乙女ゲームのヒロインに転生したけど私には大好きな婚約者がいるので悪役令嬢はさっさっと戻ってこい!?
皆さんお久しぶりです。レイラ・フロアレットです。現在私はこのゲームの悪役令嬢であるセレナ・アロマンド公爵令嬢から呼び出しを受けて糾弾されています。
「よろしいですか。レイラさん、貴女のような身分の低い令嬢が王子の側に居るのははっきり言って迷惑です。それにレイラさんは王子だけでなく他の方もたぶらかしていると噂されていますよ。そんな不埒な行動をする生徒はこの学園にふさわしくありません。即刻態度を改めてください」
セレナさんは先程から自分の言いたいことを話しています。このセリフは先週も聞きましたよ。何回同じことを言うつもりでしょう。ですが、私は文句を言いたいのをぐっと堪えて、セレナさんの話しが終わるのを待ちました。
今日はいつもの私ではありません。攻略者達から逃げるために色々と考えた結果、悪役令嬢であるセレナさんに協力してもらうことに決めました。
そのために、どんなに反論したくても私は耐えます。攻略者達のせいで、私がレオン様と会える時間が減ってしまったとか、王子がした贈り物の中に、この国の王妃に贈られるはずのティアラがあり王子を殴りかけたとか、全部ぶちまけたいですが我慢します。
これもおとなしい令嬢を演じて、こちらの要求を通りやすくするためです。そう自分に言い聞かせること1時間。私の我慢もそろそろ限界に達しそうです。
「分かったら、もう2度と王子達に近づかないでくださる。言っておくけど、今日のことを誰かに話したら許しませんからね」
やっと話しが終わったようです。ここからが私の腕の見せどころです。頑張ってセレナさんに私の要求を聞いてもらうのです。
「セレナ様がおっしゃることも分かります。ですが王子達と接触するな、というセレナ様の要求を飲むことは私にはできません」
「どういうことです」
セレナさんが怖い顔で私を睨みつけています。流石は悪役令嬢ですね。怒った顔の迫力はその辺にいる人と比べものにならないくらい怖いです。まあこのくらいで怯む私ではありませんがね。
「私に近づく攻略…じゃなかった王子様達は私の魔法や頭脳に興味を持っています。なので私が王子様達から離れたところで、彼らの方から私の元にやって来るのです。私には王子という身分の高い方をむげに扱うことが出来ないのです」
ここでやんわりと王子達に恋愛感情がないことを伝えます。ついでにセレナさんも王子の身分を出せば、私に意見を言いづらくなるはずです。
男爵令嬢の私が王子に簡単には逆らえないことはセレナさんも分かっていますからね。
実際にセレナさんも、私に反論をしてきません。ですがセレナさんの性格から、さっきの私の言葉を聞いて罵詈雑言をぶつけることはないとは思っていましたが、歯を食いしばって涙目になるとは予想外です。
なんだか凄い悪いことをしている気分になりますね。ごめんなさいと、心の中で謝罪をします。ですがこれはセレナさんの為でもあるんです。そう自分に言い聞かせて言葉を続けます。
「ですから、私と勉強をしませんか」
「えっ?」
セレナさんが、キョトンと首をかしげました。可愛いですね。もうこの人がゲームのヒロインでいいと思います。ゲームでもセレナさんは弱い自分を隠すために、わざと強気な口調でヒロインをいさめるキャラでした。
しかもセレナさんはお父様の命令で、ヒロインに辛くあたりますが、家に帰ると自分の部屋で謝りながら1人で泣くという設定を持つ心の優しい人なんです。
今回私が攻略者達から逃げるために考えた作戦とは、そんな可哀想なセレナさんも救い、なおかつ自分も攻略者から離れられる作戦なのです。
「いいですかセレナ様。王子が私に興味を持たれた理由は、魔法の実技で王子を上回ったからです。なので今日からセレナ様には、私の弟子として魔法を極めてもらいます。そうすれば、王子の興味もセレナ様に移るはずです」
「なるほど、分かりました。私は王子の婚約者ですわ。王子が自分よりも優秀な人間を好まれるのならば、私は精いっぱい努力しますわ」
セレナさんがやる気になって良かったです。私の作戦とは、セレナさんを私より優秀な人材に仕立てあげ、周りが王子と婚約破棄を許さない雰囲気を作り上げること。
そして、セレナさんの良さを攻略者達に知ってもらい、セレナさんに逆ハーを押し付けるというものです。
「それでは、図書室に行って勉強を開始しましょうか」
「ええ、よろしくお願いいたしますわ」
王子達と私を引き離そうと息巻くセレナさんを横目で見ながら、レオン様とラブラブできる日は遠くはなさそうだとこの時は思っていました。
「王子と婚約破棄するってどういうことですか!!」
「どういうことと言われましても、言葉の通りですが?」
私はセレナさんと2人でいつものように図書室で勉強していると、セレナさんが突然王子と婚約破棄をすると言い出しました。
セレナさんとは毎日色々なことを話す友人になりました。口調も優しくなり、セレナさんのことはよく分かっているつもりでしたが、いったい何があったんですか。
「レイラ様と仲良くさせてもらって私も色々と考えたんです。私では王子の隣にはふさわしくないと……、レイラ様が教えてくださる魔法は、この国でも群を抜いて素晴らしいものでした。私などレイラ様の魅力の半分もないのだと痛感いたしました」
「そんなことはありません。セレナ様は充分魅力的です」
なんだか嫌な予感がします。確かに私がセレナさんに教えた魔法は、私の前世の知識を使ったチートな魔法でした。
たとえば、火の魔法はガスバーナーをイメージして、青い炎やオレンジ色の炎を出せます。それを使い、戦いで相手の恐怖を煽り試合に勝ちました。
この世界では、赤い色の火しかなく、青やオレンジの炎を最初に魔法の先生に見せたときは、驚きのあまり先生が気絶しました。
土の魔法だと肥料を作りだし、野菜を美味しく作る薬として農家の方に渡して感謝されました。
だけど緑の女神だと、農家の人に拝められたときは顔がひきつりました。
ですが、この世界の人も私のチート魔法を使えない訳ではありません。現に、セレナさんは時間はかかったものの、チート魔法を修得しています。
せっかく王子の婚約者としてふさわしい実力を付けたんですよ。なんでセレナさんは急に婚約破棄することに決めたんですか。
「ですが、私にはレイラ様のように自分で新しい魔法を作りだすことは出来ません。この国をより発展させるには、レイラ様のような方がこの国の王妃になった方がいいのです。それにご安心ください。レイラ様を王妃にするための準備はこちらで進めてありますわ」
「へっ」
「その通りだレイラ。もう俺たちの結婚を反対する者はいない。安心して俺の妻となれ」
「何を言っているんですか。彼女の才能をいかすには、宰相の妻が1番に決まっているでしょ」
「2人ともケンカはダメだよ。それにレイラは僕のなの」
「あの…その…」
ドアを壊すような勢いで攻略者達が一斉に入ってきました。これはどういう状況ですか。目の前の光景に頭がついていきません。
私は倒れそうになるのを必死に堪えながら攻略者達を見ました。彼らはいつも以上に目をギラギラさせて私を見ています。
本当になんなんですか。早く説明をプリーズ。
「セレナからレイラの活躍を全て聞いた」
「ええ、王子の婚約者であるセレナ様に魔法を教えるとは、本当にあなたは優しい人だ」
「レイラ様から教わった魔法はどれも素晴らしく、お父様に見せたらとても喜んでくれたんです。それで公爵家の評判も良くなってお父様がレイラ様にお礼をしたいと申し出てくれたんです」
「そのお礼っていうのが、レイラを公爵家の養女に迎えて王子の婚約者にするっていうものなんだけど…、婚約者にはならないでいいから、レイラは公爵家の人間になってよ」
「レ、レイラの魔法…しゅ、周囲の評価が高い」
……つまり全員の話しを要約すると、私の魔法のお陰様でセレナさんはお父様と仲直りしたと。
確かゲームでは、セレナさんのお父様は顔がとても恐い顔立ちをしていて、周囲から誤解されることが多かった。そのため、小さい頃から友人が少なく寂しい思いをしていた。
セレナさんに私を排除するように命じたのも、王妃にセレナさんがなれば、自分のように悲しい思いをしなくて済むからという理由だったはずです。王妃になれば、たくさんの人が寄って来ますからね。
だけど、私の魔法のお陰様でセレナさんだけでなくお父様の評価も上がり、2人とも友人がたくさん出来た。
お父様は私に感謝して、お礼に私を養女にして王子の婚約者に推薦したい。そういうことですよね。
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「なんでそんな話しになるんですかー!!」
「レ、レイラ様!?」
どうして、思い通りに進まないんですか。攻略者と結ばれるのが私の運命とでもいいたいんですか。冗談ではありません。私はそんなこと1度も望んでいません。
私は攻略者達を睨みます。よく私の表情を見やがれ、攻略者共。これが、喜んでいる人の顔に見えますか。私が攻略者共に興味がないのを分かれよ。
「レイラの照れ隠しは独特だよな。まあ、そんなレイラもかわいいがな」
「さすがシド王子ですわ。レイラ様のことをよくわかっているんですね」
「当たり前だろ。好きな人のことは何でもわかって当然だ」
「分かっていませんから」
だ・か・ら、何をどう判断すればそんな結論がでるんですか。あんたは私のことをちっとも理解していないわ。
セレナさんも納得しないでください。愛の力でも何でもない。シド王子はセレナさんに変なことを吹き込むな。
「そうですよ。何をおっしゃっているんですか。誰が見てもレイラさんが怒っているのは一目瞭然ではないですか」
珍しく私のことを理解しているなネナートよ。そうだ、もっとこのあほ王子に言ってくれ。
「レイラさんは勝手に王子の婚約者に決まったことを怒っています。なぜなら、彼女は私を愛してくれているからです」
「愛してなんて「そうなんですか。レイラ様はみずくさいです。親友の私に好きな男性を秘密にするなんて。私はレイラ様が誰が好きでも、その恋を全力で応援しますわ」」
セレナさんが私の手を取って、私を見つめてきます。私がいつネナートを愛していると言ったんですか。
セレナさんに台詞を遮られ、否定する機会を失いましたが私には他に好きな人がいますから。レオン様ラブですから。
「そんな訳ないよ。何度も言っているよね。お姉様は僕と暮らすと約束したの。お姉様が好きなのはこの僕なの」
「まあ素敵な約束ですわね」
「僕とお姉様は愛しあっているんだ。だけど、兄弟で結婚が出来なくて困っているんだ」
「レイラ様を私の家の養子にして、婚約者をハルイン様にすれば結婚できますわよ」
「私はとってハルインは弟だから。それ以上でもそれ以下でもないから!?」
セレナさんは攻略者の言葉を信じすぎです。ハルインに言いたい。私も何度も言っているが私があなたと一緒に暮らすと約束した覚えはない。
ハルインは結婚しようと言わない分、まともだと思っていたけど、怖い。全身から黒いオーラが出ている。絶対にこのチャンスを逃さないって、考えているだろ。
「レイ、ラ疲れてる。ぼく心配」
「レイラ様大丈夫ですか。今すぐ医者を呼びましょうか」
……ルイ君は私の癒しです。1人だけでも、私を理解してくれる人物がいることに、涙が流れそうです。
だけどセレナさんは心配しすぎです。わざわざ国1番の医者を呼ぶ必要はありませんから。他の攻略者も私が愛しているのは自分だと言うのはやめてください。
この収集がつかない事態に思わず溜め息が出そうです。
「シド王子いらっしゃいますか?レオンです。シド王子が自分に用があると聞いてきました」
「ああ、入れ」
「失礼します。あれ、レイラも居たんだね。最近は忙しくて会えなかったから、心配していたんだよ」
「レ、レオン様!?」
タイミングが悪すぎます。シド王子がレオン様をこの部屋に呼んだ理由が予想できて怖いです。
「レオン、貴様に命令する。この場でレイラとの婚約を破棄しろ」
「ふざける……冗談はやめてください」
危ない。レオン様の前で素を出すところだった。というかシド王子は何を言っているんですか?
私は絶対に婚約破棄しませんから。
「レイラさんを解放してください」
「そうだよ、お姉様は君みたいな人に絶対に渡さないから」
「レイ、ラには、す、好きな人、と結ば、れてほしい」
無理矢理に婚約破棄させようとするな。攻略者達に一発ずつ魔法をぶつけてやりたいです。(ルイ君を除く)でもレオン様の前で粗相は出来ないし…、どうしたらいいんですか。誰か教えてください。
「分かりました。お父様達には僕からお話ししておきます。レイラは僕よりも、他の人と結婚した方が幸せになれるよね」
「待ってくださ「そうと決まれば、レイラ様のお父様達に報告に行きましょう。善は急げですわ」」
私が止める暇をあたえず、セレナさんがレオン様の手を取って部屋から出ていきました。
慌ててセレナさんを追いかけようとした私の前に攻略者が立ち塞がります。
「レイラ、告白の返事を聞かせろ」
「私の婚約者になってくれますよね」
「ずっと一緒にいようね。お姉様」
「こん、な僕でも、頑張るから、僕の、婚約者に、なって」
なんで思い通りにいかないの。攻略者を諦めさせるどころか、事態が悪化しているんだけど。レオン様が私の幸せを願ってくれたのは嬉しいですが、婚約破棄されたら幸せになんかなれません。
「お前ら本当にいい加減にしろ!!」
どこで選択肢を間違えた。あそこか。セレナさんを悪役令嬢の役からおろしたところか。私は八つ当たりに攻略者達に攻撃します。(ルイ君は除く)
「爆炎」
「流石は、レイラだ」
最後にシド王子が気絶して、八つ当たりができる相手がいなくなりましたが、私の苛立ちは納まりません。
「私はレオン様が好きなの。セレナさんはさっさと戻ってこい!!そしてレオン様と2人で婚約について話させろ!!」
そう叫んで、溜まるに溜まったストレスを発散させると、慌てて2人の後を追いました。
「絶対にレオン様と結婚するんだから」
次の攻略者達の対策を考えながら、私は学校の廊下を走った。