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コッコラの実の誘惑 3

「それで、エティ。コレ喰ったら帰るんだよな?」

「んーん。今日は此処で1泊」

「何故だ!?」

「明日も回るから」

 即答で帰った科白に、デューは目眩を覚えた。

「そうだ、おにーさん、此処、宿屋もやってるんだよね? 今日ってお部屋空いてる?」

「え、ええ、空いておりますが…」

「じゃ、1泊お願いしていいかな?」

「構いませんが…。本当に此処でいいので? 他にも 「いいの」

 青年の科白を遮り、困ったような笑みを浮かべる姿を見つめ返してエティは断言した。

「さっきおにーさんが言った理由で気にしてるなら、私的に此処の方が安心出来るからって事で納得してもらえる?」

 そう続けたエティに、ぱちくりと青年は目を瞬く。

「安心、ですか…」

「うん。えっとね、私、友達におにーさんと同じドラクリアのヒトいるんだけど。よく一緒にいるから、何か落ち着くんだよね」

「…そうですか」

「うん。後ね、そのヒトも、料理の腕がすっごい上手なんだよ。美味しいんだ」

 屈託のない満面の笑みを浮かべる姿に、青年もつられて微笑んだ。

「焼けましたよ、どうぞ」

「有り難う~。…デュー、食べる?」

「くれる気がないくせに、聞くな」

「バレたか」

 肩を竦めて、両手に1本ずつ串を持って嬉しそうに団子を口に運ぶ。

 物を食べている時だけは静かなエティに、デューは肩で小さく息を付いた。

「そういえば、1泊幾ら?」

 もくもくと2本を食べ終えてから、思い出したかのように問い掛ける。

「2名様、ですよね?」

 エティとデューを見比べるようにして問い返した。

「うん」

「1人部屋を2部屋となると、銀貨4枚になりますが」

「んー。別に2人部屋でもいいよ?」

「そうですか、それだと銀貨3枚になり 「って、待て! 何を言ってるっ!?」

 眉間に何故か皺を寄せて黙って聞いていたデューが、青年の科白に割り込んだ。

「経費は安く済んだ方がいいじゃん」

 あっさりと返った科白にデューは額に手を当てる。

「…いい訳ないだろう」

 疲れきった声。

「別に気にしないよ?」

「オレが気にするんだよっ!!」

「我儘だな、デューは」

「そういう問題じゃないっ! とにかく、部屋は2つだ」

 じと目で睨むエティに、負けてたまるかと睨み返すデュー。

 ほどなくして、厭きれ返ったように「はいはい」とエティが降参する。

「わかったよ。全く、デューはヘンなトコ細かいんだから」

「お前が大雑把過ぎるんだ」

 げんなりとしたデューに青年は苦笑した。

 目の前で言い合う二人を、何処かのいい所のお嬢様とその護衛という風に勝手に想像したからだ。それは強ち間違いでもないが、正しい訳でもなかった。

「それじゃ、1人部屋を2部屋でお願いします~」

「畏まりました。あちらのドアから中へどうぞ」

 右手側を示し、笑顔で青年は答える。

「はい、お邪魔します~」

 満面の笑みでそう口にして、頭を抱えたままのデューを引きずるようにして宿屋へと入っていった。

 その姿をクスクス笑いながら見送ってから、青年は団子カウンターから離れて宿屋のカウンターへと移動する。

「ほぇ、便利に出来てるね」

 くの字型に隣接して出来ている二つのカウンターにエティがぽつりと呟く。

「一人しかいませんからね」

 苦笑しつつカウンターの下から鍵を2本取り出してエティに手渡すと、引き換えに銀貨4枚を受け取る。

「部屋は2階になります、振り返って一番奥にある階段で上がってください。部屋は一応隣にしておきましたので、どちらでもお好きな方をそれぞれ使ってくださいね」

「わかりました」

「内装が異なったりとかするのか?」

 頷いたエティの横で、難しい顔をしたデューが問い掛ける。

「いえ、同じです。見てのとおり、豪華とは言えない作りではありますが…。あ、そうそう。片方は角部屋ですね、階段を上がってすぐの部屋です」

「なるほど。それなら 「デューが角部屋だね」

 科白を遮られての決定事項発言に、デューは眉を顰めた。

「お前がそっちにしろ」

「駄目。お金払ったの私なんだから、決定権は私」

 勝手に話を進めておいて何を言うてるこの娘、そんな目でデューはエティを見つめた。実際、そう思っていたかどうかは定かではないが。

「それじゃ、お世話になりますね。―――と、そーだ。私の事はエティって呼んでね、こっちはデュー。それで、おにーさんは?」

「え…?」

「おにーさんの名前、教えて。さっき言った、おにーさんと同じドラクリア人のコへの、お土産話にするから」

「あ、はぁ…。私は、ルグルスと言います」

「ルグルスさんね、りょーかい」

 反芻して頷いた姿を微笑ましい眼差しで見つめてから、

「ごゆっくりどうぞ」

 再度デューを引きずるようにして階段へと向かう背中へ向けて一礼した。

 二階へと上がった二人は、角部屋に揃って入り、何故か先に立って入室したエティは飛び乗るようにしてベットへと腰掛ける。

 デューは、というと厭きれ返った顔のままでドアの傍に立っていた。

「それで、何をたくらんでいる?」

 溜息交じりのデュー。

「私はたくらんでないよ?」

「嘘を付け、嘘を」

「失礼だな。コッコラの実のお団子、美味しかったでしょ~?」

「…まぁ、それはそうだが」

「だったらそれでいいじゃん。そっちも目的だったんだし」

「も、という事は、実際は…―――いや、違うな。お前の事だ、むしろ、ついでがこれからか?」

「まーね」

 したり顔になったエティに、デューは本日何度目かわからない目眩を覚える。

「それで、何をする気なんだ?」

「別に」

「は…?」

「私は何もしないよ。とりあえず、明日もう一回りってトコかな? 予定としては」

「意味がわからん」

「今はそれでいいよ」

 にべもなく言うと、服の下に隠れていた大きな紅い石を取り出すして、首からかけていたペンダントのチェーンを外す。

 それは、随分前にデューに示された紅い石と酷似してはいたが、そのサイズは明らかに2周りは大きいモノ。

「これ、暫く預かってて」

 そう言って、デューへと放り投げた。

「なっ…! 馬鹿か、お前!!」

「それ、デューが持ってたら、私を置いて逃げられないでしょ?」

「そういう問題じゃないだろう!」

「その程度の問題だよ」

 あっさりと斬り捨てると立ち上がり、当惑顔から本気で怒ってるような顔になったデューのすぐ傍まで歩み寄った。

「信用してるからね」

 ぽんぽん、と、渡された――投げて寄越されたペンダントの紅い石の部分を握り締めたままの右手を軽く叩いて、部屋から出て行く。

「ちょ、待て、エティ!」

 制止の声には空しく、閉じられるドアの音だけが返された。

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