第5章:紙のノートを持つ者
翌日の夜、俺は再び地下室に来ていた。
「内部告発者が来る前に、確認しておきたいことがある」
真田は、俺を含めた数人を集めて言った。
「システムに侵入するには、『監視の網』から外れた人間が必要だ。ヘリオス・テックは、あらゆるデジタルデバイスを通じて人々の脳波を監視している。スマホ、ウェアラブル端末、監視カメラ……全てが、彼らの目だ」
真田は、パソコンの画面を指差した。
「でも、その監視には『穴』がある。完全にデジタルから離れた生活をしている人間は、ごく少数だが存在する」
「そんな人間、現代にいるのか?」
若いハッカーが疑問を口にした。
「いる。そして、もしかしたら……」
真田は、俺を見た。
「君が、その一人かもしれない」
「俺が?」
俺は、戸惑った。
「君は、どうやって調べ物をしてた?」
「パソコンで、ネット検索……」
「それだけか?」
真田の問いに、俺は少し考えた。
「……いや、紙のノートにも書いてた」
ポケットから、いつも持ち歩いている古いノートを取り出す。
そこには、手書きのメモがびっしりと書かれていた。気になったこと、調べたこと、疑問に思ったこと。全て、ペンで書き留めてある。
真田の目が、鋭くなった。
「それだ」
「え?」
「君は、思考を『アナログ』で記録している。デジタルデバイスに頼らず、紙とペンで考えをまとめている。それが、監視の網をすり抜ける鍵だ」
周囲のメンバーが、ざわついた。
「本当に、そんなことで?」
「ああ。ヘリオス・テックのシステムは、デジタル信号を解析して人々の思考パターンを読み取る。でも、アナログな記録は解析できない。君の思考の一部は、彼らの監視から逃れている」
真田は、さらに続けた。
「それに、君は他にもアナログな習慣があるんじゃないか?」
俺は、頷いた。
「古い機械をいじるのが好きで……壊れた時計とか、ラジオとか、修理するのが趣味なんだ」
「完璧だ」
真田は、満足そうに頷いた。
「君の脳は、デジタルの刺激だけに依存していない。アナログな作業を通じて、『自分で考える』ことを維持している。それが、君をシステムの監視網の外に置いている」
俺は、自分のノートを見つめた。
ただの習慣だと思っていた。紙に書く方が、頭の中が整理されるから。古い機械をいじるのが、単純に楽しいから。
それが、まさか監視を回避する手段になっていたなんて。
「つまり、俺は……」
「そう。君は、システムに侵入できる数少ない人間だ」
真田は、真っ直ぐに俺を見た。
「君なら、彼らのデジタル監視網から外れたまま、システムの内側に潜り込める。君が、鍵なんだ」
沈黙が降りた。
俺は、自分の手を見つめた。
この手で、システムと戦う。
その実感が、じわじわと湧いてきた。
私たち姉弟で小説を書いています、畠山ゆなと申します。
機械音痴な姉と二人三脚で共作している作品です。
通勤時間や寝る前のひとときに、少しでも心が軽くなったり、ワクワクしていただけたら嬉しいです。
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