我が国の内情を鑑みるに、その提案は受け入れられない-2
「以上が、このたびの紛争における停戦協定の内容となっております。」
日本からもたらされた、日フェ戦争における逆襲予告から大体一月。
またしても日本から情報が使者が来て、両国間での停戦合意がなされた。
………いや、早くない?
え?占領地域を確保してから、帝都に空挺作戦かけた?何でそこまでこっちに伝えるの?
………これは、いつだって貴様らの首を落とせるぞ、だから変なことすんなよって脅しなのだろうか?
ちなみに合意内容を要約すると、
・フェールデンの主な港は、しばらく日本に貸し出されます。
・港では、フェールデン人も日本の法律で裁かれます。フェールデンは徴税権も手放してね。
・日本もフェールデンも、日本がとった港から100キロ以内に軍隊を置いてはいけません。
・ただし、港町には自衛隊なら居ても良し。
・今住んでいるフェールデン人は、そのまま港に住んでもいいし、住まなくても良いですよ。
・もちろん軍人と貴族は住んではいけません。
・フェールデン皇帝は残念ながら、お亡くなりになったので皇太子(5歳)が後を継ぎます。
・港以外は今まで通り治めていいよ。
………これ知ってる。租界って言うんでしょ?一国でやるには規模デカいけど。
フェールデンは良くこんな内容で合意したなぁ………ひょっとして、敗戦扱いじゃなく停戦にする代わりとして、こんな形になったのかな?賠償金も含んでないし………そう考えると甘くて、厳しい内容にも感じられる。
と言うか、不思議なのはフェールデン皇帝に5歳児を指名しておいて、日本からの政治顧問の受け入れについて言及してないところ。
日本の安全を確保するのがお題目だったんだから、傀儡化くらいはするかもと思っていたんだけどこれは予想外。
本当は顧問の受け入れ秘密にしているのか、本当に傀儡にするつもりが無いのか………わ、分からん。
分からないから、聞いてみよう!
因みに、今回の使者は再び丸山さんです。
何でも、前回の訪日時にウチが丁重に彼をもてなしたのが、彼の功績としても評価されたらしく出世したようだ。
今後は、彼が日本への窓口になるって訳だ。
「して、丸山殿。確か、貴国はこの度の戦争をフェールデンの脅威を取り除く事を目的としておったはずだが………フェールデンに首輪を付けなくても良かったのかね?俺はてっきりフェールデンの解体まではいかなくとも、傀儡とする位はやると思っておったのだが。いや、フェールデンが手強くそれが不可能だったと言うのならばまだ納得は出来るのだ。しかし、貴国はどうやったか知らんがフェールデンの帝都まで行き、皇帝を害した上で停戦を呑ませたのであろう?出来た筈の事をしなかったと言うのが納得がいかんのでな。」
「はい、陛下。これにつきましては、この度の戦争、我が国はあくまで自衛の為の戦争であると位置付けておりました。今回の停戦協定の内容で、その目的は十分達せられた。と言うのが、我が国としての見解です。」
………沿岸部の奪取で、本当に目的は達せられたということか?
「………この大陸に本格的に進出する気はないと言う意思表示にも見えるな。」
「ええ、陛下。我が国日本は平和国家。自ら何処かに戦争を仕掛ける気はございません。ご安心ください。」
「なに、俺はそこは心配しておらんよ。」
俺はだけど。
ほら、あそこに立ってる軍務卿とか、納得出来ない理解できないって思いっきり顔に書いてあるもん。
「だかな、丸山殿。全ての者がその言葉で安心できるのでは無いのだ。軍務卿を見てみよ。ご安心のごの字も出来てはおらんだろう?」
急に水を向けられて軍務卿が焦る。
彼には悪いが、ちょっとダシに使わせてもらおう。
「軍務卿よ、俺が許す。何を思っているか、忌憚なく言ってみよ。」
すると、軍務卿は少し間を開けて
「………はい、陛下。私はこの国に住むものとして、ベルゲンを守る盾としてここに立っております。私が守るべきものは、何も今生きているものたちだけでは御座いません。この国を守る為に散っていった祖霊の矜持、まだ見ぬこの国の子らが過ごすであろう未来。それを守ることが、私の仕事だと考えております。………フェールデンは、強大な帝国です。今は例え押さえ付けられていようとも、五十年、いや、百年かけてでもこの雪辱を払おうとするでしょう。であるから、私としてはその脅威を可能な限り取り除かない日本国にどうしても違和感を覚えるのです。同時に、怒りも。」
軍務卿が、若干プルプルしとる。
あー。ちと不味い。
これは何時ものヤツの兆候だぞ?
「い、怒りですか?」
若干不穏になりつつある軍務卿の発言を遮ろうとしたとき、丸山さんが声をあげる。
い、いかん。タイミング逃した。
「左様。丸山殿、日本国の舵取りを担うものは何を考えているのだ!!何故、見えている危険を取り除かない!貴国の行いは、明日の国民を危険に晒す事なのだぞ!それとも、そんな簡単なことが見えておらんのか!?自らの職責の重さを理解できない出来ない様な者に舵をとらせるな!」
おいバカ止めろ、外国の正式な使者に向かって公式の場で相手のトップを批判とか何考えてんだ。
「いや、し、しかしですね。我が国にも事情がありまして………」
「しかしもクソもあるか!貴国の首相だったか?其奴は国民の手によって、その立場に選ばれたのであろうが!?西田とか言ったか?其奴を選んだ国民は何を考えているんだ!?阿呆に舵取りを担わせれば、自分達の首を絞めることになるのだぞ!?自ら絞首台に向かっていくような制度であれば、そんな制度はとっととやめてしまえ!!」
軍務卿は、顔を真っ赤にしてそこまでいい終える。
い、今しかない!
「ぐ、軍務卿?俺は確かに忌憚なくとは言ったが、丸山殿を怒鳴り付けることまで許した覚えは無いぞ?」
すると、軍務卿は何だか凄くスッキリした顔で。
「これは申し訳ありません、陛下。私としたことが、少し冷静さを欠いていたようです。いや、丸山殿。申し訳無かった。」
「ま、丸山殿。ベルゲン国王たる俺からも謝罪しよう。ここは、どうか穏便に済ませてはくれぬか?」
「い、いえ。日本国の一国民としても、考えさせられる言葉でありましたし。慎んで、謝罪を受け入れさせて頂きます。」
た、助かった。丸山さんがいい人で助かった!
「陛下、少々宜しいですかな?」
「ん?どうした内務卿?」
「ええ、軍務卿の発言から私としても気付かされたことがありまして。」
「申してみよ。」
「陛下、そして丸山殿。この度の、軍務卿の物言い、それこそ国の舵取りを担うものの一人としてはあまりに思慮に欠けたものであるとは感じますが、私もその気持ちが、解らないでもありません。結局の所、そう感じてしまうのは、我々が日本と言う国への理解が足りないためだと考えております。しかしながら、日本と言う国を知るための手段が今の我々には少なすぎるのです。そこでですね、丸山殿。ものは相談なのだが、日本国には、テレビなる世情を伝える便利な道具があると聞いた。ここは一つ、この王宮にだけでもそれを置いてはくれぬか?日本国の、空気を知るための手段があれば、ベルゲンの日本への理解もより進むと思うのだ。」
一気に捲し立てる内務卿。
軍務卿とぐるだったな、こいつら。
こそこそやらんでも、そのくらい俺としては反対しないのに。
「うむ。俺としては賛成であるが。」
「テ、テレビですか………しかし、あれはテレビそのものだけで役に立つ者では無いのですが………」
まぁなぁ、その辺りのインフラが無いもんなぁ。
「勿論、タダでとは言いません。費用は此方で持ちましょう。宜しいですかな、陛下?」
「いや待て、流石に幾らかかるか解らんのに簡単に許可を出すことは出来ん。それに、これは丸山殿の一存で決められる事でも無かろう?」
「………そうですね、流石に私の一存では決められませんので、一度本国にはかってからでないと。」
「では、決まりですな。あ、陛下。そう言えばあれを忘れておりますぞ、例の条約草案。」
おい、さらっと言うなよ。
「う、うむ。丸山殿、ベルゲン王国と日本国で交わしたい条約の草案があるのだが………」
その後?草案は取り敢えず受け取ってもらえましたよ。
何かついで見たいな雰囲気だったけど。