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異能X  作者: さかまき
19/24

19話

 室内に流れ込んだ男達は、禿頭白衣の腕をひねり上げる。禿頭白衣がひい、と喉から絞り出したが、ナイフを突きつけられて顔面を頭部まで蒼白にしながら黙り込んだ。

「いやぁ、なるほどなるほど。あなた、電気の異能者ですね?」

 扉を抜けてくる男達。洞窟内で出会った男達であった。そして、その男達を掻き分け現れる一際小さな男。声の主がこの男であることは明白である。

「首筋に直接電圧ぶち込んで失神させるなんて、なんとも恐ろしい。弾丸は、放電で点火させて飛ばした? ふむ、投擲と合わせてもそこまで威力が出るとは思えませんが……」

「お久しぶりですねぇ。いつから見ていたのかわかりませんが、ご高説痛み入ります。んで、こんな所になんでいるんですかねぇ? サイディスさんとやら」

「おや、名前を知っている? ふむ、阿豆内はきちんと覚えてくれていたのですね?」

 ブラウンの髪を揺らしながらさも愉快そうに手を叩く。相変わらずのその空々しい演技染みた動作である。絵瑠はそれを見ながら、敵対とそれに近似値の不愉快そうな表情をしたまま銃を構えながら連慈に近づいてきた。

「答えになってませんぜ? それに右腕。あれですか、ご親戚に蛇か蜥蜴でもいるんですかいね」

「いやはや失礼。親戚に友人のような特別な細胞の持ち主はおりませんから気にしないでください。ここにいる理由も簡単ですよ。面白そうなものにハエのように集るのは人間の性質さがではないですか」

 クツクツと笑うと、腕を大きく振り上げる。絵瑠の指が千分の一ミリほど引鉄を動かし、それを見咎めたサイディスの部下の一人が絵瑠にライフルの照準を合わせる。

「こらこら。我らと彼らに戦う理由などありませんよ。どうぞ、そちらの御嬢さんも銃を下してください。ここにいた敵性戦闘員はあらかた片付けてあります」

 部下は何のためらいもなくライフルを下す。訓練の賜物なのか、サイディスを盲信する馬鹿者なのか。絵瑠にとっての、敵性戦闘員が残っているので下げる気はないようだ。

「あなた、公安?」

「おや、なぜ?」

「以前連慈に対して”我々”という主語で騙されたといった。つまり、あなたのその時の情報源は自科研でしょ? 自科研に潜り込む必要があってここにいる理由がある人間なんてそんなにいないわ」

 連慈は眉根を寄せる。サイディスもまた、卑しく笑った顔を崩さない。

「その理論。何か穴だらけじゃないか?」

「いいのよ、どうせ九割方勘だから」

 涼しく躱す絵瑠。サイディスが何かを言おうとした瞬間、サイディスが胸部を押さえる。と、同時に連慈と絵瑠が耳に装着していたイヤホンからも豊明の声が漏れる。

「あ、こちらも連絡なので、どうぞ出てください」

 そういいサイディスは、男達の後ろに移動する。そして、こちらに対して何の警戒もせずに通信機で話し始めた。

『聞こえてるか?』

「えぇ、聞こえてますぜ。洞窟で遊人とジルバを踊った奴らとちょいと話し込んでましてね」

『サイディスか。次の出し物は決まったのか?』

「俺らとは踊らんとの事ですぜ」

『そうか、残念だったな。公安はダンス百段だそうだから勉強になるんだが』

 目の前の男達が公安であることが確定し、絵瑠の頰が緩む。

「で、そんな話したいんでしたら切りますぜ。そのダンスの先生に、一つお願いしてきますから」

『落ち着け。警察の方はまだだが、公安とは話がついた。そいつらとやり合う必要はない。公安は、あくまで不法入国者としてリ・ラウギを追うだけで、我々の行動に関与はしてこない』

 そして、豊明は、サイディスに聞こえるようにしろ。と、指図する。

『そいつらは、まぁ当然だが公安の人間ではない。公安が対処できないオカルト対策に雇われた外注の工作員だ』

 通信を終えたサイディスは、こちらに向くとにやりと笑う。連慈は、何の表情も浮かべずに、しかしサイディスたちから視線を外さないようにしながら足元にあったアタッシェケースを拾い上げた。禿頭白衣の男が、あっ。と声を漏らすが、部下が銃を下顎に移動させ黙らせる。

『そいつらはな、日本にオカルト対策本部などたってほしくないのだ。自分たちの仕事が減るからな。だから、我々が邪魔なのだ。しかし、そのためには公安にも尻尾を振り続けなけりゃならん。公安の意志には向かえば元の木阿弥だからな』

「いえいえ、私もあなたとおなじ忠犬なんですよ」

 以前洞窟内にて、連慈のことを犬扱いしたことを思い出したのか、サイディスは手を二つ頭の上に乗せてみせる。

「公安が、ホントにそれだけだと思いますか?」

『そんなわけないだろ。何かあるに決まっている。しかし、内諜に間を取り持たせたからな。何らかの不利益になるような問題は起こさんだろうよ。さすがに内閣府と喧嘩するのは危なすぎるからな』

「あいつら、俺と遊人に鉛玉くらわした奴らですぜ?」

『安心しろ、鉛玉を食らったのは今じゃなければ、そこでもない』

 話は切り上げだ、と言わんばかりに豊明は言い切った。連慈は後頭部をゴリゴリと揉みこんだ。納得できない。しかし、ここで必要なのはサイディスと事を構えたままでいることではない。連慈はここにいる理由を思い出そうとするように、小さく息を吸い、長く吐いた。

「了解しやした。使えそうなもんはとりあえず使って対象の保護に勤しみます」

 連慈は通信を切る。そして、絵瑠の側による。

「で、あんたらの目的はこれか?」

 アタッシェケースを振る。中身がごそごそと動く音。男達に変化はない。そして、サイディスは顔に笑みを張り付かせたままだ。しかし、それを見た禿頭白衣が目を向く。

「やめろ! その中味げふぅ!!」

 白衣の中心辺り、禿頭白衣の腹部にサイディスの裏拳がめり込んでいる。

「さて、実はここに来るまでにあなた方の露払いは済ませておきました。報酬としてそれ、返していただけませんか?」

「ダメだねぇ。なんか中身がどうとか言おうとしたみたいだけど」

 連慈がそれを開けようとする。と、同時に男たちが再度ライフルを向ける。そして、今度は、サイディスはそれを止めなかった。

「では、情報と引き換えで。少女を見ました」

 連慈が眼球だけ動かし、サイディスを見やる。

「身長は150センチ程度。年齢は十三、四歳程度。肩まで伸びた黒髪」

 絵瑠が連慈の背中を叩く。連慈が首を縦に振る。その少女とやらは編花で間違いない。

「どこにいた?」

「この道を抜けた先です。まぁ、戦闘を何度か行いましたらかそこにいるかどうかわかりかねますがねぇ」

 サイディスは肩をすくめる。そして、部下達を動かし扉への道を開ける。

 絵瑠は銃を構えたまま、アタッシェケースを抱えた連慈を補佐するように扉へ向かう。

「そろそろ、それ、渡してもらえませんか? 後ろから撃つなんてことはしませんから」

 サイディスの声に部下たちは一斉に銃を下す。連慈が扉に歩み寄ると振り向いたままでサイディスに向けてアタッシェケースを放り投げる。あっ、禿頭の声が響きもう一度打撃音と反吐を吐く声が聞こえた。しかし、連慈と絵瑠はその声を無視するようにその扉を抜けた。


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