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北欧神話ロキの物語 -外伝-  作者: Romina


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4/8

盗まれたブリーシンガメン

宵刻のアースガルズ。

広間はいつもの宴で賑わっていた。



灯された炎だけが、神々の顔を半分だけ照らしていた。



その光の中に、フレイヤが入ってくる。

首元で、輝く黄金が揺れた。


一瞬、神々は口を閉じる。

そして——

その視線だけが、彼女に集まっていった。



ロキは思い出した。


この首飾りの噂は

すでに王国で広まっている。


その名はブリーシンガメン。


黄金は濁りなく磨き上げられ、

光を受けて深く艶めく。

炎のように光揺らめく宝石は、

ただ美しいだけでなく、

皆の視線を絡め取るように際立っていた。


そして――ドワーフたちがそれと引き換えに、

“彼女に要求したこと”も。




神々はざわめいた。


オーディンは言った。


「それを外せ、フレイヤ」


フレイヤはそっぽを向いた。


「嫌よ」


広間が静まる。

誰も言葉を続けない。


オーディンの視線が、わずかに細くなる。



その間、神々はフレイヤから目を逸らした。

——ただ一人を除いて。


ヴェトルは、

首飾りではなく、フレイヤを見ていた。




オーディンは語尾を強めた。


「神々の前で、それを誇るな」


フレイヤは

オーディンに向かって言った。


「誇っているのではないわ。

私のものを身につけているだけよ」



神々は黙っていた。


ロキが目を細める。



「……よく似合ってる」


ロキはわずかに笑った。


「——何を外して、それを手に入れた?」


フレイヤの視線が、止まる。


「……口を慎みなさい」



神々はただ黙っていた。



ヴェトルだけが、フレイヤを見続ける。


彼女は恥を払ったのではない。

“対価を払ってでも、自分で選んだ”のだ。






宴が終わったあと、

オーディンはロキを呼びつけた。



「フレイヤの首飾りを持ってこい」



ロキはすぐに答えなかった。



「……ずいぶんと簡単に言う」


視線だけを上げる。


「盗むのは、俺の役目か?」



オーディンは言った。


「お前だ」


ロキは笑った。


「は。だろうな」



一歩、踵を返した。


「で? 壊してもいいのか」


振り返らないまま言う。


「それとも、“丁寧に”盗めばいい?」



オーディンはまた言った。



「持ってこい。

これは命令だ。」


「……了解」



その声に、敬意はなかった。



ただ、火の音だけが残り、

ロキは振り返らなかった。




その夜。

ロキはフレイヤの部屋へと向かった。


ロキは戸に触れ、舌打ちする。

鍵がかかっていた。



――面倒だな。


その姿が、ゆっくりと歪む。

細く、小さく。


隙間を這う影へと変わった。



戸の下、わずかな隙間。

そこから、ロキは音もなく滑り込んだ。


部屋へ入ると、ベッドの横の台に

彼女の首飾りを見つけた。


ロキは小さく呟いた。



「……よく似合ってた」



すると、フレイヤがわずかに動いた。


ロキは動きを止める。



フレイヤは寝返りを打ち、

反対側を向いた。



ロキは首飾りを手に取ると、

窓の外の海に飛び込んだ。



静かな海に、

大きく何者かが落ちた音が響くと、

彼女は目を覚ました。





――ない。



彼女はすぐさま部屋の外に飛び出すと

近くにいたヘイムダルに言った。



「私の首飾りが盗まれたわ!」



ヘイムダルは考えた。



盗める者は限られてる。

気配を消すことができ、あの場にいたのは――。



「――ロキだ」


フレイヤは言った。


「海に何者かが落ちる水音がしたわ!」



ヘイムダルはすぐさま海に飛び込んだ。








夜の海は、音を殺していた。

岩礁に砕ける波だけが、かすかに白く光る。


その暗い水面を、一つの影が裂いた。

ロキだ。


アザラシの姿で、首飾りを身体に巻きつけたまま、

岩の間をすり抜ける。


重い。

だが離さない。


『……命令だ』


思い出したくもない声が、脳裏に残る。


『――持ってこい。』



……ふざけるな。

歯を食いしばるように、ロキは水を蹴った。


逃げる。逃げ切る。それで終わる。


そのはずだった。



水の奥が、わずかに揺れた。


次の瞬間、下から突き上げる影。


もう一匹のアザラシがいた。



ロキの身体が跳ね上がる。


その牙が、腹に食い込んだ。



すぐさまロキは理解した。

――ヘイムダルだ。



彼はただ、噛みつき、離さない。



ロキは身を捻り、岩へ叩きつける。

衝撃で水が弾ける。


それでも、離れない。


――しつこい奴だ。



ロキは首を振り、逆に噛み返す。


互いの身体が絡み、泡が弾ける。



海が、狭い。

逃げ場はある。


だが、首飾りがそれを許さない。



――外せば、逃げられる。


一瞬だけ、考える。

だが。



――あいつの顔が浮かぶ。

言葉もなく、ただ見ていた眼。


ロキは歯を食いしばった。



ヘイムダルの力が、さらに締まる。



彼は迷いなく、そのまま引き剥がした。


鈍い音とともに、首飾りが外れ、

ロキの身体が水に沈む。


ヘイムダルは振り返らない。

首飾りをくわえたまま、

静かに水面へと浮かび上がる。



その姿は、ただの回収者だった。

ロキはその背を見た。



――ああ


ロキは笑った。


――やっぱり、そうなるよな。



血の味が、広がる。

海は、何も言わない。



ただ、波だけが繰り返していた。

ロキはゆっくりと水面へ向かった。






ヘイムダルは海から上がり、

ロキに言った。


「お前の意思ではないことくらい、分かっている」


彼は首飾りを見た。


「だが、返すのが俺の役目だ」



ロキは黙っていた。




ヘイムダルが去ったあと、

ロキは海をぼんやりと眺めていた。




するとヴェトルがそこにやってきた。


「同じだな」


ロキは返す。


「……何がだ」


ヴェトルは静かに言った。



「手に入れるためには、何かを捨てる。


……お前は、選べないんだろ」



ロキは鼻で笑う。



「は。随分とご立派な話だな」


血を拭う仕草だけ、雑になる。


「欲しいものもねえ奴に、選ぶも何もあるかよ」



ヴェトルは何も言わない。

ロキは続ける。


「安心しろ。俺は“選ばされる”のが性に合ってる」


一歩、背を向ける。


「その方が楽だ」


ヴェトルは黙っていた。


「お前も試してみるか?」


振り返らないまま、笑う。


「案外、癖になるぞ」



ヴェトルは答えた。


「……遠慮する」


「するなよ」



ロキは笑った。







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