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ワーカホリック  作者: 茶ノ木蔵人
黒髪の奏でる唄
9/45

第9話:クロウと九郎

「ようやく帰りおったか……」


 弟子入りをせがむクロウを何とか説得して家へ帰したヨーゼフは、静まり返った部屋の中でヌハ茶を飲みながら一人呟く。

 ヨーゼフも最近の村の噂を知っていた。今までヨーゼフに直接質問してくる者はいなかったが、狭い村で生活していれば噂は嫌でも耳に入る。

 基本的に買い物以外では外に出ないマリアの耳には届いていないようだが、それも時間の問題だと思われた。

 しかも噂を確かめようとする村人達の行動が、段々と過激になっていきそうな気配をヨーゼフは感じている。このままでは何も知らない侑人に対して、何かをしでかす者が出るかもしれない。


「クロウの事はおいおい考えるとして、そろそろ侑人に真実を伝えないといかん時期じゃろうなぁ……」


 ヨーゼフはいまだ侑人に話していない、ハルモ教に伝わる伝承に思いを馳せた。いずれは伝えなければならない事だが、今が本当にその時期なのかを考えている。

 暫く目を瞑り長考していたヨーゼフだが、深い溜息を一つだけつくとおもむろに目を開けた。その目には強い意志が秘められているようだ。


「今が潮時じゃな。今晩辺りにでも話すとするかの」


 今宵全ての真実が侑人に明かされる。真実を聞いた侑人の反応が気になるところだが、どんな反応が返ろうとも全ての責任を自分が取るとヨーゼフは決意していた。

 そして夕食後。普段は少し騒がしいホラント家の夕食後の団欒の時間。しかし今日の三人の雰囲気は違っていた。

 ヨーゼフが侑人とマリアに、大事な話があるのでここに残っていてくれと、夕食が終わりそうな頃に切り出したのだ。

 真剣な顔で言うヨーゼフの雰囲気は普段より幾判重々しい。マリアは終始落ち着かない様子で、なかなか話し出さないヨーゼフの姿と、真剣な表情をしながらヨーゼフを待っている侑人の姿を交互に見ていた。


「ふぅ、実はじゃな――」


 ヨーゼフは深く溜息をついた後、静かな声でおもむろに話し始める。

 ヨーゼフから侑人に語られた内容はもちろん、ハルモ教に伝わる異世界から来た黒髪の勇者クロウ・ミナトの伝承の事だった。


「――今まで隠しておって済まんかったの」


 ヨーゼフの語った物語はそんな言葉で締められ、侑人に向かって深々と頭を下げる事で終わりを迎える。全ての非は此方にあると行動で示しているようだ。

 しかし頭を下げるヨーゼフを見つめる侑人の目は、真剣さの中にも穏やかさを湛えていて、重大な事実を隠されていた事に対する憤りの感情を微塵も感じさせない。


「謝らないで下さい」


 神妙な顔をしながら頭を上げたヨーゼフの目に、穏やかな顔で微笑みかける侑人の姿が映る。

 そんな侑人の姿を確認したヨーゼフは、少し気の抜けたような表情をして軽い溜息をつき、二人のやり取りを見ていたマリアもほっとした表情をして肩の力を抜いた。


「今まで気遣ってくれて、ありがとうございます」


 侑人は重々しい雰囲気でハルモ教の伝承を語るヨーゼフの姿と、侑人の事を見つめるマリアの真剣な表情を見て、今まで二人がこの話を隠していた真意を察した。

 余計な心配や気苦労を侑人にかけたくないという、二人の優しい思いやりだったのだろうと。

 話す事を決めた理由は判らないが、隠していた理由ならば普段の二人と今の雰囲気との差を見ていればなんとなく判る。

 苦渋の決断をさせてしまった二人に対して感謝の気持ちを持ったが、今度は逆に二人に対して隠し事をしている自分が恥ずかしく思え、侑人は全ての真実を語る覚悟を決めた。


「俺の方こそ謝らなければなりません。二人に今まで話していなかった事があります」


 侑人は謝罪の言葉を二人に告げ、深々と頭を下げる。

 数秒の間を置き再び頭を上げた侑人の顔は、いつに無く真剣な表情だった。その表情を見た二人は息を飲み、続いて語られる言葉を静かに待つ。

 侑人は今まで話し出せなかった自分の境遇を淡々と二人に語った。

 自分は日本という国から来たという事。自分にとってはこの世界は異世界であるという事。

 どうやってこの世界に移動してきたのかは判らないが、元の世界で聞いた謎の声がこの世界に導いたらしいという推察も併せて語る。

 誠意には誠意で答えるのが筋であり、二人に対しての隠し事はもはや必要ない。謎の声から多分与えられた『どんなものでも理解できる能力』の事も包み隠さずに伝える。

 侑人が自身の境遇を語り終えた時、いつもは賑やかな声が響いているはずのホラント家は沈黙に包まれていた。


「やっぱり黒髪の勇者だったのね……」


 マリアの呟きを聞いた侑人は静かに首を横に振る。

 今の自分の状況を正確に把握していないが、マリアの言葉を否定するだけの自信をなぜか持っていた。


「この世界では黒髪ってだけで勇者と呼ばれるみたいだけど、その感覚が俺には判らないし、それ以前に俺は勇者じゃないと思う」

「でも――」


 何かを反論しようとしたマリアの言葉を右手で制する侑人。

 少し興奮して椅子から立ち上がりかけていたマリアはその動作を途中で止め、静かに元の姿勢に戻っていく。机の上に置いてあったヌハ茶がゆっくりと揺れていた。


「クロウ・ミナトがこの世界にとって勇者だってのは俺にも判る。でも黒髪だから勇者になった訳じゃなくて、この世界に来た後に勇者と呼ばれる何かをしたんじゃないかな。だから何もしてない俺が、黒髪だから勇者だって言われても正直実感が沸かないんだよ」


 なおも侑人は言葉を続ける。


「怖くなるからあまり考えたくないけど、俺はこの世界に偶然紛れ込んでしまっただけかもしれないんだ。何かやれって言われた覚えもないし大きな事をする勇気だってない。もちろん元の世界に戻る事を諦めた訳ではないけどさ。ただ、今はこうやってマリア達と過ごせてるだけで満足してるんだ」


 マリアの目を見つめながら侑人はそう言い切る。二人のそんなやり取りを見ていたヨーゼフは、何かを悟ったような様子で微笑みながら頷いていた。

 そんな侑人とヨーゼフの姿を見てマリアも悟る。

 侑人が異世界から来たと聞かされた自分は、何も考えず侑人を勇者だと決めつけ、自身が嫌っていたはずのハルモ教の伝承を、ただそのまま受け入れていたと。侑人の事を色眼鏡で見てしまっていたのだと。

 どこから来ようと侑人は侑人。異世界人であろうが何人であろうが、侑人が侑人であるという事は変わりない。そう……今までと何も変わらないのだ。

 侑人は今後も今までと変わらずこの家にいたい。いつ元の世界に戻れるかは判らないが、それまではホラント家で家族同然に生活していきたい。そう言いたいのだと。


「ごめんなさい」

「こっちこそあれこれ言っちゃってごめんね」


 マリアは侑人に対して素直に謝る。しかし顔には極上の笑みを浮かべていた。

 マリアの笑顔を見た侑人も満足そうな笑みを返す。ヨーゼフはそんな二人の姿を見ながら黙って頷いていた。

 全てを語らなくともお互いの思いを察する事ができる心地よい空気が周囲を包み込む。

 三人は本当の家族のような絆で結ばれたのだ。

 お互いに秘密にしていた話を伝える事ができた三人は、満足そうな顔をしながら談笑を続けている。主に侑人とマリアがたわいもない雑談をし、ヨーゼフは楽しそうにその話を聞いていた。

 そんな和やかな雰囲気の中、不意にヨーゼフは何かを思いついたような顔をし、侑人にある事を尋ねる。


「クロウ・ミナトについてユートは何か心当たりはあるかの? 名前の響きが似ているように思えるのじゃが」


 そんなヨーゼフの言葉を聞いた侑人は少し考え込む。

 自分より八百年以上前に、この世界に召喚されたというクロウ・ミナトという人物。もし同じ世界から召喚されていたとするならば、黒髪であった事から東洋人の可能性が高そうだ。

 元の世界の東洋人風の名前に直せばミナト・クロウになり、名前の響き的には日本人の名前に近そうだが……日本で八百余年前と言うと鎌倉時代にあたる――

――ひょっとして。

 そこまで思考をめぐらせた侑人の頭に中に一人の人物名が浮かぶ。

 弱いものに弱いからと言う理由で、えこひいきしてしまう日本人の特性を表した言葉『判官贔屓』の『判官』が示す人物。その人物の名前は、鎌倉時代を代表する悲劇の主人公、源義経だった。

 源義経の義経という名は諱だ。諱は忌み名とも書き、諱で呼び掛けることは極めて親しい者のみに許され、それ以外の人間が呼び掛けることは極めて無礼であると考えられていた。ちなみに余談だが伊達政宗の政宗や織田信長の信長も諱である。

 義経が普段周囲に名乗っていたと想像される名前は、仮名である九郎。侑人は源義経の正式名の源九朗義経という名前を知っていた。

 クロウ・ミナトが源義経だと仮定すると色々な点が納得できる。武将である義経ならば、兵を率いる才能や軍略を考える知識に長けていたはずだ。

 源義経がこの世界の言葉をどうやって理解したのかは判らないが、案外今回の侑人のように何かの能力を与えられていたのかも知れない。

 しかも源義経には数多くの都市伝説が存在し、ジンギスカン説などその際たるものだ。日本にいた時の侑人はそれらの話を馬鹿馬鹿しいと一笑に付していたが、自分が似たような状況に置かれた今ではありえない話ではないと思えた。


「それならば色々と辻褄が合う気がする……」


 そんな事を考えながら侑人は一人で納得し何度も頷く。その姿を見ていたヨーゼフとマリアは、余計な事を聞いて考え込ませてしまったのかもしれないと、少し心配した顔色で侑人の様子を伺っている。

 自分を見つめる二人の姿に気がついた侑人は、慌てた様子で二人に謝りながら、今考えていた仮説を二人に聞かせた。


「なるほどのぅ」

「何か凄い話だねぇ」

「あくまで俺の仮説だから話半分で聞いて貰えると助かるかな。まあ、何か日本語で書かれている遺品とかあれば判るかもしれないけど」


 今日の侑人は饒舌だった。隠し事をしていた後ろめたさが無くなり、普段より三割増し位の晴れやかな顔をしている。

 それを聞いているマリアの顔もいつもより明るくヨーゼフの顔も穏やかだ。こんな生活をいつまでも続けて行きたいと三人は考えていたが、その為にも解決しなければならない大きな問題が一つある。


「今はこっちのクロウの事をどうにかしないとならんの」

「俺の勝手な行動のせいでご迷惑を掛けます」

「ごめんねおじいちゃん……」


 ヨーゼフは二人の謝罪を聞きながら、この難局を乗り切る良い案がないかと、暫くの間考え続ける。

 侑人が引き篭もり続ければいずれクロウは諦めるとは思うが、それでは侑人の状況は改善せず問題の先送りにしかならない。今は普通に生活できているが、万が一ホラント家に何かがあった場合、マリアとヨーゼフの二人としか接していない侑人が路頭に迷う可能性もある。これを機会に第三者との接点を持つ事は長い目で見れば良い事なのだ。

 しかしフードを被る程度では侑人の黒髪は隠しきれない。遠目から見る分には問題ないが、直接話をすれば直ぐに見破られてしまうのだ。


「うーむ、多少の危険は仕方ないと諦めるしかないかの」

「何かいい案が浮かんだのおじーちゃん」

「うむ、我ながら突拍子も無い案じゃとは思うが、まあ何とかなるじゃろ。ユート、多少不便を掛けるがそれでも構わないかの?」

「俺なら大丈夫です」

「じゃあ早速説明するとするかの――」


 ヨーゼフが出した案は大胆なものだった。

 黒髪さえ見られなければどうにでも誤魔化せるので、クロウが望む通りに剣術の指南役を引き受けるべきだと言い出したのだ。

 剣術の心得など全くないと侑人は狼狽したが、侑人ならばクロウと一緒に修行しても教える事に何の問題もないはずだと、ヨーゼフは自信満々に言い切った。

 驚異的な学習能力を持つ侑人なら、子供であるクロウの剣術の腕などあっという間に超えられるはずで、最初の慣れないうちさえ気を付ければ大丈夫だと考えたのだ。

 とは言っても基礎知識が全くない状態では、さすがの侑人も厳しいだろうと考えたヨーゼフは、自分の寝室に保管してあった数種類の武術の指南書を持ち出して侑人に手渡す。

 これらは行方知れずになっているマリアの父の蔵書だ。マリアの目の付く所に置いておくと処分される可能性が高い為、ヨーゼフは息子の備品を自室で保管していた。

 目を通しておけばきっと大丈夫だと改めて言い切るヨーゼフに押し切られ、侑人は全ての本を受け取って表紙に目を通す。

 剣術、槍術、弓術、拳術、柔術……。様々な指南書が節操もなく集められており、マリアの父親がかなりの武術マニアだった事が偲ばれる。死んではいないので偲んではいけないが、なぜかその時はそう思った。


「これだけあると読むのも大変そうな……お? これは!」


 ぱらぱらと無作為に本をめくっていた侑人だが、ある本のとある項目を見つけて動きを止める。そこには多少反り返った片刃の剣を使用する、ミナト流剣術について書かれていた。その本曰く、クロウ・ミナトが使用していたとされる剣術らしい。

 剣道・柔道・空手の動作に、何故かフェンシングのような動きが入り混じっている混沌とした内容だったが、侑人は懐かしい日本の雰囲気をなんとなく感じ取れるその内容に目を奪われ、そのまま読みふけってしまう。

 何を読んでいるのか興味を持ったマリアとヨーゼフは、侑人の後ろから内容を覗き見た後、顔を見合わせて苦笑した。黒髪の侑人が八百余年前に召喚された黒髪の勇者の剣術を学ぶ事に関してどうかとも思ったが、本人が興味を持てる内容なら理解も早いだろうと考え、読書に熱中する侑人の邪魔をしないよう、部屋を静かに出て行く。

 侑人が居る部屋からは、明け方まで本をめくる音と、ときおり長い棒のような物を振る音が聞こえていた

 そして次の日。朝早くに目を覚ましたマリアが一階に降りると、一本の木の棒を抱えたまま机に突っ伏して寝ている侑人がいた。


「ユート起きて」

「ふぁい……」


 苦笑しながら寝ぼけ眼の侑人を優しく起こしたマリアは、侑人の了承を得て散髪を始める。昨晩ヨーゼフが言っていたように、黒髪をそう簡単に見られなくする為の処置だ。

 異世界に来て伸ばしっぱなしだった侑人の黒髪は、マリアの手によって徐々に短く揃えられていく。黒髪を全部剃ってしまえばより安全だという意見がヨーゼフから出たが、侑人はそこまで割り切れなかった。


「ありがとうマリア」

「ど、どういたしまして……」


 これから段々暑くなっていく季節を見越し、耳の上辺りで適当に切り揃えて軽くして欲しいと頼んだ侑人の注文通りの髪型ができ上がる。

 散髪ついでに眠気覚ましを兼ねた朝風呂を浴びようと浴室に向かっていく侑人の後ろで、マリアは少し赤い顔をしながら俯いていた。髪が短くなった事により、侑人の顔を初めてまじまじと見ることができたのだが、何を思ったのかはマリアにしか判らない。

 やがて侑人が朝風呂を終える頃に、ヨーゼフも部屋から出てきた。

 短い髪となった侑人の姿を見て感嘆の声を上げつつも、なにやら赤い顔をしているマリアの姿を見て渋い顔をしている。しかし何とか気を取り直したヨーゼフは、侑人に向かって長い布切れを手渡した。


「昨晩話していたものがこれじゃ。外出時にこれを頭に巻けば黒髪が見えることはないと思うのじゃがどうじゃろう?」

「ちょっと長い気がするけど何とかなるかな。判りました、とりあえず眉毛のとこまで隠すように巻いてみます」


 ヨーゼフの指示に従ってその布を頭に巻くと、ターバンを巻いたような侑人の姿ができ上がった。念には念を入れて今後は外に出る前にターバンを巻き、その上からフード付きのコートを纏う事にしたのだ。

 さすがにこの格好は暑苦しくげんなりするが身の安全には変えられず、侑人は毎回律儀にその格好をしてから外に出て行く事となる。






「えい! とりゃ!」


 天気の良いとある春の日の午後の昼下がり。ホラント家の裏庭からは元気な掛け声が響き渡っていた。

 掛け声の合間からは、木と木がぶつかり合う音と、大地に向かって強く踏み込む音が不規則なタイミングで聞こえている。


「踏み込みが浅い」

「判った! これで良いのか?」


 侑人は相も変わらず薪を割っている。薪で一杯になる度に作っている薪小屋の数も二十に迫り、そろそろ裏庭から溢れそうになっているが、雨期が来るまではこのまま続ける気だ。

 薪が増えた以外には普段とあまり変わらない光景に見える。しかし状況は少しだけ変わっていた。


「本当にこれで強くなれるのか?」

「何事も基本が大事だって最初に言っただろ? もう少し経ったら相手するから、それまでは基本の動きを丁寧に丁寧に。ほら手が止まってる」


 基本的に侑人は一人で薪割り作業をしていたが、今の侑人の直ぐ側には木剣を握り締め、それを振り回している一人の少年の姿があった。

 金色の短髪の少年は不満そうに口を尖らせながら、黙々と薪割りを続ける侑人の事を見つめていたのだが、何か納得したように小さく頷くと、木から吊るされている薪に少し鋭い眼を向け、再び元気な掛け声と共に木剣で斬り付け始める。紆余曲折はあったが、侑人は剣術の指南役を立派にこなしていた。


「何とかなるもんだな……」

「何か言ったか?」


 クロウの疑問の声に対して、侑人は笑顔を浮かべたまま首を振る。多少疑問に思えたが、この結果を見ると正しかったらしい。


「さて、今日はこの位で良いか」

「やっとかよ。待ちくたびれちまったぜ」


 木剣を振り回しながら悪態を付くクロウの姿を、侑人は涼しげな眼で見つめる。二歳下の従弟と小さい時に遊んだ事をなんとなく思い返していた。

 さすがに木刀ではやらなかったが、新聞紙を丸めた自作の剣を使ってチャンバラごっこをよくやったものだ。暴れすぎて家具を破壊し、両親から大目玉を食らったのも良い思い出になっている。

 侑人はこの年になってまた同じような事をするとは思わなかったと考え、思わず苦笑する。

 しかし侑人がそんな事を考えていると判らないクロウは、馬鹿にされていると思い込み顔を真っ赤にして怒り出した。


「意地でも勝ってやる! 今に見てろよ!」

「そのカッカする癖を直さないといつまでも勝てないぞ」


 そんな事を言いながら、裏口にたて掛けてあった一振りの木刀を構える侑人。ヨーゼフに頼んで硬い古木を調達してもらい、自分で加工して作り上げた手作りの刀だ。

 なかなかのでき栄えに侑人本人も気に入っていたのだが、その木刀を見たクロウが本気で欲しがり、侑人に勝てたら進呈する事を約束させられている。


「今日こそその剣を貰う!」

「まあ頑張れ。でも簡単にはやらん」


 クロウの気合の入った木剣の攻撃を、軽々とした刀捌きで受け流す侑人。色々な偶然が重なりクロウの指導を行う羽目になったが、この経験が後々の侑人を支える大きな糧となるのだ。

 しかし今の侑人にその事を知る術はなかった。

2014/2/10:改訂

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