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コッコラの実の誘惑 1

 その世界の名は、メビウス。


 メビウスには、巨大な3つの大陸が存在している。

 天族の住まう、アヴェロニア。

 人族の住まう、ユニエスア。

 魔族の住まう、クリフォロア。


 それらの大陸は、この世界――メビウスによって定められた盟約に従い存在していた。 


 舞台は、クリフォロア。

 中央に大陸最大国家のクリフォア国、東にライゴニア国、南にドラクニア国、西にビストニア国、それら4カ国が存在している、魔族の住まう地。



 * * * * * 



 それは、ある晴れた日の事。

 見渡す限りの、青空。

 澄み切った雲一つない空が、とても綺麗で印象的な―――――。

「―――じゃ、ないだろう……。何処だ、此処は?」

 思わず頭を抱え込んだ。

 自室で寝ていたはずなのに、目を覚ましたら天井は青空になっていた。

 最悪の予感が脳裏を過ぎる。

 このパターンは、以前にもあった。というか、何度目かわからない。

「このあたりかな」

 暢気な少女の声が耳元でし、眼前に世界地図――三大陸が正三角形を模るように並び、クリフォロアはその底辺部分に位置する大陸――を差し出して、恐らく現在地であろう個所を指し示す。当然のように、世界地図で現在地がはっきりとわかる訳がない。唯一、クリフォア国の西方、という事だけはわかったが。

「はっきりと言え」

「だから、この辺り」

「こんな大雑把な地図でわかるか! 大体な、ヒトが寝てる間に…」

「だって、デュー、全然起きないから」

 ばっさりと斬り捨てる。

「西のルイーナラオ地方、マツイラ村近郊の森の外れ。目的地は、マツイラ村。もう目と鼻の先なんだけど、到着する前に起きてくれてよかったよ」

 肩で息を付くようにして現在地を口にした。

「そうじゃないだろう」

 げんなりと額にかかる紅い髪を押し上げるように手を当てて大きな溜息を一つ。

「事前に一言断るというのが出来ないのか、お前は」

「言っておいたんだけど、ライオネル君に。聞いてないのは私のせいじゃないよ」

 ライオネル、という名にデューは再度、がっくりと項垂れた。

「それで、これ、ライオネル君が持たせてくれた荷物ね」

 そう言って小さな皮袋を一つ投げてくる。半ばあきれ返りつつ開いたそこには、洋服――長袖のシャツが1枚、薄手の上着が1枚、ズボンが1枚、腰巻が1本――が入っていた。それ以外には何もない。

 言うまでもなかろうが、暢気に荷物を投げた少女は袋の中身と似たり寄ったりな服装――ズボンではなく膝上な丈のスカート――ではあるがばっちり準備OKである。

 靴はいつの間に履かされたのだろうか、と本気で悩んでいたところに、

「着替える間、後ろ向いてようか?」

 中身を見なくともわかっているのか、ライオネルから聞いていたのか、そんな声が続いた。

「好きにしろ」

 俄かに頭痛を覚えつつ、徐に上着を脱ぐ。

「デューって露出狂?」

 へらっとした声に、

「帰るか」

 思わず口を突いて出た科白がそれだった。

「無理だよ、モノジチがいるから」

 空と同じくらい爽快な笑みを浮かべたその姿に、デューはあからさまに引き気味になって――眼前に示すように出された紅い石を目にし――再び頭を抱え込んだ。




 マツイラ村。

 村とは言っても、国境に程近いこの村は割と往来が多いためそれなりに栄えている。

 目の前を歩く、自分の胸ほどの高さにある漆黒のポニーテールにデューは諦めの境地にも似た溜息を吐き出した。

「それで? 今回の目的は何だ?」

「観光?」

「それで? 真面目な目的は何だ?」

「ん~。此処で今頃の時期に取れる、コッコラの実を使ったお団子が美味しいって聞いたから」

「エティ」

「ん~?」

「一発殴っていいか?」

「嫌」

 短い返事が返り、ポニーテール、もとい、エティが振り返る。

 自分を見上げるのは髪と同じ漆黒の瞳。黒はクリフォロアにおいて、高貴と言われる色なのだが――他の大陸では外見に黒を持つ者は生まれない――その陰りすら見えず、いたずらっぽい輝きだけを放っている。

 大きなアーモンド型の二重の瞳はぱっちりとしていて、抜けるように白い肌と相まって、愛らしく整った少女の顔立ちを更に引き立ててはいるのだが、それも口を閉じてすましていればの話だ。

「デューだって、食べるの好きでしょ?」

「嫌いではないが、此処までする必要もなければ、来る必要もないだろう?」

「現地で食べるのがいいんだよ。わかってないなぁ」

 わかりたくもない、とデューは内心思ったのだが口には出さずに飲み込んだ。

「誰に聞いた?」

「そーだねぇ。30年くらい前、ドゥルに聞いた」

 エティの口から出た悪友の名に内心大きな溜息を吐き出す。

「何故、今に実行するのか聞いてもいいかな?」

 心なしか、デューのこめかみが引き攣っていた。

「ちょっとね、合わせて調べたい事があるんだよ。ドゥルもここ数年、気にかけてたみたいだから。ほら、友達のお仕事手伝ってあげないとだよ、デューも。普段、楽してるんだから」

「……誰も、オレが楽をしているとは思ってないと思うが」

「そーぉ?」

「そうだ。それで、調べるってのは?」

「んっとね、この辺りで…―――あっ! コッコラの実のお団子発見っ!!」

 真面目な話をするかと思いきや、ポニーテールを靡かせてエティは一目散に団子屋へと走って行く。

 その姿に顔を引き攣らせたまま、疲れきった足取りでデューは後を追った。

自サイトより少々修正して改めて連載。途中まで投稿してあった自サイト分については削除済みです。

しばらくの間お付き合いくださいますよう、宜しくお願いします。

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