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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
3章

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33/39

33 ワインドアップ

「肉! おーにーくーが食べたいーーー! シノもさあ、折角料理できんのにこんなんばっかじゃ腕が落ちるでしょ!?」


 夜の森。

 野営の準備が整いシノさんが辺りを照らす中、ヘビーローテーションの一角「ポム」を持って一人暇を持て余しているユズハが騒ぐ。

 

 次に役立たずの僕は、落ちていた魔物の死骸からアイテムの調合中だ。

 スライムの死骸なんかはレア度が低いからか結構きれいなまま放置されていて、女神像持ちの僕にはありがたい。


 あまり良くない事に使うつもりだからちーちゃんには頼れない。試行錯誤中だ。


 そのちーちゃんはシノさんと話しながら、素材本の作成中。

 写真なんてとんでもない技術と最高の知が合わさった究極本、将来この子が一番お金を稼ぐと思う。


 アレンさん合流前じゃ一瞬でさらわれそうで、売る事なんてできないけどさ。


 今日も光が目立たないように、道から外れて近くの森に入ったここで夜を明かす予定だ。


「……シノさんは今明かりを照らしてくれて、僕らの服を作りながら、手話の勉強してる最中なんだけど。まだ仕事を増やす気なの……?」

「いやユウも増やしてんじゃん! ボクのなんて可愛いもんじゃん!」


 僕は僕の世界で流行ってる服のイメージを聞かれたから……

 最近はもうシノさんからは未来人として扱われて、遠慮なく色々聞かれている。


「あーーーーもう無理! こんな服が存在してたって嘘でしょ!? どうやって作るのか想像もつかないんだけど!!」


 シノさんに渡したのはちーちゃんのスクショにフリルのついた、パステルカラーのワンピースの絵を描いたもの。当然作り方なんて僕は分からない。ミシンでも必要なのかな?


「それと糸と生地が全然足んない! ねえ、やっぱり町に着く前に魔物狩ってもいいんじゃない? 素材は売れるし、調合にも使えるし。あくまで安全にさ」

「!? だよねぇー! 殺すまでならボクがやったげるからさー!」

「うーん、ユズハもこの辺歩くの初めてでしょ? どんな魔物がいるかも分からないとなぁ……」


 いったん女神像の範囲内に入ってしまった魔物には、魔を払う効力が出ないんだ。

 正直お肉は狂うほど食べたいけど、命のリスクと比べると……


「あ、ユズハの投擲スキルで、女神像の範囲外にいるのを仕留めるのはどう?」

「……は? ダルいから知能低い事言わないでくれる?」

「いや物を遠くまで投げるって、実は凄い技術がいるんだって」


 アレンさんを見て確信したけどこの時代、絶対力の流れとか深く考えてないから。


「…………ボクはさぁ、子供のころからずっと神童と言われてきたんだけど。それを分かって講釈垂れてんの?」

「あはははっ! 急に身の程知らずでどうしたの? 身体を動かすことで僕に勝てる訳ないじゃん!」


 料理も裁縫の知識もなく、これまで未来人であることのメリットを何一つ生かす事が出来なかったけど、これは話が別だ。

 まさかアレンさんとの戦いを見てたのに、現代でスポーツ特待生の僕に噛みつくとは思わなかった!


「………………ふー、思わず殺しちゃうところだったよ。

 いいよ、まずその凄い技術ってやつ見せてみ? その上でボクが猿にもわかるようアドバイスしてあげるからさ」


 またまた殺せないくせに。

 アレンさんは元気のままで、潜入先の騎士団は一部壊滅。僕たちというお土産がなかったら、そっちも無事で済むわけないんだから。


 シノさんはこんな僕たちを見て、ため息をつきながら光を強めてくれる。また働かせちゃってごめんね。

 一つお礼を言って手ごろな石を拾う。


「ゆっくり動くからちゃんと見ておくんだよ」


 夜の森は、風のない静けさだけが張りつめている。


 そんな中、僕は足を大きく広げ、標的とした十メートル先にある太い木の幹を見つめる。

 この世界に来てから、みんなが気にするのはスキルやステータスばかり。仕方ないんだけどね。


 石の重心を探り、指のかかりが良いポイントを見つける。縫い目はないけどグリップは悪くない。


「プ。なにその構え。キモキモキモだよ?」


 僕がとったのは両手と左足を高く上げる独特のフォーム、今はあまり見る事の少なくなってきた、『ワインドアップ』だ。

 意識するのはエネルギーの伝達効率。


 右足に溜めたパワーを、そのまま横移動のエネルギーに変えて――

 上げた左足で地面を強く踏みこむ。そこから伝わる強い反動を、全て腰の回転へ繋げる。


 ――下半身は先に走らせて、上半身はまだ我慢。


 背骨、肩、肘。究極まで引っ張った筋肉を、バチンと収縮させる。最後に飛び出すのは脱力させた右腕だ。

 イメージするのはしなりを持った鞭。


「――ッ!!」


 手が離れる瞬間、全てのエネルギーを指先の二点に集約する。叩きつけるように投げつける。


『パンッ!!』


 石が空気を切り裂く破裂音。

 重力を無視したレーザービーム。

 ズドン!!  という乾いた音と共に、狙った大木の幹を粉砕して後ろの木まで貫通している。


「…………」

「…………」


 お、おお……ステータスってこっわ。自分で自分の威力に驚いた『――!?』

 おっと、まあまあちーちゃん落ち着いて! こんなのこの時代の人からしたらズルなんだから。


「………………っ」


 ふふふふふっふ。あ、ダメだ。ユズハの悔しそうに唇を噛んでる姿と、ちーちゃんの褒め上手さに、ズルなのに気持ちよくなっちゃう。


「……ぐ……ぐぐぅ……」

「ね? こうやって筋肉の連動を意識すると──」

「ま、まあ!? 確かに凄い音はしたけどさ、眠くってよく見えなかったから……ボクはもう寝るよ!!」


 一方的に言って、僕の用意したベッドのような寝床をひったくるように奪って――


「ユウは寝言うるさいからこっち来ないでね!!」


 と指差してくる。


「ふふ、いつもごめんね。明かりは大丈夫ー?」

「~~~っ! 寝るっつってるでしょ! バカなの!?」


 吐き捨ててユズハの姿が見えなくなる。

 まあ夜目が利くってアレンさんも言ってたし、平気かな。

 どう考えても大人げなかったけど、今はシノさんたちと話したかった事がたくさんあるしちょうどよかった。


「いや……いいの? あの子を強くするような事教えちゃって」

「多分あの性格なら、僕らに使ってくることはないんじゃない。プライドが許さないね、きっと」

「多分とかきっととか……はぁー、まあ私もそう思うけど」


 呆れたように呟いて、シノさんはちーちゃんへと目を向ける。


『――b!』


 その目線に親指を立てるちーちゃん。どうしたの?


「ユズハ、ちゃんと離れてくれたって」

「………ええ?」


 なに……どういう原理?

 なんか一緒に旅してる筈なのに、二人の連携だけ凄い進化してる……


「ちーちゃんが光の精霊に聞いてくれたの。モールス信号だっけ? 意思を伝えるのが楽しいみたいで、すっごい色々教えてくれるんだって」

「………………そう。あ、ありがとね!」

『――/// ――――!』

「私は覚えられる気しないけど。あー、あと不審な行動もなしだって」

「……うん。僕も色々頑張るからね」


 ユズハを上から見てる場合じゃなかった。僕もこの二人に比べると何もしてないのと同じじゃん!


 「何をよ……」なんて呆れながら、光の精霊にお礼のMPを渡している二人を見て少し焦る。

 魔物の解体なんかは初めてだけど、僕がしようかな……


「さて、こっちは聞きたいことだらけだったんだ。色々と共有しておこうか」


 ユズハがついてきて3日目、僕たちはようやくまともな情報共有の機会を得ることが出来た。

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