夫となった第一王子の好きな人の教育係になりました。大変満足です。
「そうそう、合っているわよ。いい感じね、レリーナ」
「アストリッド様の教えが丁寧だからですよ」
「あら、私の教え子は褒め上手ね」
先日ようやく夫となった第一王子の想い人であるレリーナが花のように笑うから、私も胸をくすぐられて一緒になって微笑むのだった。
私と第一王子であるレインハルトは、紛れもなく政略的婚約関係だった。
政略と言っても、私たちの関係に何もないわけではない。
積み重ねてきた時間もある。
だけれど、恋情が生まれているかと言われたら、それは否だった。
私とレインハルトが婚約したのは、互いに8歳の時だった。
今でもはじめて会った日のことを、鮮明に覚えている。
「私は人形と婚約したんだ」と、幼いながらに恐れを感じた。
当時のレインハルトは、感情が抜け落ちた綺麗な機械のようだった。
挨拶をしても、会話を試みても、目に生気が宿っていなかった。
8歳にしては美しすぎる彼は、魔法機巧と言われた方がまだ納得できた。
王家が生み出した秘密の人形型の魔法機巧なのだと、私の中で空想が広がりそうだった。
それでも、そんな夢も見せてくれないほどにレインハルトは出来すぎていた。
彼の所作、言葉遣い、選ぶ言葉や会話の内容、すべてが大人みたいだった。
見た目が同じ子どもなだけで、中身は老成していて、子どもらしさは皆無だった。
正しさで作り上げられた第一王子は、第一王子には相応しかったのだと思う。
その頃の私は、それなりにお転婆であり、それなりの貴族令嬢だったので、彼という人間味のない人間というものに興味が湧いたのだった。
「殿下は全然笑いませんが、何も面白いことがないのですか?」
そう訊いた時も、レインハルトは笑わなかった。
私のことを、他の臣下を見るように見ているだけだった。
その目はいつも何も映していない。
「面白いとは、自分の分析通りに事が運ぶことを言うのかい?」
こちらが何を言っているのかさっぱりだった。
「殿下の言っていることがわかりません」
「僕も、君がいつも楽しそうなところがよくわからない」
そんな感じで対話はしたものの、噛み合いはしていなかった。
私たちが互いのことを理解し始めた瞬間は、護身術の対戦相手として戦った時だと思う。
私がそう思っているだけで、向こうはどうだったかわからないが、少なくとも大勢いる臣下のうちの1人ではなくなったのはこの時だった。
私は令嬢に似合わずに剣を振るのが好きだった。
第一王子の婚約者になってからは剣を振るうのは禁止されたので、代わりに護身術を習った。
当時騎士団副団長だった平民上がりの実力者の師匠のもと、土まみれになりながら教えてもらっているところにたまたまレインハルトがやってきた。
王子妃教育のご褒美として取り付けた護身術の訓練が、私は何よりも楽しみだったので、王子とのお茶会のスケジュールを2回に1回は訓練に変更してもらっていたからだった。
「アストリッド嬢は、どうしてそんなに汚れているんだ?」
「真剣に護身術に取り組んでいるからですよ!」
「…?」
「そういえば、殿下は剣術の腕前もいいと聞きました。せっかくだから、私と対戦してくれませんか?」
はじめてわかりやすく意味がわからないと顔に書いてあったので、これは面白いと思って、私はレインハルトの服を引っ張った。
レインハルトは大人顔負けの紳士なので、私の手を払ったりしない。
それがわかっているから、彼が私にどう言おうか考えあぐねているうちに、ずるずると師匠のもとに連れて行った。
「師匠、殿下を相手役にしてもいいですかっ?」
大男の師匠を見上げてそう言うと、師匠の口の端がニヤリとしたのを私は見逃さなかった。
面白そうなことが好きなところは、私と師匠はよく似ていたから。
一応、師匠も困ったような顔をしていた。
「この国の王子に暴漢役をさせるのは、お前さんだけだろうなぁ…」
「殿下は強いと聞いたので、実践的です!」
「はいはい、怪我させるなよ。殿下、我が弟子が申し訳ありませんね」
「…いや、彼女は僕の婚約者だ。僕が相手をするのがいいのかもしれない」
表情ひとつ変えずにそう言ったレインハルトに、短剣を模した木刀を手渡した。
普段使っている剣と違うようで、手に収まりにくそうに何度も確かめていた。
「思いっきり来てくださいね、殿下!」
「…手加減した方がいいと思うが」
「それじゃあ、訓練になりません!全力で行くので、全力で来てください!」
「…わかった」
この時ばかりは私の方が勢いで勝ったので、渋々頷いていた。
木刀を握ったレインハルトは、やっぱり目には光がなかった。
それでも、私からしたらもういつものことだったから、気にしていなかった。
私はどうやって自分の身を守るかしか考えていなかったから。
こうやって体を動かすのはいい。
辛くてしんどい王子妃教育も、この時は忘れられるというものだった。
「殿下が木刀を当たるか、アストリッドが殿下を地面につけるかで勝敗とする。よろしいですね?」
「わかった」
「はーい!」
「アストリッド、令嬢らしくしないとまた教師に怒られるぞ」
「訓練中は無理ですよぉ〜」
「間延びした話し方をするなってことだよ」
「かしこまりましたわっ!」
「よろしい」
師匠とのやりとりも不可解そうに見ていたレインハルトが、とにかく面白かった。
「さっ、位置につきましょう、殿下」
「ああ」
私たちは離れた位置で向かい合って、師匠の合図を待った。
風が頬を撫でて、これからまた掻く汗を癒すようだった。
「では、はじめっ!」
師匠の掛け声でも、私は動かなかった。
「何もしないのか?」
「私は護身術を習っているのです。相手から襲われなければ、何もしません」
「そうか、…では僕が行く必要があるな」
それだけ言うと、レインハルトは一気に距離を詰めて、私の脇腹を刺そうとした。
あまりにも素早くて、師匠よりも速かった気がして、避けるのが精一杯だった。
1を伝えれば、10以上で返ってくるレインハルトは、この瞬間は勇ましい剣士だった。
大人と違って身軽な体は、どこまでも自由だった。
それが、いつも見ているレインハルトとは違って見えて、私はわくわくした。
「どうして、そんなにっ、早く振れるのですか…!」
「君こそ、どうしてそんなにちょこまか動けるんだ」
「私が師匠に唯一褒められるのは、逃げ足だからですっ」
殿下は剣を私に突きつけながら、私はなんとか躱しながら、戦っていた。
殿下は余裕そうだったけれど、私は必死だった。
それでも殿下が真っ直ぐに剣を突きつけようとした時に、勝機が見えた。
私はすかさずその手首めがけて叩きつけた。
短刀が落ちたのが見えた瞬間に、彼の体重移動のままにくるっとひっくり返した。
手首を返されたレインハルトは、私の背中を通って、地面に落ちた。
私にはニッと笑って、走って距離を空けた。
振り返っても、殿下は地面に体をつけたままだった。
「そこまで!」
師匠の野太い声が響いて、私は走るのをやめた。
爽快感に満ちたまま、殿下のところへ戻って、手を差し伸べた。
「お強いって本当だったのですね!剣だったら勝てなかったです!」
「君は、剣も振るのか…?」
「今はもうやっていませんけどね」
座ったままの殿下は私を見上げながら、珍しくぼんやりしていた。
「どうかしました!?打ちどころでも悪かったですか!?」
「おい〜、王子を怪我さすなよぉ」
「えっ、どうしましょう!私の有責で婚約破棄からの多額の賠償金!?」
「なんでそんなことは知っているんだよ…」
師匠に呆れられながら、差し伸べた手でレインハルトの顔の前で手を振った。
「めまいとかします…?」
心配で顔を覗き込んだのに、レインハルトは瞬きしていた。
太陽を映したように、はじめて目に光が見えた気がした。
「勝敗をつけるのなら、僕は負けたことになるな…」
「そう、なりますね」
「負けたのははじめてだ。こんな気持ちがしたのだな」
そう言って笑ってはいなかったけれど、眉は優しく垂れていた。
その顔は、ほんの少し年相応に見えた。
「僕も護身術を学びたい。授業に組み込んでもらえるように頼んでみるが、問題ないだろうか」
「俺は構いませんよ」
「アストリッドは、僕と一緒でも大丈夫かい?」
「一緒にやってくださるのですか!それは楽しみですね!」
「決まりだな」
レインハルトは私の手を取ることなく立ち上がり、私の隣に並んだ。
その頃はまだ私の方が背が高かったから、殿下は上目遣いで私を見ていた。
「君が楽しそうにしている理由は、少し理解できた」
レインハルトは、そう言った。
それからだった、私たちの間に他人以外の何かが生まれて、歩み寄れるようになったのは。
護身術の訓練を一緒に受けて、そのあと休憩がてらにお茶をするようになったので、一緒にいる時間も増えた。
対戦すれば、相手の間合いも呼吸もわかる。
すぐになんでもできてしまうレインハルトとは、護身術だけは同等の実力だった。
言葉を重ねるよりも、私たちのコミュニケーションとしては最適だったのかもしれない。
誰よりも近くて、誰よりもどういう意図で動くのかがわかって、誰よりも何がしたいのかがわかった。
それは対戦以外にも応用が効くようになって、どんなふうに王子として立っていたいか、どのように国を守っていきたいかなども、言葉で伝えてくれるようになった。
そして、私の王子妃教育も追いついて、何を言っているのかがわかるようになっていった。
私たちは、婚約した当初よりもずっと友好的な関係を築けていた。
実際に護身術の姉弟子と弟弟子ではあったから、どちらかというと姉弟のようだったと思っている。
完璧すぎる弟に追いついていくために、必死に隣に立つ姉といった仲だった。
だから、彼のことは誰よりも応援していたいし、誰よりも味方でありたいと思うほどには、レインハルトのことをよく思っていた。
重ねる時間が増えれば増えるほど、家族のような情が生まれた。
それでも、レインハルトはいまだに孤高の王子でもあった。
正しくて間違えない完璧な第一王子だからこそ、彼はいつも人とは違うところにいる気がして、一人どこかに行ってしまうのではないかと思っていた。
優秀すぎて、人材としても引く手数多な彼を、神様もが欲しくて取り上げてしまうのではないかという私の空想は、ずっと消えなかった。
彼は、王家が秘密裏に生み出した人形型の魔法機巧だと思えるほどの、人間離れした人だったから。
だから、驚いたのだ。
彼に相談があると言われ、珍しく人払いまでさせて伝えられた言葉が、
「好きな人ができてしまったのだが、どうしたらいいと思う?」
だったから。
驚きすぎて、腰を抜かしそうになったのは、言うまでもない。
あまりにもだんまりしていた私に、とっくに背を抜かしたレインハルトが顔を覗き込む前に、私の気持ちは飛び跳ねていた。
「何をやっているのですか、今すぐプロポーズしに行かなきゃっ…!」
私の方が走り出しそうで、レインハルトに冷静に止められた。
「婚約者は君だから、落ち着いてアストリッド。それと、僕はとても不誠実なことを言っているから、どちらかというと諌めてほしい」
嬉しかった。
嬉しすぎておかしくなりそうだった。
はじめてあった時には、まるで人形のようで、感情すらどこにあるのかわからなかった少年が、あのレインハルトが恋をしたというのだ。
この目の前の彼に人を好きになる感情があったのだと、喜びが頂点を達して、気が狂いそうだった。
少なくとも私の中では、天変地異が起きたのだ。
私の大事な人に、好きな人ができたのは、いまだかつて感じたことのない高揚だった。
叫び出したくて、でももう第一王子の婚約者として完成された私にはそれはできなくて、嬉しくて駆け回りたくて、それもやっぱりできなくて、ふるふると震えることしかできなかった。
「アストリッド」
私を呼ぶ声に、中身だけでなく背丈も何もかも大人に追いついたレインハルトを見上げると、その瞳は光を宿していた。
きっと私にだけ打ち明けてくれたのだとわかって、彼からの親愛の情を感じて、ますます胸が高鳴った。
脳が痺れるようだった。
「教えてくれてありがとう、レインハルト」
私が隠しきれていない笑みを見せると、ほっとした様子のレインハルトが見られた。
「やっぱりプロポーズだと思います!」
そこからの私は早かった。
信頼している姉に、弟が秘密を打ち明けてくれたことに等しかったのだ。
レインハルトに、想い人について今どういう関係なのか、どうなりたいのかを徹底的に訊いた。
それは少し前に視察に行った際にいた、領地の令嬢のようだった。
話を聞けば聞くほど運のいいことに、婚約者はまだおらず、政治的立場でも中立の家の娘だった。
「でしたら、将来側妃になってもらいましょうよ」
私の言葉に、レインハルトは珍しく表情を固くして首を振った。
「こんなこと打ち明けておいて都合がいいが、この気持ちを誰かに聞いてほしかっただけなんだ。…その相手が僕には、アストリッドしかいなかっただけで」
「ええ、それが何より嬉しく思いますよ。信頼してもらえているのだなって」
「当たり前だ。君以外にそんな人間はいない。アストリッドを妃にする以外もありえない」
淡々と言うレインハルトを見て、やっぱりこの人は正しく生きられるのだなとわかったから、私としてはそれで十分だった。
「それはそうですよ。政治的にも利害関係としても、相弟子としても、レインハルトと国を守っていくのは私だという自負は、私にもあります」
はっきりとそう告げると、その答えに満足したのか深く頷いた。
彼の妃になる覚悟なら、この10年以上の時間を持って積み上げてきたものがある。
私もそこは譲る気はない。
他の誰にできるのかと言われたら、レインハルトと同じ方向を見ていられる人は私くらいしかいないとも思える。
でも、それと感情面は別だ。
私にとってレインハルトは家族以上の血の繋がりのない姉弟の絆のようなものがある。
私は彼が大事だから、彼には幸せになってほしいと思っている。
それはどうしたらいいのかと、やっぱりこの10年以上考えてきたことだ。
そんなレインハルトが恋をしたというのだ。
それが側妃を迎えることで済むのなら、こんなにいい話はない。
「あなたの愛する人を側妃に迎えられたら、私も嬉しいですよ」
「…君との婚姻もまだなのだ。それはしない」
「あら、私のためにもなりますよ?男児が生まれない苦労を、あなたもよくご存知でしょう?」
私が静かにそう言うと、レインハルトは複雑そうな顔をした。
国王陛下には側妃が3人いらっしゃるが、全員の側妃様が産んだのは女児だけだった。
王妃陛下はレインハルトを産んだ時、体の負担が大きく次の子を授かるのは危険だと判断された。
普段の公務には問題ないが、世継ぎがレインハルトしかいないのは危うかったため、側妃をとるようにと王に進言された。
1人目の側妃様が女児を2人産んだ時点で、また1人と増やしていったものの、全員が女児しか授からなかったため、結局王子はいまだにレインハルトのみだ。
レインハルトはもう成人しているため、今更王子はいなくてもいいということになり、側妃は3人目で打ち止めとなった。
そんなことが私に起こってもおかしくないのだ。
「私とあなたは唯一無二の関係であり、同時に唯一無二の男女にはならないのです。レインハルト、あなたのことは愛していますよ」
私はそこで一旦言葉に区切りをつけて、まっすぐレインハルトを見た。
昔は光を一切宿していなかった綺麗な目が、今日はキラキラと輝いている。
長年一緒にいるというのは、こういう変化を間近で見られるという特権でもある。
こうやって、ずっとレインハルトの凄まじい変化を、私は隣で見続けることができるのだろう。
それは何よりも嬉しく、誇りに思うことだ。
「それでも私たちの間に、恋は生まれなかった。そうでしょう?」
この10年で身につけた起伏のない令嬢らしい話し方に、レインハルトは少しだけ困っているように見えた。
そんなふうに顔には出さずとも感情が動いているのがわかるなんて、自称姉としては喜び舞いたいものである。
「だったらせめてあなたを一緒に支える人は、あなたのお眼鏡に適った女性がいいです。きっと素敵な人なのでしょう?」
私がそう微笑むと、観念したようにレインハルトは真顔のまま頷いた。
「アストリッドに話した時点で、なかったことにはできなかったな」
「そうですよ!むしろ、隠されていたらショックです!」
「ああ、それはわかっていた。アストリッドには、ちゃんと話すと決めている。対話の大事さは君から学んできたことだ」
これだけ言ってもらえるなら、「どうよ、私たちの私たちだけの絆は!」とドヤ顔して自慢して回りたいくらいだった。
「ひとまず、そのご令嬢の身辺調査などをしませんか?決めるのは、それからだっていいのですし」
「…そう、だな」
「できたら、私もお友達になりたいですねぇ〜」
「間延びしているよ」
「師匠みたいなこと言わないでください…。2人きりなのですから、見逃してください」
「ああ、僕の前だけなら構わない」
話が終わったので、レインハルトは部屋から出るようにと手を差し出してきた。
長く連れ添った婚約者とはいえ、未婚同士がずっと部屋で2人きりはまずいので、さっさと2人で部屋を出た。
なんでもないように、まるで明日の公務の件ですがみたいに話が続いていく。
「ねえ、レインハルト。もしその子を側妃にすることが決まったら、私が教育係になってもいいですか?」
「気が早いな」
「10年分の知識、お教えできますよ」
「アストリッドがいいなら、構わない。君なら、僕の注意事項もよくわかっているだろうし」
レインハルトの物言いが可笑しくて、笑ってしまった。
「くふふ、注意事項ってなんですか。表情は一切変えないけど怒っていませんのよとかですか」
「何を考えているかわからないと、君以外からは言われるからな」
「じゃあ、一緒に護身術も学ばなきゃダメですかね。あなたとの一番いい対話ですし」
「…できれば、お淑やかな令嬢のままでいてほしいが」
「ほーん、ご令嬢のそういうところに惹かれたということでよろしいですか?」
「…黙秘したい」
「あら、私にはちゃんと話すのですよね?」
「もう少し時間をくれ。今喋ったら、支離滅裂になりそうだ」
淀みなく話すところしか見たことがないので、新鮮だった。
レインハルトをこんなふうにした彼女に、ますます興味が湧く。
「私も早くお会いしたいです!」
「まだ何も決まってないからダメだぞ」
そう言いながらも、変わらない表情が柔らかく見えた気がした。
こうして、もうすぐ結婚式を挙げる私たちは、同時進行でそのご令嬢を側妃にするべく動き出したのだった。
私は王妃陛下を味方につけて、かの伯爵令嬢を側妃にする方向で話を進めた。
その間に、レインハルトには秘密裏に彼女の気持ちを掴んでこいと言っておいた。
「君とは最初から婚約が決まっていたから、他の女性に何をしたらいいのかわからない」と、すぐに行動に移せないレインハルトが見られて、ますます面白かった。
それでも彼女自身も憎からずレインハルトによく思っていてくれたようで、案外スムーズに気持ちを育み始めていた。
それを見て、思わず王妃陛下に「あんな優しい顔できたのですねぇ」と零すと、「あなたは本当に姉のようね」と笑われたのだった。
だって、令嬢に対しては頑張って笑ってみせようと努力して、ぎこちない笑みを浮かべていたレインハルトは今まで見た中で一番愛らしかった。
レインハルトが自然と笑える日が近いと、私は思った。
私たちが結婚して、1人目が生まれてからということになったが、まだ公にはしないままに令嬢だけ登城するように命が下った。
私たちは結婚式を挙げ、無事に夫婦となり、私は伯爵令嬢レリーナの教育係が始まった。
「レリーナは物覚えがいいから、私の公務もすぐに手伝ってもらえそうですね」
「私でよろしいのですか?」
「あら、あなた以外に任せられる人を私は知りませんよ?」
私がそう言うと、やっぱり花のようにレリーナは笑うのだった。
レインハルトにしてはとんでもなく可愛らしい子をゲットして、私から見ても可愛くて、新たに妹でもできた気分だった。
レリーナに子どもができたら、孫のように可愛がってしまいそうだ。
あれ、この場合は甥か姪かしらね。
私は自分のお腹を撫でて、レインハルトと婚約してからのことを思い返した。
私、魔法機巧のような彼の妃になれてよかった。
レインハルトはどんなに一緒にいても面白い人間なので、彼といれば退屈しないのだ。
「アストリッド、レリーナ」
声が聞こえて、レリーナは頬を染めて振り返った。
それが嬉しくて、私もにやける気持ちを抑えて、振り返った。
「あれ、どうしたんですか、土まみれではないですか」
レインハルトの頬についた砂をハンカチで拭うと、なんとも言えない低い声で唸っていた。
「師匠に吹っ飛ばされてしまった」
「騎士団長は、一国の王子相手に何しているんですか…」
「師匠はアストリッドを娘のように思っているからな」
「私がレリーナを大歓迎していることはわかっているはずなのに」
「だからこそだよ。だから、これは僕が受けるべきことだ」
私が肩を竦めてみせると、レインハルトがくすっと笑った気がした。
レリーナが来てからのレインハルトのいい変化だ。
「3人でお茶にしないかい?君たちがよかったら」
「ぜひ、したいです。アストリッド様がよろしければ」
「もちろんです。そうしましょう」
穏やかな風が吹いて、私たちを温かく包んでいくようだった。
了
お読みくださりありがとうございました!!
毎日投稿168日目。




