第2章:反応できない人々
「最近、変だと思わない?」
会社の喫煙所で、同僚の田中が煙草をくゆらせながら言った。
「何が?」
俺は缶コーヒーを飲みながら聞き返した。
「いや、街の人たちがさ……なんていうか、ボーッとしてる時間が増えた気がするんだよね」
田中の言葉に、俺は昨日の電車のことを思い出した。
「確かに……」
「この前、駅のホームで立ち止まってスマホ見てる奴がいて、後ろから人がぶつかっても全然気づかないの。で、その後ろの奴も同じようにスマホ見ながら止まってて、結局5、6人が連鎖的に立ち止まってた。異様だったよ」
俺は、その光景を想像して少し身震いした。
「それ、俺も見たことある。信号待ちで、青になっても誰も動かないの。みんなスマホ見てて」
「だろ? おかしいよな」
田中は煙草を灰皿に押し付けて消した。
「まあ、俺も人のこと言えないけどさ。最近、会議中とか、気づいたら内容全然頭に入ってないことあるし」
「ああ、わかる」
俺も同じだった。
上司の話を聞いているはずなのに、気づいたら何も覚えていない。移動中の電車では、スマホを見ているつもりが、何を見ていたのか思い出せない。
まるで、頭の中に白い靄がかかったみたいで、何も考えられなくなる。
「疲れてるのかな……」
田中がぽつりと言った。
「そうかもな」
俺も、そう答えた。
でも、本当にそうなのか?
昼休み、俺は外に出た。
いつもの駅前の広場。ベンチに座って、サンドイッチを食べながら、行き交う人々を眺める。
そして、俺は気づいた。
ほとんどの人が、スマホを見ながら歩いている。
若者だけじゃない。サラリーマンも、主婦も、老人も。みんな、画面を見つめながら、フラフラと歩いている。
その中の一人、若い女性が立ち止まった。
画面を見つめたまま、動かない。
周囲の人が避けて通り過ぎる。でも、彼女は気づかない。
1分、2分……。
彼女は、ずっとそこに立ち尽くしていた。
表情がない。焦点が合っていない。まるで、魂が抜けているみたいに。
俺は、思わず立ち上がって声をかけようとした。
でも、その瞬間。
彼女の指が動いた。
シュッ。
画面をスワイプする。次のコンテンツが表示される。
そして、彼女は再び歩き出した。何事もなかったかのように。
俺は、その場に立ち尽くした。
今のは、何だったんだ?
周囲を見渡す。同じような人が、他にもいた。
立ち止まって、画面を見つめたまま動かない人。信号が変わっても気づかない人。コンビニのレジ前で、固まったままの学生。
みんな、何かを失っているように見えた。
考える力を。意識を。自分自身を。
俺は、胸の奥に冷たい不安を感じた。
これは、ただの疲労じゃない。
何かが、起きている。
私たち姉弟で小説を書いています、畠山ゆなと申します。
機械音痴な姉と二人三脚で共作している作品です。
通勤時間や寝る前のひとときに、少しでも心が軽くなったり、ワクワクしていただけたら嬉しいです。
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