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コッコラの実の誘惑 6

「あなた、強いのね」

「や、それほどでも」

 ルリルラの言葉に、今更な照れ笑いを浮かべる。その雰囲気は実際、目にしていても、牢を蹴破ったり縄を引き千切ったりするようには見えない。

「でもね、ほら、見ての通り、私こんなだし? 魔力なしでもこの程度は出来ないと生きてけないからね~」

 子供っぽさ全開のエティからは、本当に微々たる魔力しか感じられない。

 魔力量に応じてその老化速度が変わるのが魔族なのだが、エティは、外見年齢と実際年齢があっているような気さえした。いや、もしかしたら、その言動から実際年齢の方が下かもしれない恐れもあった。それだけ、エティが持つ魔力量は低い。存在するためだけの魔力量しか保持していないといった感じだ。

 ぶっちゃければ、“ない”と言っても過言ではないくらいに。

「んじゃ、さくさくっと出ましょーか。魔力が通ってたんだから、無理やり出たのも気付くだろうし」

 暢気な口調で、先頭に立って歩き始める。

 さきほどふっとばされた男を踏みつけるようにして、階段を昇りきり、

「えーっと、どっちから来たんだっけ?」

 左右に伸びる廊下で、ぽつりと呟いた。

 ちなみに、エティは方向音痴ではないし、記憶力も決して悪くはない。言い訳くさいが、気絶したフリをしていたため目を大人しく目を閉じていたから道順を視界によって記憶していないだけだ。

 右を見つめ、左を見つめ、それから無言になる。

「んー、と」

「私が案内しましょうか? 館の中でしたら、ある程度はわかりますし」

 その言葉にエティがその顔を見つめ返す。

「ルリルラさんも、出るんだよ?」

「いえ、私は…」

「ダメ。一緒じゃないと。ちなみに、向こうであってる?」

 そう、左手を指差した。

「ええ」

「そかそか。距離的にそうじゃないかと思ったんだ。じゃ、行こうか」

 エティの科白に、全員“?”といった顔だが、ルリルラもそちらと言うので、大人しく後に続いた。

「ふむふむ~。これだけの事をやるんだから、狭くはないと思ったけど、ここって結構広いんだね~」

 果てしなく暢気な口調で、窓の外を眺めながらエティが呟いた。

 緊張感ゼロである。

 尤も、全員歩いている時点で、それを求める方が間違っているのかもしれないが。

「この先の角を左に。そのまま直進すれば、屋敷の裏手の門の近くへ続いています」

「安直な所に地下牢作ったんだね~」

「そうですね。けれど、裏門に近い場所ですし、恐らく、普通にこの廊下を歩いていても、あの場所への入り口には気付かないかと」

「隠すよーな魔法がかかってたんだ、あそこにも。まー内側から破ったら関係ないけど」

 へらっと暢気な口調で言ったエティが、一瞬だけ真顔になる。

「もう気が付いたかー。中々やるな」

 ぼそりと呟き、急に地を蹴った。

 それに全員が驚くのと同時に、前方の角より二人、男が姿を現す。

「やはり女が逃げてるぞ!」

 ルリルラ達の姿に、そう、右手側を向いて一人が叫び声を上げた。

「余所見げんきーん♪」

「ぐあっ」

 底抜けに明るいエティの飛び蹴りが、その男の顔面にモロでヒットする。

「前方不注意だねー」

 完全に伸びきった男を足元にして満面の笑みを浮かべるエティに、すぐ傍にいた男が硬直する。

「き、きさま、いつの間にっ!?」

「今さっきー」

「馬鹿な、この距離を一瞬でっ」

 ルリルラ達が取り残された場所から僅か10メートル。一瞬で移動しようと思えば出来る――魔力を行使すれば――距離ではある筈なのだが、男はそんな事も忘れてお約束の科白を口にする。

「おじさん達が此処に顔出す前から走ってたよ? じゃ、お疲れ様でしたー」

「なっ」

 ひらひらと手を振って、男の即頭部目掛けてハイキック。その勢いのまま壁に激突し、撃沈した。

 ちなみに、エティの身長では当たり前のように高さが足りなかったので、飛び上がっていた事を追記しておく。

「あっと3にーん」

 状況が掴めず、立ち尽くしていた男達を一瞥する。

「はてさて、誰からにする~? 誰でもいいよ~、3人まとめてにするー?」

 愉しそうに手を振る姿に、我に返った男達は一斉にエティへと向かった。

「全員かー」

 暢気な科白を口にして、エティは消えた。少なくとも、ルリルラ達からはそう見えた。

 その後、聞くに堪えがたい音が続く。強いて言うなら、殴る、呻く、激突する、そんな感じの音だ。多分。

 しんっと静かになってから、ルリルラ達は顔を見合わせる。

「もー大丈夫だよ~」

 ひょこりと顔を覗かせたエティに、ルリルラ達は安堵の息を吐き出した。それから小走りにエティの傍へ駆け寄る。

「左って言ってたから向こうだよね?」

「ええ、そうですけど…」

 頷いてから、一歩進んでちらりとエティの背後へと視線を送ったルリルラは、一瞬硬直して、すぐさまきびすを返した。

「で、では、急ぎましょうか」

 何故か顔が青い。いや、ドラクリア人のルリルラは元々青みを帯びた肌だったが、見てはいけない物を見てしまった、そんな顔をしていた。

 そそくさと歩き始める姿に、他の者も気になったのだが、

「あー。見ない方がいいと思うよ? 暫くご飯食べられないかも~」

 暢気に告げたエティの声に、顔を見合わせるようにしてから、先に立ったルリルラの表情を思い出し、素直に後を追った。

 勿論、T字になっていた廊下の角を、右側を見ないように左へと曲がった事は言うまでもない。

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