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体育館の裏ってどこですか?  作者: 佐々木コジロー
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蹂躙

「ま、待って!」

 大臣が体育館の西側に回ってきた。

 神野鉄拳とその取り巻き1人に体育館の壁に押さえつけられる月下美桜。

 少し離れて地面にうずくまる佐藤と近くに立つもう一人の取り巻き。

 そして、佐藤の肩にはなぜか師匠が乗っている。

「月下さん、佐藤君……」

 佐藤は大臣の声がした方を見る。やはり、大臣が来てしまった。

 みんなやられてしまう……。

「ヒロオミ……。すまん……」

 弾正への果たし状が体育館の裏を指定していることに気づいていればもっと他の作戦が立てられたのに……。自分の見立てが甘かった。

 佐藤はそんなことを考えていると、今度は腹部に衝撃を感じた。

「黙れ!」

 取り巻きがうずくまる佐藤を蹴り飛ばしたのだ。

「うぐっ!」

「佐藤君! やめて! 彼は関係ない!」

「あぁ!!?」

 今度は神野鉄拳が大臣の方を向いて近づいてくる。

「お前が財務大臣か?」

「そうだよ。僕が財津大臣だ」

 神野鉄拳の口角が上がる。

「そうか。そうか。お前がそうか……。やっと見つけたぞ」

 神野鉄拳はそう言いながら大臣に近づいてきた。

 大臣は後ずさりせずに神野をにらみつける。

「僕が狙い、なんですね?

 だったら僕以外はすぐに解放してください」

 自分の中にある勇気を全部振り絞って声を出す。もはや右手だけでなく、全身が震えているのが自分でもよく分かった。

 しかし、神野は大臣の理屈が通用する相手ではなかった。

「はぁ!?

 お前何言ってんだ!?

 俺がなんでお前の指図を受けなきゃいけねぇんだ!?」

 空気がピリピリしているのを感じる。

 でも、ここで引き下がるわけにはいかない。

 高校に入って初めてできた友達と、初めて好きになった人を見捨てることはできない。

「他の人は、解放、してください……!」

 何とか声を絞り出す。

 しかし。

「うるせぇ!」

 神野はそう言って一足飛びに近づいて大臣を間合いにとらえた。

 大臣は反射的に間合いをはずそうとするが、また発作が起こり、うまく足が動かせない。

 腹部に神野の右の拳がめり込む。

「!! かはぁっ!」

 大臣は思わず声を漏らして前屈みになる。

 しかし、神野の攻撃は止まらない。

 低くなった大臣の頭目がけて左の回し蹴りが炸裂した。

 大臣の頭は放物線を描きながら身体を引き連れて地面に落ちる。

「お前みたいなカスのせいで、俺の立場が危うくなるところだったんだぞ! ふざけやがって!」

 神野は追い打ちをかけようと蹴り飛ばされた大臣に近づいてくる。

「きゃーー!!」

 殴り、蹴り飛ばされ、ピクリとも動かない大臣を見て月下美桜が再び悲鳴を上げた。

 神野は月下美桜の方に振り返り、一睨みした。

「黙らせろ」

 取り巻きが反応する。

「神野さん、こいつ月下美桜ですぜ。」

 取り巻きがにやけながら神野に進言した。

「好きにしろ。俺のマトはこいつだ」

 神野の指示を聞いて興奮する取り巻き。いつの間にか、佐藤の近くにいた取り巻きも月下美桜の近くに来ていた。

「うへへへ」

「悪く思うなよ。こんなところにいたお前が悪いんだ」

 取り巻き2人は鼻の下を伸ばしながら月下美桜の身体に手を伸ばす。

 1人の取り巻きの手が月下美桜の胸をわしづかみにする。

「んー。んー」

 月下美桜は抵抗し、叫ぼうとするが、男2人がかりで押さえつけられている上、口もふさがれているため、何もできなかった。

「いかん! 女子が嫌がらせを受けておる! 若人よ。立つのじゃ!」

 佐藤は顔面や腹部に受けたダメージが徐々に引いてくるのを感じていた。身体が痛みになれてきただけかもしれないが、少し、頭が回ってきているのを感じる。

 同時に、精霊の声が聞こえるようになってきていた。

「うるさいよ」

 そう言いながらも佐藤は立ち上がった。

 大臣は神野の追撃を受けそうだ。

 月下美桜は2人に絡まれ、服がはだけてきていた。

 どちらを助けに行っても力になれるかわからないが、どちらもすぐに助けが必要な状況だった。

「ヒロオミなら大丈夫じゃ!」

「!?」

「あの程度の攻撃ではへこたれん」

「いやいや、あんたがあいつの何を知ってるんだ? どう見てもやばいだろ、あれは……」

「あやつはワシの弟子じゃからな。攻撃される分には問題ない。それより女子を助けにいかんかい!」

「意味わかんねぇよ! でも……」

 正直神野鉄拳に自分がかなう姿は全く想像できなかった。

「悪い! ヒロオミ!」

 そう言って、月下美桜の方に向かった。

「おい! やめろよ!」

 取り巻き2人が佐藤の声に反応して振り向いた。

 やっぱ2人は厳しいよなぁ……。先生呼びに行った方が良かったか?

 そんなことを考えていると、取り巻き2人が月下美桜を離してこちらに向かってきた。

 月下美桜は気を失って崩れ落ちた。

「よし! あとはお主がこやつらを叩きのめすだけじゃ!」

「いや、無理だから……」

「何ぶつぶつ言ってんだ!?」

 取り巻きの1人が襲いかかってきた。

「左じゃ!」

 佐藤は耳元で発せられる勢いのある声に反応し、とっさに指示通り上体を左に傾かせた。 結果的に取り巻きのパンチをかわす。

「次は右じゃ!」

 今度は右に上体を倒す。連続で繰り出された攻撃もかわすことに成功する。

 これは! 精霊の指示に従えば、取り巻きの攻撃をかわせるかもしれない。

「何安心しとる! しゃがめ!」

 気づくと視界がもう1人の取り巻きの足の甲だけになっていた。回し蹴りだ。

 先ほどの大臣のように佐藤の身体が地面にたたきつけられる。

 あまりの痛みに、思わず両手で顔面を押さえてうずくまる。

 しかし、取り巻き2人は、うずくまる佐藤に対して踏みつけたり、蹴飛ばしたり、暴言を吐き捨てたりと攻撃の手を緩めなかった。

「若人! しっかりせい!」

 再び精霊の声が薄れていくのを感じた。


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