ分かるとして、外務卿の、君は被害者(?)じゃないの!?
「ここからは、私に説明させてください。」
と、呆気に取られていた俺に声をかけたのは外務卿その人であった。
「そもそも、今回の件をお二人にお願いしたのは私なのですよ。」
「………どういう事だ?」
「実は、お恥ずかしながら………」
と、外務卿が語り始めたのは今の彼の配下についてだった
このまま行けば、外務部の権限が拡大されるんじゃねぇ?
と、考えたのは彼の部下も同じだった。
で、彼の配下の一部が割と頭の悪い事を考えた………考えた上に実行したのだ。
即ち、一部商人に対して
「ベルゲン王国としては今後日本への接近を図る。その時、動くのは我々外務部である。きっと、権限も発言力も増えて行くんだろうなぁ。ひょっとしたら、貿易に関して一部商人にも開放されるかもしれないなぁ。え?便宜をはかって欲しい?だったらそれ相応の対価が欲しいなぁ………なんて。」
………賄賂の催促をしたそうな。
え、えぇ。
「元々、私の部署は………言ってしまえば屑籠の様なものでもあります。内務部や軍部と違い国内の有力者の身内から………その、質の悪い者が流れ着く様な場所でして。」
まぁ、うちの場合、本来花形である国外への使者がほぼほぼ死刑宣告みたいなものだし………あぁ。そう言うことか。
ベルゲン外務部は、今まで外交という仕事をこなせなかった。
だって、ウチとまともな外交をしようとする国が無かったのだから。
それでどうなったかと言うと、まぁ、ベルゲンの足を引っ張るアフォだけど、表だって処罰するにはちょっと問題のある奴ら(有力者のどら息子とか)が最終的に流れ着く場所になったのである。
例え国内に醜聞をばらまきまくったとしても、外務部に放り込んで何処かの使者にでも任命されれば
「俺の息子は、ちょっぴり頭の出来があれだったけど、最期は国に殉じたよ。」
って言う事が出来るのである。
んで、割とベルゲンの、言ってしまえば「一般国民より力のあるバカ」の受け皿にされてきた外務部のモラルは………よ、よろしくない。
「要するに、外務卿の優秀でない配下に「夢を見るなよ、この糞どもが。」と伝えるために一芝居うったと………それであのとき発言しなかったと言うわけか。」
「はい。お恥ずかしながら。」
「だが、何故俺に知らせなかった?ベルゲンの王たるこの俺の預かり知らぬところで、国の柱たる貴殿ら三卿が謀略を進める。少しでも漏れれば、ベルゲンに付け入る隙有りとたちまち知れ渡る。それがどれだけ危険なことか、知らん訳でも無かろう?」
(((まだ13歳の陛下に、大勢の前で腹芸とか出来るわけ無いでしょう。)))
ん?こいつら、何かちょっと失礼なこと考えてる気がする。
「どうした、何か申してみよ?」
「………畏れながら陛下。その………まだ、年若い陛下にそこまで求めるのは酷なことかと愚考致しまして………」
ふーん、なるほどね………
馬鹿野郎!それで国を割るような事になったら、取り返しがつかんだろうが!そんな事も分からんのか!一言言ってくれれば、俺だって腹芸の一つもこなすわ!何で水面下でそんな重要な案件を進めやがった!
俺が、地方の村出身でまだ13歳のガキだからか!
………うん、ガキだからか。
そうか!………そりゃ駄目だな。
リスクとリターンが釣り合わないや。
「陛下。発言を、宜しいでしょうか?」
「どうした、内務卿。」
「率直に申し上げまして、今回陛下に内密に事を進めたのは、陛下の経験不足を危惧しての事であります。」
本当にドストレートですわね?
「今回の事、恐らくは陛下が考えている以上に大切な事であります。畏れながら、陛下が即位されてからまだ日が浅く、宮廷内でも陛下の指導力に関して皆見極められてもおりませぬ。そのような中で、陛下が腹芸の一つもこなせないとわかったらどうなるか………」
「すり寄るならば今の内と、有象無象が沸いて出る………か。」
「左様にございます。その有象無象が、ベルゲンの害となる者だけであればまだ、ましです。我々三卿が陛下を傀儡とし、陛下の意思を無視して政を行っている………こう邪推する者も居るでしょう。その中には、真に陛下を案じる者も。陛下はこれまでの対日交渉におきまして、陛下御自ら、この国の方針を明確に打ち出しております。その事について、宮廷内も揺れているのは陛下もご存じの通り。」
うん、ベルゲン史上初めて、他国との友好を前提とした方針だ。そら、皆困惑するでしょうよ。
どうやら俺が思っている以上に、国内は揺れていた様だ。
それに、俺だって人間だ。俺を心配してくれる人間を邪険には扱いづらい。
そういった善意の人間が、発言力を高めると、国を割るところまで行かなくとも、これまでのようにスムーズに事を運べなくなるだろう。
それは確かによろしくない。
「このベルゲンの国王が、陛下であると全ての者に心から解らせるまで極力隙は見せられないのですよ。」
………それは分かるが、それで国が割れたらどうするのかと言う所は?
それに、腹芸が出来ないと思われているんだよね?
だったら、自分が知らない謀略が最も近い配下の手で進められていると解ったときに動揺し、そこから俺と君らの信頼関係を邪推される可能性の方も心配するべきじゃないの?
と、言った事を内務卿に伝えると、彼は驚いた顔をする。
「………陛下は、良くものをわかって居られる。私も驚かされてばかりです。とても私の孫と同じ年とは思えませぬ。………失礼いたしました。それにつきましては、こちらで陛下のお役目を用意しているのですよ。もしも陛下が動揺を見せた場合は、陛下にすり寄ろうとする者のうち、消えても問題ない者を陛下主導で粛清していただく予定でした。外務卿配下の内、陛下にすり寄ろうとする、ベルゲンの膿と言っても差し支えないような、愛国心の欠片もないクズの中のクズ。無駄に知恵の回る利己心が膨れ上がった俗物。処分しても全く問題の無いもの達………いや、一刻も早く処分すべき者達につきましては、既に目星がついておりますれば。」
おおぅ、内務卿の顔が怖い。
「それを、俺の手によって粛清することで、貴殿らの手綱をしっかり握れているとアピールすると………」
「左様にございます。しかし、今回はそのようなことをせずに済みそうです。流石は陛下。当初の目的通り、奴らに釘をさすことは出来たでしょう。これからは、このような案件を水面下で進めることも減るでしょう。この先、陛下の事後承諾を頂く事が起きないとは、申し訳ありませんが確約いたしかねます。しかしながら、その理由につきましては必ずお伝えすることを誓います。」
「ふむ………取り敢えず貴殿らの目的は解った。納得もしよう。して、その外務卿が目星をつけている者達については、どう対処するのだ?」
と、今度は外務卿に水を向ける。
「ご安心ください、これまで通り彼らが最大限ベルゲンの役にたてるよう、私が責任を持って使い潰しますので。」
三卿の中で一番穏和に見える外務卿………さらっと怖いことを言う。
俺の周りには、ぬくもりが足りてないのではないかと思って、ちょっと寂しくなる今日この頃だった。




