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異能X  作者: さかまき
16/24

16話

 連慈と絵瑠はその建物を仰ぎ見ていた。二十階建て、そして一辺に二十ほどの部屋を持つ、立方体の形状をした集合住宅。編花がいるのでは、と目されるその建物だ。情報によれば、現在、厳重に警察に囲まれている。灯のナビによりたどり着いた場所は、その警備の隙をついたところであった。

 月が西の空にだいぶ傾いていて夜明けにはまだもう少しといった時間帯ではあるが、辺りは騒然としている。

「警察の隙を見計らって入るにしても塀が高えなぁ……」

「正面突破はどうかしら?」

「無理だな。さっき見た感じ、速攻で捕まって終わりだ。壁を越えて乗り込むしかない」

 連慈は辺りを見渡す。潜入に使えそうなものはなさそうだと頭を振る。

 と発砲音、爆発音。闇夜が赤く焦がされ、そして、辺りが騒がしくなる。

「おい、懇談会が始まったようだぞ」

「どうすんのよ、連慈!」

 私の軽口に絵瑠が続けながら腰に備え付けた拳銃を抜く。安全性能が高いと評判のN&P40Fを、さらに絵瑠の手に合わせてカスタマイズを行ったものだ。グリップから弾倉をいったん外すと中身を確認すると、腰部に二度ほど軽くたたきつける。絵瑠の癖だ。そして再度グリップに差し込むと、銃上部のスライドを引く。薬室へ第一弾が送られたことを伝える鈍い音が響く。

「うるせぇ、てめぇらも考えろ」

 そういいバイクの装備を確認する。連慈がロープを引っ張りだし、それとにらめっこを始める。と同時に再度爆発音。

「くそ、やばいなぁ…… 絵瑠そこの自販機でサイダー買ってきてくれ。矢がついてる奴な」

「飲んでる場合じゃないでしょ! もういいわ。そこどきなさい!」

 連慈は声の主を見る。仁王立ちする咲上絵瑠。風が吹く。それは絵瑠の髪とスカートをなびかせる。

「ひと ふた よ いつ」

 右腕を上げ手を開く。風が止む。しかし、絵瑠の髪はいまだたなびいている。そして、絵瑠の右腕が紅蓮を纏う。

「ちょっとまてぇぇぇぇ!!」

「ふるべ ゆらゆらと ふるべ。燃え落ち砕けろ!」

 連慈が飛び伏せる。と同時に絵瑠の右腕から炎弾が放たれる。連慈のすぐ側面を通り過ぎた炎の塊は、件の壁にぶち当たる。轟音。壁が崩れ落ちる。

 それを確認すると絵瑠が走り出した。

「てめぇ! 何考えてやがるんですかぁぁぁ!」

「うるさいわねぇ、バレるわよ」

 その凶行は過去のことと言わんばかりにすまし顔の絵瑠は、そう言うと瓦礫の上を走り抜ける。仕方なく連慈はそれに続く。後ろでは、騒音に警官の足音が近づいていた。

「バレたじゃねぇか。てめぇのせいだぞ」

「細かいこと言わないのが男の甲斐性じゃないの?」

 二人は建物の陰に隠れる。塀の向こう側に警官が集まっているようだがそれを越えてくることはない。

「どうやら、外の警官たちは警備のみらしいな」

「そうね。となると中で捜査してるのはどっかの部隊か…… 面倒ね……」

「どこの部隊だろうな」

「ん~、捜査ならSITかしら?」

 とそこでちょうど爆音が響く。銃撃音の中に、対戦車砲の音が響いたのだ。

「SITがこんな重火器持ち込むかねぇ」

「ならSAT?」

「公安がSATを使うか? 目の上のたんこぶ同志だぜ?」

 とそこへ、通信が入る。相手は灯だ。

『中には内閣諜報室の三十人がいるらしいわ。それと自科研の調査員が十人。内一人が遊人だけど』

 内閣情報調査室をさらに発展させたのが内閣諜報室である。日本版CIAとして設立されたが、ほとんどの情報は伏せられ、名前のみ噂程度に知られている。

「噂しか聞いたことないけど内諜ってほとんど情報機関員か特殊工作員じゃないんですの?」

『私もそう思ってたんだけど違うんじゃない?』

「SITにSATに内調に…… 二個も三個も似たようなもん作るとは、相変わらずですな。英霊達に何と申し上げるつもりなんですかいね」

 連慈は辺りを見渡す。非常口らしい階段を指差す。絵瑠が頷くと二人は移動を始める。

「出会ったらどうしますか?」

『出会わないで』

「通信でばれてんじゃないですかい?」

『バレても構わないわ。いくらでも言いようはあるから』

「なら挨拶くらいしても良さそうですがねぇ」

 連慈は上った階段の正面にある扉の前にしゃがみ込むと、私をノックする。現場周囲に人らしき音はしていない。

 連慈はゆっくりとドアノブを回した。しかし、鍵のかかっている音がする。

「マスターキーでも持ってくりゃよかったか」

 そう呟きながら扉の鍵穴に細い金属を二本差し込む。

 ちなみに連慈の言うマスターキーとは言葉通りの本物のカギではない。ショートバレル散弾銃のことであり、それを用いて鍵ごと吹っ飛ばすことを目的とした、効率以外を無視した潜入方法のことである。

 この二人がそのような物騒なものを装備することはめったにない。絵瑠の拳銃ぐらいなものである。それでも十分に物騒ではあるが。

「何分かかるの?」

「これなら一分かな」

 絵瑠は銃をいつでも撃てるように構え周囲を見渡す。そこへ今度は建物の反対の方から銃撃音が響く。絵瑠はイライラとしたように右足を動かす。今度は向こう側から叫び声が響き、喚き声がそれに続く。絵瑠は眉を動かす。一分が、十分にも一時間にも感じているのだろう。

「まだなの?」

「うるせぇ。これで…… 終わりだ」

 鍵穴が回る。ガチリと鍵の外れる音。連慈はノブに手を掛けると、ゆっくりと扉を開ける。そして、人一人通れるだけの隙間に上半身だけを滑り込ませる。

「大丈夫だ。来い」

 合図を送る連慈に絵瑠は姿勢を低くし続く。


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