雨路 改稿版
本作は同作者「雨路」の改稿版です。
改稿前の作品はとても分かりづらく、なにがしたいのかよくわからないとの意見をいただきましたので、ここに改稿しました。
本来なら新しい作品に失敗を生かすことを是とするべきですが、作者の勉強の為、無礼を承知でここに置きます。
この改稿版を通して、どのように文章を書くべきか、物語を組み立てていくかを原版と比較し、より良い物語を紡げるように精進します。
ぱしゃぱしゃ
足音が聞こえる。
ざあざあ
雨音が聞こえる。
私は歩き続ける。
今日は久しぶりに雨が降った。
先生は雨の日は危ないから、散歩をしてはいけないと言っていた。
おじいちゃんは、雨の日はお化けの国に連れて行かれると言っていた。
それでも雨がとても楽しそうに降っているので、思わず出てきてしまった。
雨がカーテンのように私の目の前に広がる。
傘に弾かれた水滴が、誘うように地面に落ちる。
大人たちの言葉が頭の中から抜けていく。
どきどきして、だんだん楽しくなってくる。
私は肩から鞄を引っ掛け、傘をくるくる回す。
右へ回した後は左へ回す。
くるくると傘が回るたびに端っこの方から水飛沫。
ばちゃばちゃと水溜りも気にしない。
新調したばかりのランニングシューズが水を含んで重くなる。
まだ明るい時間のはずだけど、空を覆う厚い雲が太陽の恵みを遮っている。
薄暗く、靄がかかったような道を進む。
ここは商店街、いつもはにぎわう華の道。
右を見ればくたびれた雑貨屋さん。
左を見ればうらぶれた判子屋さん。
地面に落ちた雨のしずくが薄く煙る。
スカートが少しずつ濡れ羽色に染まっていく。
透明な傘を透かして空を見上げる。
すると雨粒が自分の真上に放射状に広がっているのが分かる。
風が吹くと放射状から波状に。
だんだん天体観測をしているように思えてくる。
北極星を中心に環状に回る。
天の川が緩やかに波打つ。
流れ星がすぅっと走る。
うれしくなって歩く速度を上げていく。
跳んで 走って しゃがみこむ。
大きな植木鉢には金木犀。
雨を飲みすぎたのか元気がない。
根元を見ると蛙が一匹こちらを見上げている。
そういえば私は蛙が鳴いているのを見たことがない。
じっと待っていれば鳴いてくれるだろうか。
私はそのまま演奏を待つ観客になる。
しばらくすると、蛙は律儀に礼をした。
げこげこ独唱を始める。
ぷくぷく頬を膨らませる。
蛙は演奏を終えるとこちらをちらと見上げて礼をする。
私はくすくすと笑い、立ち上がってスカートをつまむ。
そのまま軽く頭を下げて礼をする。
蛙は満足したように金木犀の裏に向かって歩き出す。
蛙の姿が見えなくなると、顔を上げて拍手を送る。
私は再び歩き出す。
ぴちゃぴちゃ屋根から伝った水達が、盛大に飛び跳ね踊る。
そこに雨宿りをするように猫が一匹佇んでいる。
私は近づき声をかける。
こんにちは猫さん、傘をわすれたの?
猫は立ち上がり困ったように頷いた。
私は鞄の中から予備の折りたたみ傘を取り出す。
猫の手では開きにくそうだから開いて渡す。
どうぞ猫さん私はもう持っているから
猫はうれしそうに傘を受け取った。
このご恩はいずれ、かならず返します
私は気にしないでと手をひらひらと振る。
いえいえ遠慮なさらず、とっておきを用意します
猫はそう言うと、にゃあと鳴き歩き去っていく。
私はとっておきのお礼に胸を躍らせる。
楽しみだ、いったいどんなものだろうか。
私はスキップをしながら前を目指す。
足が道路を蹴るたびに、ぴちゃっぴちゃっと小気味の良い音がする。
私はスキップしながらもちゃんと前を向いている。
淡く光る看板の下、薄黒くてぽわぽわしたものが浮いていた。
近づいてみるとふわふわ雲が漂っていた。
困った困ったどうしよう
私は少し顔を上げ、どうしたのと尋ねる。
皆からはぐれてしまったんだ、どうしよう
私は頬に人差し指を当て、考える。
皆とはあの遠い空にいる雲達のことだろうか。
よしっと私は気合をいれる。
大丈夫だよ雲さん、私が連れて行ってあげる
ほおそれはありがたい、ぜひ頼むとしよう
まかせてと私は胸を叩き、傘とは反対の手で雲を持ち上げる。
えいっと振りかぶり、上に向かって雲を投げる。
すると雲はゆらゆら昇っていく。
これできっと大丈夫、皆と合流できるはず。
思いっきり振りかぶったから服までびしょ濡れになってしまった。
長袖が腕に張り付く。
微かに寒くなってきた。
きょろきょろ辺りを見回してみる。
するとバス停の雨よけに雀たちが集まって火を起こしていた。
小枝をたくさん集めて積み重ねている。
私は近づき声をかける。
雀さん雀さん、私も暖めてくださいな
雀はちゅんちゅん答えてくれる。
いいともいいとも、どうぞ温まっておいき
私はありがとうとお礼をいうと焚き木に近づく。
炎はぼうぼうと私の首の位置までを紅く染める。
私は手をかざし、ほぅと息をつく。
紅い炎はふらふら揺らめき色を変えていく。
紅 黄 蒼 藍 桃 緑 橙 茶
しばらく変わって気づくと赤色。
あれ、赤にしては綺麗で深い色、これはなんていう色だろう。
雀さん雀さんこれはなんていう色?
私は隣にいる雀に声をかける。
おお娘さん運がいいね、めったにこの色にはならないんだよ
雀はちゅんちゅん驚きの声を上げる。
これは唐紅といってとても綺麗な赤色なんだ
へえ、そうなんだ、どおりで私は知らないわけだ。
私は幻想的な唐紅にしばらく釘付けになっていた。
しばらくそうしていると身体が温まってきた。
服もどうやら乾いたようで、準備は万端。
私はお礼を言って立ち去ろうとする。
するとちゅんちゅん雀が引き止める、ちょっとまっとくれ。
私は首を傾げてしばらく待つ。
すると雀がどこからともなく着物を持ってきた。
綺麗な唐紅色だ、とても高貴な感じがする。
私はびっくりしてそれを凝視する。
どうぞ娘さん、これをあげよう一番大切な時に着るんだよ
私は飛び上がって喜んだ。
こんな素敵な着物は今まで見たことがない。
私はそぅっと着物を手に取り、鞄にしまう。
ありがとうと深くお辞儀をしてそこを立ち去る。
雀はちゅんちゅん羽を振って見送ってくれる。
私も大きく手を振って名残惜しくその場を離れる。
雨はあいかわらず降り続けている。
耳を澄ますとビートを刻んでいる。
たたたったたたっ
だんだんと雨音のリズムが軽快になる。
私もそれに合わせてステップを踏む。
たたたたったたたたっ
ととととっととととっ
しばらく続けてふと気づく。
そういえば誰も見かけない。
いつも明るいお肉屋さん。
いつも優しい八百屋さん。
いつも綺麗な眼鏡屋さん。
せっかく雨が降っているのに。
こんなに雨路は楽しいのに。
不思議だ思わず首をかしげる。
大人は雨が嫌いなのだろうか。
私は歩き続ける。
雨音が聞こえる。
ざあざあ
足音が聞こえる。
ぱしゃぱしゃ
作品解説
本作品は
雨が降る商店街の道を女の子が歩いていく。
すると気づかないうちに現実世界から少し不思議な世界に迷い込む。
そこは動物や雲などの無機物も会話をすることができる世界。
主人公はそのことに疑問を覚えることがないくらい純粋で無垢で無知な存在。
そこは知識のある(この場合人間以外は人語を話せないと思っている)大人には入ることのできない世界。
ゆえにそこに大人はいない。
そのことにわずかに疑問を持ちながらも、迷い込んだことに気づかない。
という暗喩をこめて執筆しました。
意識したのは童話です。絵本というか民間伝承というか、そんな感じです。
ちなみに少し不思議の国のアリスを参考にしました。(面影はないです)
腕が足りず、とても分かりづらい文章になってしまったので、ここに改稿版をおきます。
この改稿版についての意見、感想を広く募集します。
どうしても独りよがりな文章になってしまうので、その点についてのだめ出しなどを期待しています。
なお誠に勝手ながら、この改稿版は予告なく変更する場合があります。
これはいわば作者の練習原稿のようなものなので、改善点などを見つけるたびに改稿していきます。
読者の皆様を作者の勝手な練習にお付き合いさせて誠に申し訳ないです。
これの原版は雨路(短編)として別に置いてあります。