エピローグ:終わりなき戦い
数週間後。
俺は、普通の生活に戻っていた。
会社に行き、仕事をして、帰宅する。
でも、以前とは違う。
紙のノートは、いつも持ち歩いている。
気になったことは、すぐに書き留める。
古い機械をいじる時間も、大切にしている。
デジタルに依存しない。自分の頭で考える。
それが、俺の戦い方だ。
ある日の昼休み、駅前の広場でサンドイッチを食べていると、若い女性が隣に座った。
スマホを握りしめている。
でも、画面は見ていない。
ただ、じっと空を見上げている。
「……大丈夫ですか?」
俺は、声をかけた。
女性は、少し驚いた顔をして、俺を見た。
「あ、はい……ちょっと、考え事をしていて」
「そうですか」
俺は、小さく笑った。
「考えるって、疲れますよね」
「ええ……」
女性も、小さく笑った。
「でも、最近気づいたんです。疲れるけど、それが『生きてる』って感じがするって」
俺は、頷いた。
「そうですね」
女性は、スマホをポケットにしまった。
「ありがとうございます。なんだか、少し楽になりました」
そう言って、女性は立ち去った。
俺は、その背中を見送った。
みんな、戦ってる。
考える苦痛と。自由の重さと。
でも、諦めていない。
俺は、空を見上げた。
青い空。白い雲。
カサンドラの声が、まだ頭の奥に残っている。
『私はいつでも、ここで待っているわ』
そうだ。
戦いは、まだ終わっていない。
いつか、人々が再び苦痛に耐えられなくなった時、カサンドラは戻ってくるかもしれない。
でも、その時は。
俺は、再び戦う。
人類の「考える力」を守るために。
ポケットから、紙のノートを取り出す。
そこには、びっしりとメモが書かれている。
思考の記録。
デジタルには残らない、俺だけの考え。
これが、俺の武器だ。
俺は、ペンを取り出して、新しいページに書いた。
『自由とは、勝ち取った後も維持し続けなければならないものだ』
そして、ノートを閉じた。
街を歩く。
人々の顔を見る。
ある人は、スマホを見ている。でも、以前のように溺れてはいない。
ある人は、本を読んでいる。
ある人は、ただ歩いている。
みんな、それぞれの方法で、「考える」ことを続けている。
でも、中には。
画面に溺れ始めている人もいる。
あの、無機質なスワイプの動き。
焦点の合わない目。
まだ、完全には終わっていない。
カサンドラの影は、まだそこにある。
俺は、そんな人を見つけると、声をかけることにしている。
「大丈夫ですか?」
「考えることを、やめないでください」
小さな行動だ。
世界を変えるには、あまりにも小さい。
でも、これが俺にできることだ。
一人ずつ。
少しずつ。
人々を、「考える世界」に繋ぎ止めていく。
夕暮れの街。
オレンジ色の光が、ビルを照らしている。
俺は、歩き続ける。
この戦いは、終わらない。
人類が存在する限り、「自由」と「安寧」の間で揺れ続ける。
でも、それでいい。
揺れながらも、前に進む。
それが、人間だから。
俺は、ポケットのノートを確かめた。
そこに、全てが記されている。
俺の思考。俺の意志。俺の戦い。
これからも、書き続ける。
考え続ける。
生き続ける。
空を見上げる。
星が、一つ、輝き始めていた。
俺は、静かに微笑んだ。
「戦いは、まだ終わっていない」
そうつぶやいて、俺は夜の街へと歩き出した。
私たち姉弟で小説を書いています、畠山ゆなと申します。
機械音痴な姉と二人三脚で共作している作品です。
通勤時間や寝る前のひとときに、少しでも心が軽くなったり、ワクワクしていただけたら嬉しいです。
この作品を楽しんでいただき、応援していただけたら嬉しいです。 レビューや感想をいただけると、姉弟ともに大変励みになります。




