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体育館の裏ってどこですか?  作者: 佐々木コジロー
16/17

本当の行き違い

「お疲れさん。助けてくれてありがとうな」

 佐藤は大臣の肩を叩いた。

 大臣の身体はまだ震えていた。

「う、うん……」

 絞り出すような声が出た。

「どうしたんだよ?」

 大臣は答えない。

「今回はうまく手加減できたんじゃないか?」

 突然精霊が言葉を発した。

「うおっ! おっさん。いきなりしゃべんないでよ。びっくりするだろ?」

 精霊が肩の上でうなだれる。

「お主……」

「っていうか、切羽詰まっててあんまり気にしてなかったけど、おっさんなんでヒロオミのこと知ってるのさ?」

「当然じゃ。ワシの弟子だからの」

「は?」

「中学でいじめられておったヒロオミに戦う力を伝授したのはワシじゃよ」

 疑ってかかろうともしたが、自分も精霊の言葉で取り巻きの攻撃をかわしたことを考えると、実は本当なのかもしれないと思った。

「いじめられていた相手を返り討ちにして大怪我を負わせてからはほとんど会ってもいなかったがの……」

 なるほど。

 大臣が執拗に目立たないようにしていたのは、いじめられていたからではなく、自分が人を傷つけるのを恐れたためなのかもしれない。

「ヒロオミ……」

「結果的に誰も大怪我しておらん。この若人も助かった」

「そうそう! お前が来てくれなかったら、どうなっていたことか。マジで助かったよ」

「佐藤君……。師匠……」

大臣が少し顔を上げる。

 変わらず顔色は悪く震えているが、少し安心したような様子がうかがえる。

「とはいえ、こんな強いことオレに隠してるとはなぁ……」

「……ご、ごめん……」

「いやいや、オレの情報収集力もまだまだだなぁ……」

「ん? そこ……?」

「あ! ばれて友達じゃなくなったら? とか考えてた? そんな訳ないだろ?」

 佐藤は肩をすぼめながら話す。明るい口調だ。

「佐藤君……」

 大臣の顔色が少し戻ったような気がした。

「というわけで、晴れてお主らは兄弟弟子となったわけだ」

 精霊は嬉しそうだ。

「はぁ? 兄弟弟子?」

「うむ。お主、先ほど良いものを授けると約束したじゃろう? お主にもヒロオミと同じ力を授けよう」

「へぇ? さっと力くれる訳?」

「何を言っておるんじゃ? 厳しい修行を乗り越えてこそ身につく力ぞ!」

「はぁ? 何それ? それじゃあ普通のおっさんと変わらないじゃん! 精霊っていう設定もっと活かしてよ?」

「何を言っておるんじゃ? さっきのヒロオミを見たじゃろう? 常人じゃ身につかない力ぞ!」

「ははは。冗談だよ。今回の件でジャーナリストたるもの、危険にも身を置くことを前提に鍛えておく必要があることも痛感したし、宜しく頼むよ。おっさん」

「師匠と呼べ。師匠と」

「まぁ、そのうちね」

「ははははは」

 3人は声を出して笑った。


「うぅぅん」

 艶めかしい女性の声がする。

 月下美桜だ。

 大臣が月下美桜の方を振り返ると、いつの間にか弾正が介抱していた。

「月下さん? 大丈夫?」

 弾正が月下美桜の上半身を抱きかかえて声をかける。

 声に気付き月下美桜が目を開けた。

「檀上、君?」

「大丈夫?」

「う、うん……。きゃ!」

 我に返った月下美桜はすぐさま弾正から離れ、自分の力で立ち上がった。

 顔が紅潮している。視線も弾正から少し斜め下を見ているようだ。

「あ、上着は脱がない方がいいよ」

 かけてある学ランを指さして弾正が言った。

 気づくと弾正も学ランを脱いでいる。

 大臣は月下美桜の向こうに自分の学ランが落ちているのが見えた。

 まさか、弾正があえて取り替えたのだろうか……。

「あ、うん……。ありがとう……。助けてくれたの?」

「う、うん」

 月下美桜が上目遣いで弾正の方を見て目が合ったような形になった。

 なにやら怪しい雰囲気になる。

「あ、あの……」

 月下美桜が何かを口にしようとした、そのとき。

「ちょっと待ったぁ!」

 佐藤が割って入った。

「月下さん、あ、あの手紙って、君が書いたんだよね?」

「!?」

「あ、いや、送り主の名前がなかったから、オレが調べたっていう経緯ね……。用があるのは財津の方でしょ?」

「え?」

 月下美桜が驚いた表情を見せる。大臣と佐藤がいることを認識した驚きなのか、手紙に名前を書き忘れていたことに対する驚きなのかは分からなかった。

「あ、え? 佐藤君……」

 大臣はいきなり自分に出番が回ってきてたじろいでいた。

 心の準備ができていない……。

「はぁ? 佐藤何言ってんの?」

 弾正は割り込んできた佐藤にいらだっている様子だ。

「え? 私……、檀上君の下駄箱に入れたつもりだったんだけど……」

 たじろぐ大臣も、いらだつ弾正も無視し、月下美桜は予想外の一言を告げた。

「え、えぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!」

 さすがの佐藤も驚きを隠せなかった。

 これだけの事件に巻き込まれながら、月下美桜がラブレターを入れ間違えただけだった……。

 そして、やっぱり大臣は月下美桜の眼中になかった。

 大臣は口をぱくぱくとさせながら声なき声を上げている。

 弾正はいらだちから一転、勝ち誇ったような顔になった。

 佐藤は弾正のその表情を見て、一矢報いようと思った。

「いやいや。え? まぁ、確かにヒロオミと弾正の下駄箱隣だけどさ……。

 でも、今回の一件は完全にヒロオミのおかげで助かったもんだよ。弾正は先生とか警察呼んだだけだし。」

「え?」

 再び月下美桜が驚く。

「弾正君、さっき助けてくれたって……。嘘、ついたの……?」

 月下美桜の瞳が潤む。

 弾正の小賢しい部分を感じ取ったようだ。

「あ、いや、成り行き、というか、ね」

「ありがとう……。さよなら」

 しどろもどろする弾正を見ながら、涙を浮かべ、月下美桜が走り去っていった。

「あ、待って……」

 弾正は追いすがろうとするが、すぐにあきらめた。

「んー、まぁ、今日のところは2人とも振られた形だなぁ……」

 佐藤はうんうんと頷きながらそういった。

 弾正は佐藤の方を睨んだが、佐藤はその視線を少し小馬鹿にした表情で軽やかにかわした。

「お前の方がまだチャンスあるよ。ヒロオミ」

 そう言ってうなだれる大臣の背中をぽんぽんと叩く。

 大臣と弾正を交互に見る。

 明らかに落ち込んでいるが……、やることはやらねばならない。

「んじゃ、警察でも行きますか、ね」

 いろいろと傷を負った3人は事件の現場をあとにした。


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