終章
「おはよう! ヒロオミ」
「あ、おはよう。佐藤君」
校門の前で佐藤は大臣を見かけて声をかけた。
事件があってから1週間経過していた。佐藤は自分の聴取が終わった後、逆に警察官を質問攻めにして困らせていた。捜査に関する情報のため、詳しくは教えてくれなかったものの、神野がある組織の命令で今回の事件を起こしたということだけ教えてもらったそうだ。後々の佐藤の調べで、大熊も同じ組織の一員ということが判明した。
一方、大臣は相変わらず誰からも注目されないような生活を送っていた。弾正や先生に対する口止めをしたり、神野失踪の謎めいた噂話を流すなど佐藤の功績が大きい。
大臣が感謝を伝えたとき、「誰かを守るために真実は闇に葬ることもあるよなぁ」と佐藤は遠い目をしながら言っていた。
「いやぁ、全身が痛いぜ……。あのおっさん中間テスト中だって言うのに容赦なしで修行させるんだから……」
「あはは。師匠も佐藤君が弟子になってくれて嬉しいんだよ」
「お前は大丈夫なのかよ?」
「うん。僕はあれくらいなら」
「マジかよ。同じように動いてたはずだけど……。すげーな」
校舎に入り、下駄箱が見えたとき、佐藤が吹き出して笑った。
「え?」
大臣も自分の隣の下駄箱を見て、困ったような複雑な表情をした。
クリーニングの袋に包まれた学ランが隣の下駄箱に押し込まれるように詰められている。
佐藤はそれを見て、あの子は純粋過ぎるド天然なんだろうなぁと思った。
大臣は隣の下駄箱からはみ出た学ランをよけるように下駄箱を開ける。
「!?」
一瞬動きが固まった大臣を見て佐藤が大臣の下駄箱を覗き込んだ。
「げっ」
下駄箱には1通の可愛い封筒が入っていた。
「はぁ」
大臣がため息をつく。
本物のラブレターでも、果たし状でも、誰かの間違いで入っていても、もうこりごりだった。
「こりゃまた、事件の予感ですな……」
佐藤はにやりと笑みを浮かべながら大臣の脇腹を肘で小突いた。




