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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
3章

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37 スカウト

 ユウが素材の売却に向かった後、私は裏路地の木箱に腰かけて、『鞄』作りを再開する。

 インベントリがあるとはいえ、私たちも「力」は高くなってきたんだ。普段使いするものはこっちに入れておいたほうが便利だから。


 ちーちゃんとユズハはユウに渡された不思議な板をいじっている。


「……で、これどうやって使うわけ?」


 板に触れると光が浮かび上がり、色とりどりで、形も様々な『ブロック』が降ってくるらしい。

 軽快な音が聞こえてくるけど、その説明からまるで想像が出来ない。


「おー……なにこれ。魔道具?」

「さあ。ユウが『ゲーム』って言ってたけど」

『ゲーム……これがー?』


 とはいえ今はやりたいことだらけ、いい加減ユウの出した物にいちいち驚いていられない。

 距離を取って二人の言葉を聞くだけの態勢をとる。


『――。……?』

「あ、勝手に触んなチビ!」


 ちーちゃんの指が板の上を滑るとなにか変化が起こったみたい。


「一列揃えると消えた。なにお前これ知ってんの?」

『――!』

「手動かされても分かんねー。ああ、なんか数字が増えてんね。これ繰り返す感じか……いやどういう原理だよ!!」


 ユズハが数回試した後、すぐにコツを掴んだようだから。


「お」

『――! …………』


 それからしばらく、部屋には彼女が板を操作する音と、時折呟く声だけが響いていた。

 私たちにとって要警戒の人里で、こんなにゆっくりできる気配察知持ち。自信に満ちてるわけだ。


「……シノさー」

「なに?」


 顔はゲームに落としたまま、雑な声かけがくる。

 なんだろ。


「このチビ、あんたにとって大事なんじゃないの?」

「まあそりゃ、家族だし」

『わたしがお姉ちゃんなんだよ!』


 ユズハの指が止まる。


 彼女は板から視線を上げ、こちらを睨むように見つめている。その目には明確な警戒の色があった。


「精霊術師で、見た事ないスキルを使うから警戒してたけど──ぶっちゃけお前ら雑魚でしょ」

「そうね」

『雑魚でぇす♪』

「…………」


 そもそも精霊術師が重宝されるってのがピンときていない。

 そりゃこの前の精霊王様なんかは別次元に思えるけど、あんなの絶対契約なんてできないでしょ。


「ユウがいない今──ボクはお前らなんか秒で気絶させて、すぐにでも連れ去れるんだけど?」

「でしょうね」

『えー! ユウに助けてもらうから平気!』

「……ッ」


 ユズハから小さく舌打ちが聞こえる。

 言いたいことは分かるけど、回りくどいなあ。


「別に私はユズハを信用してるわけじゃないよ」


 想像よりも仲良くなってきちゃって、怖くなってきたんだよね。

 この疑心暗鬼はやっぱりユズハもあまりいい環境で育ってきてない証明だ。

 

 そういう時こそ上っ面の言葉は逆効果、本心で話させてもらう。


「……じゃあもしかしてボク──お前ら如きに舐められてる?」

「まさか。私じゃどうにも出来そうにないってだけ」

「なのにユウに頼らないって事は……へー、あいつも大した手段持ってないって事ね」


 私は木箱から腰を下ろし、思ってた以上の真面目な話に真っ直ぐ目を見て話す。


「全然違う。私もユウが何するか分からないし、ユズハの立場で警戒解いていいとは思えない」

「……つまんねーハッタリ。ボクをここに残した時点で底が知れるんだよねー」

「私がなにか考えあるように振る舞ってるからね」

「……ふーん……シノはユウの言う事なんでも聞きそうって思ってたけど?」


 実際なんでも聞くけどね。

 恩があるのも確か。だけどそんな小さな事よりも──


「私たちが育った村ってろくなとこじゃなくてさ。ちーちゃんはイジメられて、私は嫌な奴に売られて――」

「……急に不幸自慢? そんなのどこにでもある話じゃん」

「そんな環境だったからか、今がもうとんでもなく楽しいって事! やりたい事やらなきゃいけない事が延々と増えていって、収拾がつかないほどで」

『そう! だからユズハだってこのまま一緒に過ごせば――』

「────で?」


 ユウには自然に振る舞っていてもらうというのがちーちゃんの考えた、夢いっぱいの素敵な対策だ。


 2人とも乗るのはどうかとも思ったけど、ユウに時間を与えられるしこれでいいと思ってる。

 最初は地味とか言っちゃった特技も、インベントリも考え方もとんでもないものだったから。

 多分時間さえあれば、すぐユウに敵なんかいなくなる。

 

『もーう! シノ通訳してー!!』


 二人して捕まったら、助けてもらおうね。


「将来の夢なんか考えたこともなかったのに、今じゃ何を諦めるか考える事態で。リーダーもうるさくなくて──こんな快適な旅あり得ないって」


 なのに最近ユウは、私が文句付けないと毎回不思議そうに見てくるんだよ。

 私もちーちゃんもどんな事にだって付き合うつもりなんだから、もう少し信用するべきだ。


「…………あーっそ、ボクはシノと違って持ち物預けられないし、ここは諸事情で歩けないし、全然ピンと来ないけどね!!」

「そうやってなんにも明かさないから警戒されるのに」

「あ、じゃあさ! お前らがうちの軍に来ない!? 生意気なユウだってボクが特別に──」

「……ユズハー?」

 

 弱い私たちだけになって、気が抜けちゃったかな。

 ユズハも狙いが漏れてマズイと思ったのか言葉を詰まらせているけど──


「…………田舎もんは知らないみたいだけど、この国はもう腐ったところで安定してんの」


 開き直ったのか、そのまま説明を続ける。

 路地の隙間から見える街並みを見るよう顎でしゃくりながら。

 くっ、その仕草はイラっ。


「……立派な街に見えるし、結構賑わってるように聞こえるけど」

「気配察知で分かるけど、騒いでんのは高レベル冒険者だけだから」


 へぇ。『冒険者』――魔物を間引く仕事だけじゃなくて、素材や魔石で生活する人たちだったか。

 そのあふれるロマンに村の男の子にも人気の職業だ。


「それは心強いね。何がダメなの?」

「はっ、頭お花畑で笑える。どこも経験値は冒険者と権力者に独占されて、一般人は死なない程度の配給のみで生かされてんだよ?」

『!?』「……聞いてない」


 間引きは街全体の仕事のはずで、ユウもこの政策は褒めてたけど――

 ユズハが嘘ついている? いや……村の奴らを見る限り、こっちに信憑性を感じてしまう。


「量より質を重視しても同じ結果が出せるんだから、当たり前だよねえ? 力の差が出るから差別も当たり前。今は強い側にいなきゃ終わりの時代なんだよ」

 

 それは……そうかもね。

 下の者は絶対に逆転が許されていない構造。威張ってるやつはこれが本当に大好きだったから――


「ユウだってろくでもない対応されて帰ってくるよ。よそ者があんな怪しい貧乏くさい格好で向かって――馬鹿なのかあいつは」

『…………』


 確かに上手く回ればいいけど、人間が集まってそんな綺麗な考え出来る訳ないんだ。


 嫌な予感がする。

 私たちが黙った様子にユズハは調子に乗った表情だ。


「まあ? ステータスを振り分ける謎ポイントも余ってたし、死ぬことはないからビビんなくていいって」

「……いやそうじゃなくて」


 そんな危険な状況なら……ついていくべきだった。


「言っとくけどボクについてこなきゃ、ユウはともかくお前ら弱っちい奴が浮き上がるチャンスこの国にはないからね」


 あんなんをカモる展開なんて……すっごい見に行きたかった!

 どんな問題起こしてくるのか想像もつかない! ついていくためには予想外は極力なくしたいのに!


「いつも心配してくれてありがとね。ただ多分これから面倒事が来ると思うから──今はごめん」

『――♪』

「……っ、あーあ。シノはもう少し頭いいと思ってたんだけどなー」


 それは返す言葉がない。突然だったとはいえ力もないのにユズハの機嫌を損ねるようなことを言って。

 だけどよかった。ユズハは「もう話しかけんな」とばかりにもう一つのゲームに手を出している。


 こっちの鞄も完成間近。

 この流れならユウは必ず面倒事でも持ってくる。手が離せなくなる前にラストスパートといこう!




       ♢




《雑魚って、どういう意味ー?》

「ああ、弱くてこの国で搾取されるだけの存在って事」

《へー! そうなんだ! 搾取って、なーに?》


 ユズハがゲームと話している。

 なんでも猫のような生き物が二本足で立ち、ユズハの子供として生まれたらしい。

 なんでそんな生き物が話せるのかまるで分からない……


「成果も頑張る理由も、全て強者側に捧げ続ける馬鹿って事だよ」


 ……そしてユズハが感じ悪い!

 私が断った事を根に持ってるのか、こっちに聞こえるようにろくでもない事しか教えていない。


『ちっがーう!! ねえもうわたしが教えるから貸して!!』


 ちーちゃんは知の精霊らしく、間違った意味を平気で教えているユズハをポカポカと叩いている。

 そんな空気に居心地の悪さを感じていると――


「――ごめんお待たせ! 早速で悪いんだけどここすぐ離れなくちゃで――みんな動ける!?」


 ユウが戻ってくる。

 顔全体に布を巻いた、とんでもない不審者となり果てて。


「はー? お前さ。このボクをこんなに待たせておいて――――……おおおおお前えええッ!?」

「……おかえり。大荷物だね」

『……っ!??』


 焦った様子で息を切らせながら、ユウがその手に持っていたのは──何故かインベントリに入れていない、100枚は下らない大量の『金貨』を布で包んだものだった。

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