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コッコラの実の誘惑 2

「―――で、お前はどれだけ喰えば満足するんだ?」

 数十件を回り、この問い掛けも最早何度目かわからない。

「んー。もう少し」

「さっきから同じ事を言ってるが?」

「んー。気のせい」

「わかった。後、何軒回れば気が済むんだ?」

「んー。あそこで最後でいいよ」

 意外過ぎる終止符の科白と共に指差した先に視線を送る。

「その科白に二言はないな?」

「ん。もう十分回ったからね」

 満足そうに大きく頷いた姿に、デューは思わず安堵の息を漏らした。

 宿屋も兼ねているのか、団子を売るカウンターの傍に“宿”の文字が見て取れる。

「コッコラの実のお団子、2つ下さいなっ!」

 お子様丸出しのエティの声に、デューは頭を抱え、それにあわせるように店の置くから青緑の肌と青い瞳と髪の若い青年が顔を出した。

「有り難うございます」

 丁寧に礼を述べた姿をほけっとした顔でエティは見つめ返し、青年はその目の前で団子を焼き始める。

「ドラクリアのヒトだ。国境側の南の方には多いって聞いてたけど、西のこっちにいるなんて珍しいね」

 嬉しそうな笑みを浮かべてそう口にしたエティの視線は焼かれる団子に注がれていたが、その言葉に青年の顔はあからさまに強張り、デューが背後でげんなりと頭を抱える。

「ね、デュー? 色々なお店のお団子食べたけど、此処が一番美味しいって気がしてきたよ」

「何を根拠にそんな事を言う? というか、お前は食い気以外ないのか? もう少し他にも気を使え」

「面倒だから嫌。いい匂いだよ~絶対美味しいって」

 尻尾があったらパタパタと激しく振ってそうな声である。

「―――此処の名物ですから。他のお店を回られたのに、私の所にもいらっしゃるとは珍しいですね」

 苦笑交じりの青年の声に、頭にハテナマークを浮かべたエティがその顔を見上げた。

「何で?」

「さきほど、あなたが言われた通り、私は余所者ですから。他のお店には多く立ち寄られても、私の所も、という方は少ないですね」

「美味しい物を作れるヒトは美味しいのを作るし、そうじゃないヒトはまずいのしか作れないよ。生まれは関係ないし、そんな物で立ち寄る店を決めるなんて可笑しいよ。第一、名物だって言うなら、端からずずいっと堪能しないと、失礼じゃない」

 子供っぽさ全開で頬を膨らませて拗ねた口調での主張は、一部を除いて酷く真っ当なものだった。

「全部堪能出来るワケないだろう、普通のヤツの胃袋で。腹壊すだろうが」

 厭きれ返ったデューの科白に、肩越しに睨む。

「イケるよー。これくらいでお腹壊すなんて、軟弱な証拠だね」

「その論理だと、この世界のヤツラは全員軟弱って事だな」

 溜息交じりの科白に、一瞬エティは考えるような仕草をしてから、

「強ち間違いじゃないね~」

 晴れやかな笑顔で同意した。

「面白い方ですね」

 肩を竦めて、青年が団子を2本、エティへと差し出す。

「有り難う~。はい、銅貨2枚」

「こちらこそ」

「ほら、デュー」

「どうも」

「何だかんだ言って、結局同じ量食べてるんだからさ。デューは」

「朝食抜きだったからな」

 それだけ言うと、団子を咥える。

「だからそれは、デューが起きないのが悪いんだって」

 細い目で自分より頭二つ分大きい姿を睨み上げ、ぱくりと団子を口に含んだ。

 無言になった二人を、青年が微笑ましい顔で眺める。

 やがて刺さっていた団子5つを完食し、残った串をじっとエティは見つめ、

「うん、美味しかった。やっぱり1番だね、此処」

 心底満足げに呟いた。

「確かに。何処も似たり寄ったりの味だったが、此処は群を抜いてるな」

 デューが同意する。

「だから1番美味しいって言ったじゃん? 私の勘は当たるんだよ」

「食い物に関してだけは、的中率が高いな。本能か?」

「るっさいなー。他も当ててるじゃんか」

「他は外れる確率も高いからな」

「何だとー。もう連れて来てやらないぞっ!」

「一緒に行きたいと言った事など一度もないが?」

「うっわ、可愛くないー!!」

「お前に可愛いなぞ言われたくない」

「素直に喜べないのかね? デュー君。直々に、この私が指名してるってのに」

「迷惑極まりないんだよ。何の前触れもなしにいつもいつも…」

「きちんと前日に言ってるもん! 一応予定確認してるんだからね!!」

「オレは聞いてない」

「それは私のせいじゃないじゃんかっ!」

「何でオレに直接言わない? イチイチ他人に聞く必要がないだろう、そもそもお前は」

 ぷっ、と噴出した青年の笑い声に、睨み合うようにして言い合っていた二人がピタリと動きを止めて向き直る。

「―――あ、すみません。つい…」

 集中した視線に、謝罪を口にはしたものの、青年が必死に笑いを堪えてるのははっきりと見て取れた。

「ま、いいや。おにーさん、もう1本下さい」

「まだ喰うのか、お前」

「お店は此処が最後って言ったけど、食べるのが最後とは一言も言ってないよ」

「それはそうだが、流石に喰いすぎだろう。そのくらいにしておいたらどうだ」

「るっさいなー。重いの背負ってたからお腹空いてるんだよ」

「だからそれはお前が勝手にだな…、―――まぁ、いい。好きなだけ喰え」

 二人から顔を背けて小さく笑っている青年の姿に、デューは諦めきったように声を上げた。

「最初からそう言えばいいんだよ。第一、お金自分で出してるんだから文句言われる筋合いないよ。おにーさん、やっぱり2本にして~」

「あ、はい。わかりました」

 笑いを堪えながら、新たに団子を焼き始める。

 エティの視線は再びそこに集中し、その姿にデューは肩を落とした。

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