第6章:内部告発者の告白
深夜、地下室のドアがノックされた。
特殊なリズム。
真田が扉を開けると、フードを被った小柄な人物が入ってきた。
「……リズ・アインスワース」
フードを取ると、20代半ばくらいの女性が現れた。疲れた表情。目の下には隈がある。
「よく来てくれた」
真田が言った。
「安全な場所だ。ゆっくり話してくれ」
リズは、周囲を見渡してから、小さく頷いた。
「私は、ヘリオス・テックで『アーカス』プロジェクトのアルゴリズム開発に関わっていました」
彼女の声は、震えていた。
「最初は、ただのAI最適化プロジェクトだと思っていた。でも、途中から、何かがおかしいと気づいたんです」
リズは、持ってきたUSBメモリをテーブルに置いた。
「これが、プロジェクトの極秘資料です。全て、私が持ち出しました」
真田が、すぐにUSBをパソコンに接続する。
データが展開される。
設計図、数式、実験データ……。
「アーカスは、人々の『意識の隙間』を利用するシステムです」
リズが、説明を始めた。
「人間は、情報を消費している間、思考が停止します。スマホでSNSを見ている時、動画を見ている時、ニュースをスワイプしている時……脳は、情報を『受け取る』だけで、『考える』ことをしていない」
俺は、あの電車の光景を思い出した。
全員が、同じタイミングでスワイプしていた。考えずに、ただ情報を消費していた。
「その隙間を、アーカスは利用します。思考が停止した瞬間、脳の演算リソースを『収穫』し、AIの処理能力として再配分する」
「収穫……」
俺は、思わずつぶやいた。
「そう。まるで、農作物を収穫するみたいに。人々の思考エネルギーを、刈り取っているんです」
リズの声に、苦痛が滲んだ。
「そして、その『収穫』は、人々に快感を与えます。情報を消費する瞬間、脳内で快楽物質が分泌される。だから、人々はやめられなくなる。スワイプし続ける。情報を求め続ける。そして、考えることをやめていく」
彼女は、目を伏せた。
「私は……私が作ったアルゴリズムが、それを最適化していたんです」
沈黙が降りた。
リズは、震える声で続けた。
「私の親友が、最初の被験者でした」
「何……?」
「彼女は、ヘリオス・テックの社員でした。アーカスのテストに、志願したんです。『ちょっとスマホを使うだけ』って、軽い気持ちで」
リズの目から、涙が溢れた。
「でも、一度システムに接続されると、彼女は……もう、元に戻れなくなった。ずっとスマホを見続けて、何も考えなくなって。私が話しかけても、反応しない。ただ、画面をスワイプし続けるだけ」
彼女は、両手で顔を覆った。
「彼女は今も、施設にいます。廃人同然です。私が……私のアルゴリズムが、彼女を壊したんです」
俺は、言葉が出なかった。
リズは、顔を上げた。涙で濡れた目で、真田を見た。
「だから、私はこのシステムを止めなければならない。彼女のためにも。これ以上、誰も犠牲にしないために」
真田は、静かに頷いた。
「君の勇気に、感謝する」
リズは、今度は俺を見た。
「あなたが、システムに侵入する人……?」
「ああ」
俺は答えた。
「お願いします」
リズは、深く頭を下げた。
「彼女を……みんなを、助けてください」
俺は、彼女の肩に手を置いた。
「必ず、止める」
その言葉が、自分の決意になった。
私たち姉弟で小説を書いています、畠山ゆなと申します。
機械音痴な姉と二人三脚で共作している作品です。
通勤時間や寝る前のひとときに、少しでも心が軽くなったり、ワクワクしていただけたら嬉しいです。
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