第6話 停止した装甲車ゆいとまいは月夜の砂漠に散る
月は雲間に隠れ、砂漠は深い藍色の闇に覆われている。
砲塔のコマンダーキューポラから顔を出した緑髪の少女は、同じ色の大きな眼をぱちぱちと瞬いた。少女の視線の先に、闇よりも濃密な黒い影が見える。低く角張った黒い影はまだ遠くにあるように思えるが、すでに戦車の周囲の地面はかすかに地鳴りのように音を立て始めている。巨大な重量を持ったものが、この停止した装甲車目がけて突進して来るのがわかる。
「ねぇ、ゆい?」
車長席で暗視映像を凝視している黒髪の少女が言った。ディスプレイには照明を消して接近する陸地戦艦が正面から映し出されている。
「なに、まい?」
「このシルエット、どう見ても同型艦ですよ」
「わぉ」
ゆいは黒い影から眼を離さずに言った。
「では、友軍ですか」
「それっぽいですね」
「艦長」
ゆいは指先で耳を押さえた。
「聞こえた?」
「聞こえたわ」
ローラマリーの声が言う。
「でもまだ確定できない。偽装もあり得る」
「そうでしょうか」
まいは疑わしげに言った。
「あまり意味ないよね」
ゆいも同調する。
「それでは、味方だと?」
二人の少女は無言で肯定を示した。
「信じられないわ」
ローラマリーは低く言った。
装甲車の車体がびりびりと振動し始めた。
「敵戦艦、なおも高速で接近中!」
黒髪の少女ははっきりと『敵』と言った。
「距離1,000!」
緑髪の少女は砲塔から上半身を出し、右腕を真っ直ぐ前に伸ばした。
「艦長」
ゆいは片目を閉じて狙いをつけた。
「撃っていい?」
「撃てるの?」
ゆいは空中で手を握り締め、寂しそうに笑った。
「はは、撃てないわ」
「敵の艦長はおかしいですよ」
まいは強く非難する。
「戦艦同士は先制攻撃できないのに接近するなんて」
「そう、撃てないのは向こうも同じよ」
ローラマリーは言った。
「でも全速力で」
「こちらにまっすぐ」
ゆいとまいは声をそろえた。
「突っ込んで来る!」
「気がつかない振りをしているのか」
艦長は暗い声でいった。
「それとも進路上の障害物だとでも思っているのか」
「とんでもない」
ゆいは声を上げた。
「完全に衝突するつもりだよ」
「そう、敵はおかしいですよ」
まいは繰り返した。
「絶対に狂っちゃってますよ」
「残念ながら」
艦長は言った。
「私達は狂ったりはしない」
ゆいもまいも押し黙った。
「……破壊に至る抜け道を見つけたつもりかしら」
接近する戦艦の船首にまばゆいライトが灯った。探照灯のビームが動かない装甲車を照らし出す。
「来た!」
まいが叫んだ。
「敵正面! 距離200!」
「ここまでだね」
ゆいは静かに言った。
「私達、消えちゃうのですね」
まいは声を落とした。
「二人とも」
ローラマリーの声が耳元でささやく。
「いい子だったわ」
「さようなら」
ゆいが言った。
「さようなら」
まいが言った。
「さようなら」
艦長が言った。
船首のカウキャッチャーと装甲車が激突し、火花が散る。
数トンもある車輛は猛烈な勢いで撥ね飛ばされ、空中を回転した。
障害物を蹴散らした黒い陸地戦艦は、探照灯を消し、轟音を響かせながら砂漠の闇に消えて行った。




