我が国は、貴国の脅迫に決して屈しない‐9
ベルゲン王国。
三方を狂気の大国に囲まれた、弱者達の最後の砦。
その国が、今大きな岐路に立っている………
なんてかっこ良く言ってみたは良いものの、俺は今ちょっと後悔している。
と言うのも、先の国交樹立宣言を受けてお王宮が大混乱している為だ。
そらね、根回しするのに充分な時間がなかったものね。
三卿は勿論、王宮内の貴族達や厳戒体制下にある辺境の貴族達もわざわざ暇を作って謁見に来る始末。
そんな彼らの詰問や諫言に一つ一つ丁寧に答えてゆく。
いや、数が多くてしんどいけどね。
ここで手を抜くと今後、国内に不満分子が大量発生しかねない。発生そのものは絶対に防げないけど、少しは減るだろう。
国内向けにはこんな風に地盤の強化をしておいて、対外向けには早速日本に外務卿の部下を送っている。
送り出される時に見た、使者の目は死んでいた。
ベルゲン王国の使者が死者になって帰ってくる確率はかなり高いからね。
使者を送るのはこちらを嘗めきっている三国のどれかだし、友好的な接触何てベルゲン史上片手で足りるくらいしかないからね。
因みに、普段なら使者には汚職とかで処罰される者が選ばれる。そして、殺されて帰ってきたら戦死扱い。遺族にはお金が支払われる。
まぁ、切腹と似た扱いだ。
しかしながら今回は変なやつを送る理由がないので、真面目で優秀な奴を選ぶよう頼んだ。
エリート街道まっしぐらな未来明るい若者を、王様のワガママで(端から見たら)死地に送る。
そら、目も死にますわ。
そんな目の死んだ彼には、日本に関するありとあらゆる資料を持ち帰るように命令した。
可能であれば、今後定期的に資料を送って貰えるようなパイプの構築も。
その資料を元にして、対日研究チームを立ち上げるのが予定である。
トップは俺自身。
これは日本に関しての知識についてボロが出たときの為のアリバイ作り、そして対日政策を打ち出した時に少しでも国内の理解を得るためだ。
このチームには、内務、外務、軍部から人材を出してもらう。
理解を得るためには、研究チームの成果を周知する必要があるからね。
仲良く纏まってくれるかはまだ解りませんが。
他には、国交樹立後に結ぶ条約についても現在草案を纏めて貰っている。
あくまでも、こちらから提案する物の作成であるが。
安全保障についてはこの草案に盛り込むつもりはない。
ベルゲン国内の反対が強すぎるだろうし、日本もゴタゴタして急がせてもろくなことにならんだろうという判断だ。
まずは、物の輸出入に関する事を最優先だ。
とは言え、現状こちらから差し出せる者は食料品位である。
そして、輸入するものはあくまでベルゲンには無いもの。
国内産業の保護を目的としているので、これは仕方ないが、品目の選定が以外と難しい。
家電とかになるとインフラもセットで必要になるから今はまだ無理だし。
娯楽系の者は何処で何が化学反応を起こすか分からないので保留。
漫画に共産主義について載ってて、そこから赤いベルゲンが爆誕とかなったら、死んでしまいます。
となると、何が輸入出来るか………漁船とかの小さい船?鉄屑?
まぁ、これは内務卿ともしっかり相談ですね。
魔法技術何かは日本が欲しがるだろうけれど、魔法技術は軍事技術とセミイコール。
国防にも密接に絡む事柄だからね。
まぁ、日本人に魔法が使えるかとか分からないけど。
後々研究チームが日本の軍事についてある程度理解すれば解禁にしよう。
そのときは、高値で売っちゃる。
最後に、人の移動。
これも今回はオミット致します。
国内の対外感情は最悪なので、今下手にベルゲンへ日本人に来られると困る。
幕末京都に、異人を放り込む様な暴挙ですので。
なので海側の適当な場所を出島のように開放して、色んな取引はそこでしてもらうとしましょう。
と、つらつらこちら側の事情を並べてみたのだけれど、結局外交は相手の居る事柄ですので、どう転ぶかは未知数です。
ふ、不平等条約じみた要求をされないと良いなぁ。
そして、ここからキナ臭い話になるのですが。
三国に対して、日本との国交樹立宣言を伝えに使者を向かわせました。
こちらは、片道切符が妥当な人材です。
この結果で、各国の反応を見られる訳です。
………このやり方、あれを彷彿とさせるぜ。
そう、鉱山のカナリア。
ドキドキワクワクの結果発表!!
全員首だけが帰ってきましたよ!やったぜ!
ふへへ、これは三国同時侵攻(35年ぶり6回目)も有り得ますよ!
それぞれの国の声明を見てみましょう。
まずはフェールデン帝国。
『ベルゲンと日本国との国交樹立宣言は、我が帝国固有の領土たるガラルド平野(フェールデンとベルゲンのベルゲン側国境地帯)の不法占領を後押しする物であり、我が帝国への挑発行為である。フェールデン帝国は、この挑発行為を断固として認めない。』
こんな手紙が使者の首と一緒に帰ってきたんです。
アウトです。
因みに、ガラルド平野がフェールデン帝国領だったことは今までありません。
次に、ダイアス=ロングランド諸島王国。
『この度の宣言は、我が国の生存圏たるベルゲン近海の安全を脅かすものであり、不要な緊張をもたらすものである。ダイアス=ロングランド諸島王国はベルゲンの血を以てこの宣言に抗議を行う。』
ベルゲン近海って自分たちで言ってるのに、自国の領海のごとき扱い。
お分かり頂けただろうか?このナメられっぷりがベルゲン王国だ!!
さぁ、ラストのボルスト神聖帝国だ!!
『この大陸は、その全てが我々ボルスト神聖帝国が神に与えられた土地である。故にボルスト神聖帝国以外のいかなる国家もその存在を認めない。また、ベルゲン王国を名乗る無法集団は我ら敬虔なるボルスト教徒をその無秩序を以て弾圧する、悪逆非道なる集団である。ボルスト神聖帝国は神の御心に従い、ベルゲンに蔓延る全ての咎人を浄化する。』
要約しよう。
ボルスト教徒以外は人にあらず。
取り敢えずベルゲン王国とか言ってる奴から殺す。
他の奴は後から殺す。
ふえぇぇ。こいつら、話が通じないよぉ。
………まぁ。いつも通りの対応ですね(震え声)
まぁ、各国の言いたいことを纏めるとこうなる。
『ベルゲンは大人しく死ね。』
表面上は今までと違う理由を作っているが、三国ともベルゲンに大人しく死んでほしいのである。
………よっしゃぁ!そんないちゃもん怖くねぇよ!
纏めてかかってこいや!!
俺たちがタダで死ぬと思ったら大間違いだぞ!いくら脅したって無駄じゃボケェ!皆、俺を残して死ね!!
こんな意味の言葉を、三国に伝える。
この異世界での恒例行事である。