35 はじめてのチームワーク
そろそろ街に着くということで、今日はこの世界に来て初めてのお休みだ。
森から外れたここも居心地がいいとは言えないけど、近くに水場もあって素材も豊富。
街で問題が起きないようここで準備休日だ。
僕は騎士団の荷物にあったロープの耐久性なんかを確認していると、ユズハがニヤニヤしながら近づいてくる。
「どうしたの?」
「はぁー、見てよこれ」
そして十メートルほど先にある大木を指さして、わざとらしくやれやれと言った表情をしている。
それは中ほどからへし折れていた。犯人は彼女が全力で放り投げたそこらへんの石ころだ。
「……見てたよ。凄いとは思ってた」
「なんか昨日、木にちっっちゃな穴を開けただけで、ボクに偉そうにしてたカスがいたような気がするんだけど。――誰だったっけ?」
一度投げ方を見せただけで、ある程度の形にした彼女はしつこく鼻息を鳴らして煽ってくる。
「…………」
昨日、僕はシノさんにいつも通りにしていいと言われている。疑い深い彼女がそう言うなら対策は考えていてくれてるのだろう。
それでも僕は適当に褒めたり媚びたりなんかして、なあなあでいこうとは思っていたんだ。
「……ねー、この倒れた木、ユズハいる?」
「は? なにそれ、昨日は隠していただけのボクの才能に、なんか言うことないわけ?」
だけど僕の特技は世界一で……勝手に借りたフォームは偉大なプロ野球選手の物で──
「まぁ……15点くらいじゃない?」
なのにここまで調子をこかれて、引くわけにはいかないでしょうが!
「──あ?」
正直威力には腰が抜けるほどビビってる。
だけどこんなのただの『投擲』スキルに頼っているだけで、ほとんど手投げじゃんか!!
「いやいいんだけどさ。スキルに頼りっきりってのは、僕の価値観だとちょっとね……」
「……はぁぁぁあ。ボクの才能に抜かれた奴ってすーぐ見苦しい言い訳するんだよなぁぁ……」
ス、スキルっていうのは、僕の世界では長時間の訓練とか学習をして身につけるものであって……!
くっ、悔しい……威力で負けてる僕がこれを言うのは凄く格好悪い……!
「……一日預けてよ。ユズハ次第であの魔物、すぐ食べられるようになるからさ」
上空には女神像の範囲外を飛んでいる魔物、確か名前は『スカイバード』だったかな。
僕たちが女神像から離れるのを待っているのか、ずっとその場で旋回している。
「……は? あんなんに届くわけないじゃん」
「ねえ……もし獲れるなら一番美味しいところは全部ユズハに譲れるけど、挑戦だけでもお願い出来ない?」
調理担当のシノさんも追従してくれる。
彼女は一日三食という文化が無かったらしく、食料の補充には大分気を遣ってくれているみたい。
ユズハも「さ、三食……当然だよね!」と言っていたから僕だけのワガママじゃないはずだ。
「それにフォームって変な癖つくと面倒くさいんだよ? 直すの大変なんだから」
「……お前らさー、昨日から急に……なんのつもりなわけ?」
「──ん?」
ああ。僕達が警戒しているように、ユズハだって僕らを信用してるわけじゃない。流石に怪しかったか。
僕らのほうが弱いんだろうけど、向こうは立場的には一人だもんね。
「……お肉は僕も食べたいし、もし受けてくれるならこの倒れた木も欲しいしな―」
得意分野で見下されて腹立ったってのもあるけど、これは本当だ。
寝る場所は別、食べ物は先に僕らに食べさせるし、ここまで警戒されてる内は処分なんて当分出来そうにない。
だったらこの状況は利用したほうがお得なんだ。それは向こうだって同じで――
「利用できるならしちゃえば? ユウはこういうのが得意ってだけで、ユズハが負けてるなんて誰も思わないから」
そうだよね。
というか僕はシノさんの考えてることの方が分からない……なんでここまで味方してくれるんだろ。
「……これまで全然努力してるように見えないユウが、このボクに何を教えられるわけ?」
「あー、見るだけでもいいからさ」
それにこの――ちゃんと頑張ってきた人なりの反感なら好感持てるから。実際僕の訓練方法は反則みたいなもんだしね。
「はいこれ、ユズハの投球フォーム」
「……何これ――――は!? なにこれ! ボク!?」
メニュー画面の録画機能を使って、さっき投げていた時撮っていた動画を見せる。
「ほらこことここ、せっかくつけた勢いが全部死んで――」
「いやいやいやいや! これ! どんな原理!?」
『――!?』
凄いよね、科学技術って。
もちろん僕はそんな説明が出来るわけがない。
おっと、ちーちゃんが私も撮ってとばかりにちっちゃな石を手に取って、なんちゃってワインドアップで投げている。
うんうん、推定飛距離3メートル。凄い!!
「あああッ! こんなガキはどうでもいい!! てかこんなのボクに明かしてどうする気――」
「メニュー画面が見られてるんだから今更だって」
捕まったらどうせこれもバレるし。そもそも僕の価値は既に天井、今更だ。
「これなら聞けない? 努力とかそういうの超越した、とんでも技術だよ?」
「…………み、見るだけだから! てか──木なんている訳ないだろ! 勝手に持ってけよ!」
やった、いくら『力』を上げても刃物はナイフだけ。足場になりそうな素材が欲しかったんだ!
♢
一時間ほど経った頃、上空を狙いやすいよう簡易的に作った土の山に足を掛け、ユズハが放った石は先ほどよりも鋭い風切り音を立てた。
そしてそれは狙い通り、空を飛ぶ魔物の足が吹き飛ばしている。
「……うおおおおっ!! ほ、ほらぁ、分かる!? これがホンモノってヤツなんだよ!」
…………一時間かー。
動画でユズハと僕のフォームを録画比較して、見逃しやすい点は遠回しに指摘して。
それでこの成長……ま、まぁ僕ほどじゃないけどね。
「ねえなにボサっとしてんの!? 手頃な石集めてきてよ! もう仕留めちゃうからさー」
難易度がバカ高くなる真上への投球を苦にしない、スキルによる命中補正。とんでもないな……
「仕留めた後キャッチする手段って持ってるの?」
「あーん?」
魔物はこの場に撃ち落とさないと、損壊なくキャッチすることはできない。
そしてもう一つ、捕球手段。どう切り出せばいいか悩んでいると――
「あーはいはい、アイテムボックス持ちってホントめんどくさいよね。あげるからよろしく」
向こうからお許しが出る。
スキルが認知されててよかった。仲間の持ち物なら問題なく収納出来るんだけど、ユズハのは……なんて言い出しにくかったから。
「助かるよ、欲しい部分があったら言ってね」
「いらねー。あ、でも宿代と一日三食は厳守ね。逃げちゃうから早くー!!」
手渡した先の尖った石を手に、ユズハは溜めを作って作って――
「明鏡止水の如く――喰らえ!」
適当なカッコいい言葉と共に放たれた一撃は、吸い込まれるように鳥の眉間を貫いた。魔物は一声も上げられず、地面へと垂直に落下していく。
「……ふ、ふふ。うわははははっ! やっぱりボクこそ世界最強! ユウは2度とボクに偉そうにしないように!」
『!?』
「……すっご」
うん……すっごい。
力の流れを一点に集める事も可能な現代スポーツ技術。ステータスがある世界じゃこの運動の連鎖は致命的に噛み合っていて……
対魔物戦、女神像内では本当に人類最強かもしれない。
改めて僕もうかうかしていられないと、落ちてきた魔物を回収しながらそう思った。
♢
「…………っ……う、美っ味あああああ! なにこれ、シノおかしくない!? 天才過ぎない!?」
「……いや……確かにおかしい……おかしいでしょ! 私塩振って焼いただけだよ!?」
『――!! ――!!』
噛んだ瞬間から違いが分かる。
脳に幸せが染みわたる……! 久しぶりのお肉、本当においしい……
「……ユズハ、あんたが仕留めたこれ……もしかしてとんでもないレアモンスターじゃ──」
「は? い、いや! いやいやいや、確かに面倒なヤツではあるけど……外歩いてりゃいくらでも出くわすわ!」
もっとこいつの肉は獣臭いはずで……なんて呟いているユズハの横で「ハグッ! ハグッ!」と一心不乱にお肉に齧り付いているちーちゃん。
この光景で更に美味しくなってしまう。
「ならこれ──ユウ!? あんたいったい何やったわけ!?」
「ええー? えへへへへ」
解体は多分ゲーム仕様。結構するすると出来たし、この様子なら皮なんかも面倒な手順は省略されていそうだ。
だけど羽やクチバシといった素材になりそうな部分の処理は必要らしく、シノさんとちーちゃんが教えてくれなかったらどうにも出来なかったと思う。
ありがたく全ての素材をインベントリに入れさせてもらったけど、これが良かったのかな。
使い切った『血』の補充の為、究極まで血抜きした事で最高品質の鳥肉になっている……
熟成もなしに臭みを一切感じないお肉、ここまでのは僕も初めてかもしれない。
「おいしいのは、みんなで協力したお陰さ」
「…………そういうのいいから! なんでよ、ユウは料理しないでしょ! 教えてよ!」
これだって本当なのに。だけど今はそんな事より──
「…………」
手に持ったお肉を見ながら、急に黙ってなにやら考えているユズハが気になってしまう。
「……何、どうしたの?」
「……っ! な、なんでもない!
それより──ねー、シノさあ、ボク三食これがいいんだけど」
「正直私もそんな気分だけど……続けるなら塩とお肉、もう少し必要かな……」
「――ユウ!! 残り容量は!? まだ入るね!?」
「まあ……もう少しね」
インベントリにはまだまだ腐るほど入るけど、そのへんはボカしておく。
なんにせよユズハがやる気になってくれてよかった。
解体した素材と魔物の体内で生成された『魔石』――魔力を含んでいることで、鍛冶や魔道具なんかに使える石。
回収させてもらった大きめの換金素材を手にそう思う。
明日到着予定の街ではゆっくり過ごせそう。なんだか楽しみになってきたなー。




