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北欧神話ロキの物語 -外伝-  作者: Romina


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3/8

イズン誘拐事件

旅の途中のある日、

三人は牡牛を仕留め、

川辺で火を起こしていた。


ジリジリと油が地面に落ちる。

肉は十分に炙られているように見えた。


だが、それはなぜか

いつまで経っても焼けなかった。




その時だった。

大きな影が、火の上を横切った。


ロキが顔を上げる。



そこには、一羽の鷲がいた。

いや、鷲と呼ぶにはあまりに大きかった。



鷲は枝に降り立つと、

人を見下ろすように言った。


「その肉は、まだ焼けぬ」


「俺にも肉をよこせ。

ならば食えるようにしてやろう」



オーディンは鷲を見上げた。


「……いいだろう。

食えるようにしろ」



鷲は火の上へ首を伸ばし、

肉をじっと見つめた。



次の瞬間、

さっきまで生臭かった肉の匂いが変わった。


脂が弾け、

今度こそ焼ける音がし始める。



ロキは眉を上げた。


「……焼けたな」



次の瞬間、

鷲は火のそばへと降り立った。



鷲は肉を引き裂き、

次々と飲み込んでいった。



ロキが顔をしかめる。


オーディンは何も言わなかった。

ヘーニルも、ただそれを見ていた。



ロキが言った。



「おい。

食いすぎだ」



鷲は構わず、牡牛一匹を

まもなく平らげようとしていた。


ロキは鷲に掴みかかり、拳を振り抜いた。



すると鷲はロキをジロリと睨みつける。



次の瞬間、

鷲の爪がロキの身体に食い込んだ。


ロキの足が地を離れる。



「おい——」


ロキは叫んだ。



だが、

オーディンは動かなかった。


ヘーニルもまた、ただ見ていた。






鷲はロキを掴んだまま、

空高く舞い上がった。


川も、火も、オーディンたちの姿も、

みるみる小さくなっていく。




やがて鷲は、風の強い山肌近く

切り立った高い崖のそばにある、

岩場へとロキを叩き落とした。



ロキが顔を上げると、

鷲はその巨大な影を落とした。



「イズンを俺のもとによこせ。

さもなくば、お前をここから落とす」



鷲が崖側のロキに詰め寄る。



「……ふざけるな。

ずいぶんと高くつく肉だな」



鷲の嘴が、わずかに開いた。


「次は、ここから落とす」


鷲がさらに迫る。

ロキは歯を食いしばった。


まあいい——アースガルズへ戻れれば、

どうにでもなる。


「……わかった」



鷲の影が、さらにロキへ覆いかぶさる。



「誓約しろ。

破れば——わかっているな」


ロキは睨み返す。


「……この食い意地の張った鷲が。

いいだろう、誓ってやる」






やがてロキは解放された。


だが、奴の爪の感触はまだ残っていた。


約束を破れば、次は殺される。


それでもロキは思った。

——イズンを一度外へ出すだけなら、

どうにでもなる。






ロキは城に戻ると、

イズンの部屋へ向かった。


「イズン。

森で、お前のリンゴによく似た実を見つけた」


イズンは笑った。


「まさか。

ただのリンゴでしょう」


ロキは肩をすくめる。


「俺もそう思った」


「だが、少し妙でな。

お前のリンゴにそっくりだった。

――見ればわかる」


イズンは少し考えた。


「……見るだけよ」


そして二人は森へと向かった。

その夜――

イズンは戻らなかった。





翌朝。


イズンの姿が見えぬことに、

最初に気づいたのは女神たちだった。


「まだ戻っていないの?」


誰かがそう言って、

神々の間にざわめきが広がった。



リンゴはなく、

彼女もいない。


ざわめきが、ふいに止んだ。


視線が、一人に集まる。

――ロキだ。



オーディンが言った。


「ロキ。

お前、イズンとどこへ行った」


ロキは答えない。

するとトールが一歩前へ出た。


「聞こえなかったのか。

どこへ連れていった!」



ロキは両手をあげて制した。


「落ち着け、話す」



ロキはため息を吐いた。


「……大きな鷲に攫われた。

そこで、イズンをよこせと言われた」


神々の間にざわめきが広がった。



ヘイムダルはロキを見た。


「巨人スィアチだ。

奴は鷲に姿を変える」



その時だった。

誰かが、小さく息を呑んだ。


「……鏡を」



女神の一人が頬に触れる。


指先の先で、彼女の肌が

わずかに衰えていた。


ざわめきが、今度は恐怖に変わる。



オーディンは言った。


「ロキ。

すぐに連れ戻せ」


ロキは笑った。


「言うと思った」


オーディンは答えない。


「お前が連れ出した。

なら、お前が連れ戻せ」



――また俺かよ。

ロキは諦めのような表情を浮かべていた。



神々がざわめく中、

ヴェトルは何も言わず

ただ、その視線だけがロキに残っていた。





ロキはフレイヤに鷹の羽衣を借りると、

直ちに巨人スィアチの住処へ向かった。


幸い、巨人の姿は見えなかった。

だが――近くにその気配はあった。


ロキは急いだ。

イズンは一人、檻に閉じ込められていた。




ロキは力を込めるような目線をイズンへと送り、手を伸ばす。


次の瞬間、

イズンの姿は小さな木の実へと変わった。



ロキはそれを掴み、

そのまま空へと舞い上がる。



その羽音に、

切り立った岩の向こうで巨大な影が動いた。





鷲が後ろから空を切って追ってくる。


木の実を掴んだ鷹は、

全速力で逃げていた。


森を越えると、

アースガルズの城壁が見えてくる。

だが、鷲は今にも鷹を掴もうとしていた――。




その時だった。


空を裂くように氷槍が走る。

鷲の羽がわずかに乱れた。



ロキが城壁の上を見ると

そこにヴェトルがいた。


ロキは迷わず木の実を投げた。

ヴェトルは片手でそれを受け取る。



ロキはそのまま城門へと飛び込んだ。


次の瞬間、

門が炎で一気に燃え上がる。


突っ込んできた鷲は、

その炎に呑まれた。



ヴェトルが受け取った木の実は、

ゆっくりと女神の姿へ戻っていき、

城門は赤々と燃え上がっていた。

















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