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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
3章

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36 不法侵入

「――お前らが目指してた街って、まさかあれの事!?」


 ユズハの指差す先は見上げるほどに巨大な石造りの壁が、堂々とそびえ立っていた。

 シノさんもちーちゃんもあまりのスケールに大口を開いて固まっている。

 王国の中でも大規模の交易都市。そこが僕たちの当面の目的地だった。


「お前らさあ……自分らの価値分かってないの? 身分証もないのにどうやって入れてもらう気なんだよ!」


 彼女の指の先には、松明の光に照らされた重厚な城門と、槍を構えて欠伸をしている二人の門番の姿があった。

 中に入る人間もちらほら見えるが、その誰もが結構な硬貨を渡しているのが見える。


「あれ、ユズハって身分証持ってないの?」

「…………ないよ?」


 あ、これは地雷っぽい。自主休暇中で顔バレするわけにはいかないと。

 こいつもしかして僕が思ってるより有名か……?


「人間が……あんな大きさの物を、作れるものなの……?」


 シノさんの視線の先には高さ10メートルほどもある壁が、街全体を囲っている。

 レベルやスキルが存在する世界だからこそ、こんな時代でも可能なのかもしれない。

 ゲームだからと深く考えてなかったけど、確かにこの世界の文明を舐めていた。


「はいはい女子供がビビってるんでこの話は終わりね、行くならもっとちっこい街行くよ」

「お、驚くくらいいいでしょ、街なんて初めてなんだから。というかなんでユズハは反対なの?」

「…………かーっ、この田舎もん共はさぁ」


 シノさんの質問にユズハは大きくため息をついているけど、ここは説明してくれるみたい。


「あれくらいデカい街になると国から魔物を間引く任務が課せられてんの」

「そうらしいね。いい政策だと思う」


 魔物は放っておくと数が増えて、女神像の魔除け効果を乗り越え壊しに来るから間引きは必須作業だ。

 だけどそういう街は税も安いし魔石や素材も稼げて、街の人も強くなれて好循環でいいと思う。

 犠牲とか考えなければだけど。


「だから中にはまあまあ強いのが揃ってて、当然門番だって並以上。お前らみたいな貴重品が考えなしに入っていい場所じゃないんだよ!」

「はえー、なるほどねー」

「私たちの心配してくれてるって事?」

「……は? あー……そうだよ? 捕まりでもしたら可愛そうだからね!」


 街の奴らも僕達を狙う事になったら面倒だもんね。


 色々な事が僕の知ってる知識と違ってきて、最近はユズハの事をよく知らないのに悪く言っちゃったのはよくなかったな――なんて思ってたけど……

 この様子ならちゃんと僕たちの事は狙っていそうだ。よくはないけどよかった。


「ありがとね。でも大丈夫、僕も元々まともに入るつもりはなかったからさ」

「……どういう意味?」

「ロープはユウが持ってたよね。足場も回収してたしそれでいけない?」

「うーん、侵入の証拠になる足場は出来れば残したくないなー」

「上に登ったら聖剣でも刺して結べばユウも使えるじゃん」

「……なるほど、僕がみんなを引っ張り上げる必要ないのか」


 頂上でロープを固定して、それをつたって足場の回収。ロープは5メートルほど、結んだ分更に短くなるけど僕がロープの末端で手を伸ばせばいい。

 シノさん完璧だ……


「──だからさあっ! ボクは捕まるような事をするなッッってんの!!」

「まあまあ。ちゃんとユズハも納得するような案出すからさー」


 シノさんがユズハを嗜めている。


「そもそもこの一瞬でポンポン犯罪案が出てくるのはおかしいだろおおっ!?」

「いや僕ら払える賄賂なんてないし……」

「私ら村人が貴重な魔石なんか出したら足元見られそうだし」

「…………シノだけはまともだと思ってた」


 あ、それは僕も。頭を抱えているユズハとは逆に、まともじゃなくて嬉しい側だけど。


 言い訳がましくて悪いけど、僕たちって高すぎる価値の割に取れる選択肢が少なすぎるから。

 先は長いし息切れするほど急ぐつもりはない。だけど余裕がない今は、省ける手順は省かせてもらう。


 なんにせよ決行は夜かな。その作戦でいくなら色々整えておこう。



      ♢



 準備が終わって、ちーちゃんには光の精霊に無事に乗り込めそうな位置を探してもらうようお願いしている。


「見て見てユズハ、これはどう?」

「…………キモい」


 僕はそれをユズハに悟られないよう必死に誤魔化しているというのに――

 

『……っ!! ……!』


 肝心のちーちゃんにウケてしまって、進捗が分からない。

 僕の出来たばかりの調合新作――いかつい老人の顔を描いた『スライムの粘液型特殊メイク』を顔に張り付けながら出る、高い声がツボのようだ。


 全く、今はそんな場合じゃないというのに……


「ねえちーちゃん!! 本当にどうしたの!?」

『……っ!!! ――!』

「――っ痛い!」


 調子に乗ってこの顔のまま、シノさんのスカートを履いて話しかけていると後ろからつねられる。ごめんって。

 ちーちゃんはお腹を押さえて地面を転がっている。


 僕もスクショのインカメで見てみると、うーん……心配になるほど青白い。だけどスライム素材は女神像出しっぱの僕には貴重品だし、当面はこれで妥協かな。


「さて、私らは少し移動するけどユズハはどうする? まだ心配?」

「……ユウはまあ、自分で何とかするだろうし好きにすればいいけど、お前ら二人は――」


 その言葉にシノさんはなにも発することなく、「ふぅ」とひと息ついて自然に姿を消して見せる。


「……はいはいそれがあったね。くそっ、こいつら全員犯罪適性が高すぎる!」 

『──♪』

「あとは――結局向こうで何日過ごすつもり?」

「んー、素材の売却と、必要物資の購入……2,3日? シノさんあとなんかある?」

「まあそんなもんじゃない」

『!!?』

「ちーちゃんは私と宿でお留守番だから……そんなに光ってて出歩けるわけないでしょ」

『――!?』


 アレンさん合流前は……ごめんね。

 せめてお昼ならちーちゃんの輝きはほとんど分からないから、その時歩こうね!


「ユウがこのチビと調合かなんかで荒稼ぎでもすれば、1日で終わりそうじゃん」

「えー? すぐ街を出るのに、あんま無責任な事出来ないよ?」

『……――――……』

「ちーちゃんも本当に困ってる人から材料費以上にお金は取りたくないって」

「……お前らの基準が分からんわ」


 うーん、厳密に決めてる訳じゃないけど、ちーちゃんの力で胸糞悪い事はしたくないかな。


「まあ……2、3日なら、いいけどさ」


 なら良かった。そうしてる間にたどり着いたのは、正門から大きく離れた南側の壁際。

 そこは影になっていて見張りの死角であり、さらに壁の向こう側も荷物置き場になっていて人がいないらしい。

 ありがとう、ちーちゃんと光の精霊さん。


「準備はいい? 行くよ」

「大丈夫」


 シノさんが光学迷彩を展開し、景色の中に溶け込んでいく。

 ちーちゃんも僕の肩にしっかり乗って準備万端だ。


「……ふっ!」


 深く息を吐き、一気に駆け出す。

 勢いそのままに、インベントリから取り出すのはユズハから貰った大きな「木」

 ナイフで尖らせた根っこを地面に突き刺して、一呼吸で登りきる。


 思っていた以上の音が響いてしまったため失敗は出来ない。木のてっぺんから壁の頂上へと手を掛ける。

 届かせたのは片手だけ、それでも力がずば抜けている僕にはこれで充分、右腕一本で──身体全体を引き上げる!


「着地……成功!!」

『――♪』

 

 視界が開け、向こう側に広がる石畳と、夜の静寂に包まれた街並みが目に飛び込んできた。

 初めて街を見たちーちゃんは大興奮。


 ふふ、新しい街ってドキドキするよね。でも今はもうちょっと待ってね。


 すぐに見渡して周囲の気配を探る。誰もいない。


 なら後は流れ作業。事前に話していた通りに動いて僕ら全員無事に、壁の頂上へと到着する。


「くっそ、こいつ本当にうちの国宝(くさび)に使ってやがる……!」

「僕が触ると下まで突き抜けそうで使いづらくてさ、一時的だって」

「それはそれで冒涜なんだよ!」


 進入中なのにギャーギャー騒ぐ気配察知持ちのユズハの様子に、本当に近くに人はいないと分かって安心する。

 聖剣を回収後、ロープを反対に垂らしてシノさんに降りてもらう。


「ありがと、こっちは足場あるからもう大丈夫」

「ほらユズハも。素材を売らないと宿も取れないんだから、行くよ」

「……はいはい」


 僕らも街に乗り込んで、目の前に広がるのは冷たく硬い石畳の街並み。

 遠くの通りから漏れてくる光と、夜でもどこか遠くの酒場から聞こえる喧騒から文明を感じてすごく落ち着くな。


「……ここが、街」


 隣ではシノさんが、いつもの冷静な表情を保とうと口元を引き締めている。

 普通にはしゃいでもいいのに。


『――! ――!!!!!』


 一方、僕の肩に乗っているちーちゃんは、もはや隠すつもりもないらしい。

 鼻息荒く、僕の髪を操縦桿にでも見立てているのかあっちこっち好き放題引っ張って、結構な勢いでHPが減っていくのを感じる。


「ちーちゃん、あんまり動くとメイクが剥げちゃうから……」


 そんな僕ら三人の浮かれた空気に一人だけ、つまんなさそうに鼻を鳴らすのがユズハ。


「きょろきょろすんな田舎もん。ボクらが行くのはそこの裏路地だから」

『!!?』

「……最初から言ってあったろ。あ、ユウはもう行くなら肉だけでも置いてって」

「私とちーちゃんはさっき預けたのを」

「了解。ユズハはこれも」

「……なにこれ」

「暇つぶしの道具。ユズハだけ食べ終わったらやることなくなっちゃうでしょ?」

「使い方の見当もつかんわ」


 ユズハは渡したものをひっくり返したり、上下に持ち替えている。


 初期からメニューに付属されている、『携帯ゲーム』2種。

 世界中を冒険するため馬車で何日も――なんて現代人に耐えられるもんじゃないから開発側から用意されたもの。


 ラインナップは最低限だけど、現地人なら楽しめるはずだ。ユズハに変な行動起こさせないよう念のため。


「じゃあ僕はお金作ってくるから。みんないい子にして待ってるんだよ」

「…………行ってらっしゃい」

「ユウに言われたくない」

『――♪』


 魔石を売却してくるだけなのに二人のこの不安そうな表情よ……現代人による社交性を──楽しみにしてるんだよ!!

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