豹変
「や、やめなさい。警察を呼ぶぞ」
体育教師は神野達に少しずつ近づいていくものの、明らかな及び腰だった。
神野はフンと鼻を鳴らす。
「余計なやつも増えてきたし、お前らもそろそろ片付けてしまいな」
神野は取り巻きに指示を出した。
また取り巻きが佐藤を蹴り飛ばす。
「さて、お前ももうくたばりやが……」
取り巻きから大臣に視線を戻そうとしたとき、異変を感じた。
少し前に殴って身体をよろめかせていた大臣が直立不動で立って神野を睨んでいる。
その視線には強い意志を感じ、今までの自分の攻撃が相手にほとんど効いていないことを悟った。
「やめろ……」
いつもの気弱で物腰柔らかな大臣からは想像もできないくらい、相手を威圧するようなドスのきいた声だ。
フンと鼻を鳴らしながらも神野は身動きできなかった。普段の喝上げと状況が違うことを感じ、取り巻き2人が佐藤から離れて神野の元にやってくる。
「神野さん……」
「お、お前ら! 何やってんだ! そいつもさっさと潰してしまえ!!」
「は、はい……!」
神野の指示に従い、少し戸惑い、腰が引けながらも、取り巻き2人が大臣に襲いかかった。
「う、うぅ……」
全身に痛みを感じながらも、佐藤は意識を失ってしなかった。
まずは右手をポケットに入れる。
大丈夫だ。
そして、背中の痛みをこらえながら、上体を少し起こして周囲の状況を把握した。
月下美桜は、変わらず横たわっているが、佐藤が取り巻きを引きつけたときから状態が変わっていないように見える。おそらく大丈夫だ。
弾正と先生は離れたところであたふたと慌てふためきながら、先生の携帯をいじっている。あいつ、空手の有段者とか思いっきりデマかよ。オレの情報収集力もまだまだだな……。
そして、大臣は今まさに取り巻き2人に暴行を受けようとしていた。
「っ……!!」
逃げろと叫ぼうとしたが、身体が痛くてすぐに声が出なかった。
「大丈夫じゃよ。あんな奴ら。ヒロオミが本気になったようだしの」
精霊の声が聞こえた。
「お? 聞こえたようじゃの。お主もよく頑張った。後は見ておれ」
こいつさっきもヒロオミが大丈夫だのなんだの言ってたけど、ヒロオミの何を知っているんだ?
しかし、精霊の言っていることは正しかった。




