第6話:千客万来
「づ、づがれだぁー」
情けない声を出しながら、侑人は客室に備え付けられてるベッドにうつ伏せで倒れこむ。
湯上がりのまま、ろくに乾かしていない身体からはほのかに湯気が立ち上り、頭髪に関しては生乾きどころか軽く水気を払っただけだった。
下半身にはとりあえず衣服を着用しているが、火照った身体を冷ます為に上半身には何も身に付けていない。
侑人がここまで無防備な姿を晒すのは、マグナマテルに召喚されてから初めてだ。ホラント家では異性として意識しているマリアの目が気になり、旅の空の下では皆との距離がいつも以上に近いのでどうしても気を使う。
異世界にある王城の客室、しかも扉の外には衛兵付きという、誰がどう考えても非日常の塊の様な場所ではあるが、一応のプライバシーが確保されている環境に久々に置かれた侑人の精神はだらけ切っていた。
「しっかしお世話係とは。感覚が違い過ぎてついていけんぞ……」
マリアやアンナの為に用意された客室に立ち寄り、自身の身体の中に保管していた彼女達の私物を出す作業を終え、割り当てられた自分の客室に移動した侑人を待ち受けていたのは数名の若い女性の従者達だった。
この部屋を清掃してくれた人達なのかな?
その程度の認識で侑人は軽く会釈をしそのまま部屋に入ったのだが、侑人の予想に反して彼女達は側に控え続け、あれこれと身の回りの世話を始めたのだ。
荷物を受け取って整理をしてくれたり、お茶の用意を済ませて勧められたりと、至れり尽くせりの状況を訳が判らないまま侑人は享受していた。しかし従者達が湯浴みの準備を始めた辺りから胸騒ぎを覚え始め、服を脱がされそうになった辺りで我に返る事となる。
必死に身の回りの世話を断る侑人に向かって青い顔をしながら、何か不手際を起こしたのか? 気に入らない点があるなら直すので許して欲しいといった意味合いの言葉を言い続ける従者達を納得させ、部屋の外き出すまでの労力はかなりのものだった。
自身の身の回りの事は自分か親族でこなさなければならない母国の掟があり、たとえ他国の王城といえども破る訳にはいかない。部屋の清掃とお茶の用意はありがたいが、それ以上は手だし無用とその場で適当に取り繕った時には、従者達を纏めるお偉いさんらしき者まで駆けつけて来る始末。
流石は黒髪の勇者様の一族は考え方が違う。驕らず謙虚に生きなさいという教えは素晴らしいものです。と、口々に褒め称え恍惚の表情を浮かべる従者達を何とか宥めてようやく一人になれた時には、精も根も尽き果てる状況まで追い込まれていた。
「アンナなら堂々と世話されたのかね……。まあいいや、とりあえず寝よう。飯はいらん……」
仰向けに姿勢を直し、侑人は静かに目を瞑る。
しかし夢の世界への旅立ちがまさにカウントダウン状態という人生において至福の瞬間、突如脳内から声が響いてきた。
『湯浴みは済んだ様じゃな。従者共を追い返したのはなかなか良い判断じゃったぞ』
『……それは良かった』
侑人の至福の時を邪魔した犯人はアンナだった。
寝たフリで無視しようかと侑人は一瞬だけ考えたが、わざわざ王城での振る舞いや注意点を伝えに来てくれた可能性がある事に気付く。
天井の模様をジト目で見つめてやるせない思いを発散させつつ、アンナの話し相手になる侑人。
『マリアが気にするからなのかね』
『馬鹿たれ。マリアの事だけで褒めてはおらんぞ。身の回りの世話をして貰うという事は、それだけ無防備な姿をそやつらに晒すという事になる。状況がはっきり判るまでは警戒し過ぎ位の対応が正解じゃ』
『つう事はアンナも世話を断ったのか?』
『当たり前じゃ。わらわの場合は種族も隠した方が良さそうじゃからな。背中の羽を見られたら後々面倒な事になりかねん。魔国の姫だと万が一にもバレたら色々と終わりじゃ』
『世話を断るのにかなり苦労したんだが、アンナも大変だったり?』
『いんや。一人になりたいので退出する様にと伝えただけじゃが。やつらはゲストの要望通りに働く様、躾けられておるからの。毅然とした態度で接すればいいだけじゃ』
『さいですか……』
一国の姫君として帝王学を学んでいるアンナと、バリバリの一般庶民階層出身の侑人では差があって当たり前だと思っていたが、こういう場面でも如実に出るものだなと侑人は実感している。
いっその事勇者と従者の立場も入れ替えてしまえればうまく行きそうなのにとも考えかけたが、頭を振ってその考えをすぐに頭から追い出した。侑人は焦りながら話を切り替える。
『つうか、いきなりこの状態って事は、護衛の人達に無断で部屋から出たのか?』
『うむ。まだ気付いておらんがそのうちバレるであろうな』
『おい! いきなり問題起こしたらマズイだろ!?』
『わらわは黒髪の勇者に召喚されし者。わらわが従うのは黒髪の勇者だけ。黒髪の勇者以外の有象無象の意思などわらわには関係ない……と、表向きは思わせておく方が動きやすいしメリットも多いはずじゃ』
『あのなぁ……』
『わらわとユートを別々の場所に閉じ込める事は不可能。それどころか、わらわはどこの場所でも神出鬼没に現れるかもしれない。そう思わせておけば、妙な画策をする者共への牽制になるじゃろう』
名声が高い黒髪の勇者だけでなく、勇者の意思だけを尊重する神出鬼没の従者を合わせて敵に廻すとなると確かに骨が折れる。
誰が味方で誰が敵なのか明確になっていない現状では確かに有効的な手段だ。牽制の行動としては申し分ない効果が見込める。
侑人の個人的な見解では、アンナの行為は挑発的過ぎる様にも思えたが、冷静に考えてみるとセビルナ王国に対して敵対意思を示している訳でもない。
黒髪の勇者である侑人がセビルナ王国と友好的な関係を築こうと考えているのなら、従者であるアンナも間接的には従うのだ。
ただ、アンナをコントロールできるのが侑人だけという問題が常についてまわるので、味方になった陣営の頭を悩ませる事にはなりそうだが。
『うーん、やっぱアンナはあれこれと考えててすげえな。つうか無警戒で寝ようとしてたけど駄目だったとか? まさか飲み物とか食べ物にも警戒しろとか?』
『宰相の手の者達は直接的な害意を向けて来るとは思えん。そこまで疑わんでも良いじゃろう。寛いで疲れを取るのも立派な務めじゃよ』
『なら寝かせろよ……』
『駄目じゃな』
満面の笑みを浮かべたアンナが突如顕現する。どうやら機嫌は良くなっているようだ。
左手を腰に当て右手の人差し指で侑人を指し示しながら、アンナは偉そうな口調で言葉を続ける。
「とにかく暇なんじゃ。ユートはわらわの暇つぶしに付き合う義務がある。黒髪の勇者の使命じゃな」
「そんな使命はねーよ!」
あれこれ理由を付けて客室から抜け出して来たアンナだが、落ちは普段通りの展開だった。
セビルナ王国での心構えを伝えたかったのも事実だとは思うが、間違いなく暇つぶしの比重の方が大きい。
「暇ならマリアに相手をして貰えよ。俺は色々あって疲れてるんだ」
「マリアにも相手して貰う予定じゃぞ。じゃからこの部屋に来たのじゃがな」
「マリアの部屋に行く方が早いだろ!回りくどい事してないでーー」
コンコン
タイミングを計ったかのように、突如ノックの音が部屋に響き渡った。
「来客みたいじゃな。誰じゃろうなぁ?」
「マリアって決まった訳じゃないだろ……」
「違うって決まった訳でもないじゃろ?」
既に敗北したような気分で侑人は悪態をつくのだが、アンナはニヤニヤと笑みを浮かべたまま余裕そうな雰囲気を崩さない。
侑人は呆気に取られた表情を浮かべつつ、扉に向かって歩を進めようとしたのだが、
「その格好で出迎えるのかの?」
アンナの一言で我に返り慌てて上着を羽織る。
あまりにもアンナが普段通りなので、上半身が裸のままなのをすっかり忘れていたのだ。
「どうぞ」
落ちが既に見えているのだが、侑人によって扉がゆっくりと開かれる。
扉の前に居たのはやはりマリアだった。複数の衛兵と従者を引き連れ、何故か自身も従者服を着ているというおまけ付きだったが。
「マリア!? その格好はどうしたの?」
「あ、ユート。どう? 似合うかな? ってユートの方こそどうしたの。髪の毛が濡れたままじゃない」
後ろに控えていた従者からタオルを受け取ると、マリアはそのまま侑人の髪の毛を拭き始めた。普段からマリアに髪の毛を拭いて貰っている訳ではないのだが、他人からは何時も通りの慣れた動きに見えているのが末恐ろしい。
客室の入り口で、しかも他人の視線を感じながら髪の毛を拭かれる事に気恥ずかしさを感じつつも、侑人はされるがままになっている。
そして先程侑人が従者の世話を断った言い訳が、更なる効果を産んでいた。
この二人は出来ている。
そんな暗黙の了解がこの場を制し、妙な連帯感と生暖かい空気が客室を包み込んでいく。
「ありがと。それにその服はかなり似合ってるよ。本職みたいだな」
「良かった。動きやすそうだったから借りちゃったんだ。片付けとかの作業するのに都合が良いからね」
周囲の気遣いを悟っていないのか恥ずかしいので流しているのかは判らないが、侑人は普段通りの態度でマリアに接している。
マリアも動揺を欠片たりとも見せず、そのまま談笑を続けていた。侑人の世話を焼く事が、マリアの中で当然の事になっているだけかもしれないが。
「やっぱりマリアも自分で片付けを?」
「皆さんにも手伝って貰ったけどね。やっぱり本職の人に習うと一味違うね。かなり勉強になったよ」
「一緒にやったの?」
「そうだよ。家事は実践あるのみだからね」
侑人やアンナとは違った形で、マリアも自分の意思を押し通したらしい。ホラント家の家事を取り仕切っていたマリアらしい選択をしたと言える。
しかし客人相手に従者の仕事を教える羽目になった従者達の心労は計り知れない。意外と押しが強いマリアにいつの間にか巻き込まれてしまい、オロオロしている姿が脳裏に浮かぶ。
従者達の苦労に思いを馳せた侑人は、視線をマリアの後ろに向ける。侑人と視線を合わせた者達は皆、少しだけ疲れたような表情を浮かべていた。
「それはそうと、アンナ来てない?」
周囲の空気を全く読まず、マリアは室内を覗き込む。マリアの場合は自分の意思を通す為に、あえて空気を読めないフリをしている可能性が高いのだが。
マリアは椅子に腰掛けて優雅にお茶を飲むアンナの姿を見つけ、早速小言をぶつける。
「やっぱりここに居たのね。もー、勝手に部屋から移動したら駄目じゃない。皆さんが困ってたよ」
「わらわは黒髪の勇者の従者じゃ。勇者以外の指示には従わん自由な存在。気にするでない」
「そう言う屁理屈を言うと思って似たような事を説明しておいたけど、事前に教えてあげればよかったじゃない」
「む、確かにそうかもしれんの」
「そうかもしれないじゃないの。そうしないと皆さんが困るの。判った?」
「う、うむ。すまんかったの」
「アンナは黒髪の勇者以外には従わないんじゃなかったのか……」
思わず小声で侑人は突っ込みを入れたが、アンナの気持ちもよく判る。
マリアのお小言は正論という理由だけでなく、逆らい難い雰囲気を纏っているのだ。
「全くもうアンナはしょうがないんだから。でもユートもユートだよ。アンナが迷惑掛けてるのを知ってたなら、何とかしないと駄目じゃない」
「あ、ああ。すまんかった」
「はー、もう解決してるからいいんだけどね」
軽く溜息を吐きつつ、マリアは部屋の中へと入っていく。何故か衛兵や従者の面々もぞろぞろとマリアの後ろについてきた。
しかもお供に引き連れているだけでなく、周囲を掌握しつつある雰囲気にも見える。
「うーん、この数だとカップが足りないかな。すみません、予備のカップは何処にありますか?」
「隅の戸棚の下に置いてあります。私が取って来ますね」
「宜しくお願いします」
従者とこんなやり取りをしたかと思えば、
「椅子も足りないかな……。椅子の予備って何処にありますか?」
「向かいの部屋に予備が置いてあるはずであります。自分が取って来るであります」
「では五脚お願いします」
「イエスマム!」
衛兵とも普通? にやり取りしている。
若い男の衛兵相手なので表情が少しだけ固くなっているが、コミュニケーションを図るだけなら問題ないレベルだ。
呆気に取られている侑人とアンナを尻目にマリアはテキパキと準備を進め、あっという間に従者や衛兵達も交えたお茶会の会場のセッティングを終わらせてしまった。
面々の前に置かれたカップにお茶を注ぎながら、マリアは笑顔を浮かべている。
「では無事に王都に着いた事を祝して乾杯かな。おじーちゃんは疲れて寝ちゃったから仮にだけどね」
「えーと、既に席に着いてしまった自分が言うのもおかしいとは思いますが、警護する側の我々がお世話されるのは問題が少々あるのではと……」
「私はもう状況に流される事にしました……」
「やりたい放題って感じだな。こういうのは好きだけどさ」
「開き直ったマリアはやはり最強じゃな」
恐縮して小さくなっている衛兵や、諦め顔をしつつも何処となく上機嫌な従者を見ていた侑人も、段々と楽しくなってきたようだ。
アンナも苦笑いを浮かべているが、満更でもない様子だった。
「マリアが喜んでるし俺も気にしないって。だからいいんじゃないか?」
「このテンションのマリアに逆らうのは愚の骨頂じゃ。楽しんだ者勝ちじゃよ」
「そこの二人何か言った?」
「いいや」
「わらわ達に文句などないぞ」
「なら良いかな。じゃあ乾杯! お疲れ様でした」
「「「乾杯!」」」
その後様子を見にきた他の従者や衛兵達、少し休んで体力を取り戻したヨーゼフを交えて、お茶会は食事会へとグレードアップしていく。
結局侑人達一行の四人だけで落ち着いて話が出来るようになったのは、もう少しで宵の口といった時間になる頃だった。
「とうとう王都まで来てしまったのユート。心構えは大丈夫かの?」
「大丈夫です。セビルナ王都の司教になるヨーゼフさんよりは気楽かもしれません」
「司教と勇者を比べると、勇者の方が面倒じゃとわらわは思うのじゃが」
「おじーちゃんに悪いけど、こればかりはアンナに同感かも」
「不安になるから言わないでくれないかな……」
ホラント家から王城の客室に場を移しても、四人の雰囲気は大きく変わらない。
相変わらずの温かい空気が場を満たしていた。
コンコン
「ん? またお客さんか。今日は商売繁盛って感じだな」
「くくく、売れる物が身一つではマリアが買って売り切れ確定じゃな。とまあ冗談はさて置き、楽しい奴ならわらわは歓迎じゃぞ」
「ティルト村じゃないんだから、そんな知り合いここには居ないはずでしょ。はーい、今出ます」
すっかり寛ぎモードのアンナを窘めつつ、マリアが来客を迎える為に席を立つ。とはいえマリアも結構楽しそうな雰囲気だ。
人が多い王都に人見知りのマリアを連れて来てしまった。その事に一抹の不安を隠せなかったヨーゼフは、今のマリアの姿を見て少しだけ安心していた。
「お待たせしました……って宰相様!?」
「ご歓談中にお邪魔してしまって済みません。皆様がお揃いだとお伺いしたので、改めて挨拶をしようかと。ご迷惑だとは思いますが少しだけお時間を頂ければ幸いです」
今度の来訪者は、王城の入り口で出迎えてくれた宰相のアルクィンだった。突然の登場にアンナを除く一同は驚きつつも丁寧に対応する。
「迷惑だなんてとんでもありませぬ。こちらの方こそ王城の方々に良くして頂いて感謝してたところですじゃ」
「うむ。この城の者達は気持ちの良い奴らが多いの。わらわも気に入ったぞ」
「この上から目線ぷりは相変わらずすげーな……。ってアルクィンさん、どうぞ入って下さい」
「失礼致します」
アルクィンは入り口で深々と一礼すると、静かに部屋の中へと入ってきた。
そのまま空いていた下座の席に腰掛けると、改めて全員を見渡して軽く一礼する。
そして出迎え着いでにお茶の用意をしているマリアを笑顔で待ち、全ての準備が整ったのを確認したアルクィンは、徐に口を開いた。
「まず始めに、私の不手際で色々とご迷惑をお掛けした事を改めてお詫び申し上げます。大変申し訳ありませんでした」
「えっ?特に迷惑を掛けられた覚えなんてありませんよ。なあマリア、アンナ。何かあったっけ?」
「私は特にないかな?」
「奴隷扱いされた事位かの。あれは屈辱じゃったなぁ……」
侑人の問い掛けを受けたマリアは満面の笑みで首を横に振り、アンナは少しだけ意地悪そうに瞳を光らせて挑戦的に笑った。
マリアは間違いなく現状に満足しているし、アンナは今の状況を弄って楽しんでいるだけであり、特に問題はなさそうだ。
「あー、そんな事もあったな。すっかり忘れてた。つうか、あれは俺が物を知らな過ぎたのが原因だからなぁ……。ヨーゼフさんに覚えはあります?」
「特に無いのう。丁寧な対応で非常に満足したって記憶しか、わしにはないですなぁ」
「という事です。何の問題も無かったようですね」
穏やかな笑みを浮かべつつヌハ茶を口にするヨーゼフを横目で見ながら、侑人はそう言い切った。
そんな四人の姿を静かに見つめていたアルクィンは、穏やかな表情を浮かべると自身の前に置かれたヌハ茶に手を伸ばし、ゆっくりとそれを楽しみ始める。少しだけ気を緩める事ができたようだ。
「アルクィン殿。わしらに対しては、そこまで気を使う必要はありませんのじゃ」
「恐れ入ります。しかしヨーゼフ殿達は私達のたっての願いで王都まで赴いて下さいました。ここでの生活は常に快適に過ごして頂かなければと考えております。その事は陛下の面子にも関わる大切な事ですから」
「王様の面子ですか……。俺はそこまで気にしませんし、ヨーゼフさんだってマリアやアンナだって、普通に過ごせれば特に何も言わないと思いますけどね」
「そうだね。でも客室にずっと住むのは厳しいかなって思うけどね」
「わらわもある程度は許容するのじゃが、過干渉は勘弁かもしれぬ。致し方ない面は今のこの国の状況では多そうじゃがな」
侑人達の言葉をアルクィンは静かに聞いていたのだが、アンナの発した言葉に少しだけ別の反応を示したように見えた。
アンナもアンナでアルクィンの反応を伺う為にわざと発した言葉らしく、見透かすような視線で状況を見守っている。
「アンナ殿の言う通り、わしらの事だけでなく色々な事で大変な時期ではありませんかな? 詳しくは存じ上げませぬが、そのような空気を節々で感じますのじゃ。わしらに過剰に気を使うのも、わしらの身を案じての事でしょうしな」
「慧眼、恐れ入りました。後日に説明させて頂きますが、セビルナ王国は大小様々な問題が山積している状況です。皆様にご迷惑を掛ける事もあるでしょう」
そんな事を言いながらアルクィンは軽く溜息を吐くと、懐から二枚の羊皮紙を取り出した。
そして興味を引かれた侑人達の視線がそれに注がれるのを確認すると、徐に一枚目の羊皮紙を開いたのだ。
「これは、今後どうすればいいのかを示す、一種のスケジュール的なものになります。とは言いましても私達が今後どのように動けばいいのか、一つの指針となれば良いな程度の意味合いしか持ち得ない内容です。皆様気を楽にしてご覧下さい」
アルクィンは軽い調子でそう言い切ったが、羊皮紙を見つめていた侑人達の動きは止まった。マリアに至っては呼吸すら止まってしまいそうな勢いで驚いている。
「さすが知恵者……といったところかの」
沈黙を破ったのはそんなアンナの一言だった。アンナは侑人を見つめながら言葉を紡いでいく。
「わらわの予測もまだまだじゃ」
「いや……。しかしこれは……」
羊皮紙には『アンナ殿の真のご身分は、クーラント魔国の第一皇女殿下であらせられますか?』とだけ書かれていた。




