不安
「はぁ、はぁ、はぁ……」
駅とは反対側にある公園にある広めの藪に2人はいた。
「佐藤君、はぁ、ごめんね。はぁ、はぁ……」
息を切らしながらも周囲を見渡しつつ、大臣が佐藤に謝る。
「っはぁ、何とか逃げられたし、まあぁ、いいってことよっ。」
大臣が地の利を活かしてうまく不良を撒いて何とか逃げ切れた。
「しかし、お前、あんなのにいじめられてたとはなぁ……」
大臣は振り返らない。さっきよりも震えている。
「うん……
高校に入ってからはなくなってたんだけどね。」
「そうかぁ……。とはいえ、どうする?」
「僕が様子を見に行くよ。大丈夫そうなら携帯に連絡するから、そしたら駅に向かって」
「でも、それじゃ、お前がまた危ないじゃないか」
「もともと向こうの狙いは僕だけだし、佐藤君を巻き込むわけにはいかないよ。
それに、また会ったとしても逃げればいいし」
「とはいってもよ……」
「ちなみに、ここは安全だよ。昔からここにいて見つかったことないから。
そんなことより……」
少し間を置き、佐藤に背中を向けたまま、何かに踏ん切りをつけたように背中に力を込めて大臣は言葉を追加した。
「僕のこと嫌いにならないでね……」
同時に大臣は飛び出していった。
「あ! 待って」
佐藤はすぐに追おうとしたが、大臣があっという間に見えなくなり、仕方なく連絡を待つことにした。
逃げているときも感じたが、大臣は見かけによらず足が速かった。クラスで計測した時は自分の方が早かったのだが、あれも大臣が手抜きしていたのだと思った。
1人になると、安全だと言われたこの藪も不気味な感じがして、じっとしているのも怖くなり少しだけ周囲を散策した。
基本的に同じような木が立ち並んでいるが、奥に一際幹の太い木があるのが見えた。
「すげぇ……」
近づいて思わず声が漏れた。
確かに太く大きな木ではあるのだが、幹の下の方は外側の皮がめくれて幹の内部があらわになっている。
バットか何かでひたすら殴打されたような様子だが、何回叩けばこんな状態になるのか想像ができないくらいの傷だ。
木に触れてみる。
「!!」
近くから声が聞こえたような気がした。
周囲を見たわしてみるが、誰もいない。
「若人よ……」
やはり聞こえる。
「若人よ……」
上だ! 声のする方を見る。
大木の上方の枝に影が見えた。
「気づいたか。若人よ」
目が合った気がした。やばい。よくわからないけど、とにかくやばい!
背筋が凍るよう冷たくなっていく。
先ほど不良たちに絡まれたとき以上の恐怖を感じた。
「うわああぁあぁぁぁ!!!」
佐藤は一目散に逃げ出した。既に大臣との約束は頭から消え去っていた。




