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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
2章

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32/32

※31 九條裕也

「出しゃばんじゃねぇ3号! じっとしてろ!!」


 そんな怒鳴り声とともに横から飛び出してきたのは、PN(プレイヤーネーム)九條裕也。

 3号とは私――『佐藤絵里』で、デブ3号の事。雇われた3人のプレイヤーアバターが丁度太めの男性ばかりだったため、番号で呼ばれることとなった。


 ホーンラビットの群れを傷一つ負うことなく、戦闘が終わる。

 ここははじまりの村から少し離れた場所にある――着いて早々九條裕也が力で支配した村だ。


 そこで道中手に入れた魔物の皮や角を使い、私たちを監督に配置して村に作らせた『クロスボウ』

 その試運転は大成功といったところだろう。


「素材は1号、2号がしまっとけ。そしてテメェ3号……分かってんのか?」


『プレイヤーが村人庇うとか正気かよ』

『ゲームと現実区別出来てる?』


 ろくでもない男の配信にはろくでもない人間が集まるのかもしれない。

 聞く価値の無い、自動読み上げ音声のしょうもない煽りを雑音として聞き流す。


「新規プレイヤーははじまりの村から呼び寄せなきゃなんねえんだぞ? 給料貰っておきながら――テメェはモブの為に死ぬ気か?」

「勝てる自信がありました。それにこの人たちも検証の為には減らすべきでないと考えました」


 この人たちは移住させるらしい。

 「俺が支配した村だから、これは俺の物」という、信じられない理屈でこの村の『女神像』をインベントリにしまわれて──

 魔物の危険に晒されるようになった村人は、はじまりの村へと送るそうだ。


 複数人プレイをする際の新規プレイヤーは、『はじまりの村の住人』を乗っ取るという形で参入する。


 九條裕也はホスト役として、主人公としてシノさんの婚約者の身体を、私はどうやらマサオ君を乗っ取っているようだ。


 難民として彼らをはじまりの村へ送ることで人口を増やし、プレイヤーの『器』となる人間を増やせるか検証したいらしい。


「ほーん、努力をしてきた体形には見えねぇが、まあいい。口だけだったらその時点でテメェは首だ。口答えによる裏切りだ、違約金は払ってもらうぜ?」


『デブが夢見がちで笑うww』

『最前線に出そうぜ』


 この体形は私の物じゃないからどうでもいいけどさ。

 私の場合、どこに請求が行くんだろうな。

 このアカウントの元々の持ち主か? そんな契約交わしておいて迂闊すぎるだろ。


「さて、3号が期待の新戦力になってくれたことだし? 次はここの領主をぶち殺しにでも行くかあー」


「!? お、お待ちください! 私どもはどうなるのでしょうか!? ご案内された村までなんてとても――」

「知るか。元々思い付きで決めた検証だ、上手くいかなかったところで大した影響はねぇ」

「そ、そんな……」


 …………本当に、心が痛む。


「あの遠くに見える一本杉を目指して真っすぐ向かってください。そこまでの距離はありません」

「……そ、そんなことを、言われても……」

「暗くなる前に出たほうが良いかと……」


 元々このゲームはSNSに流れてきた動画で、ユウさんが好き勝手やってて楽しそうだったから、という理由で始めたんだ。

 正直この状況は歯がゆい。

 

 だけど私が止めたところでこの男が止まる訳ではなく、この男の真似をしている人間も減ることはない。

 心を無にして、割り切る方向に舵を切る。


 悔しいけれど――


『もうそんな権力者に向かって平気なのー?』

「はっ、この辺の領主も役人も中抜きだらけのクズしかいねぇんだ。多めに金握らしゃ国にバレることはねぇんだよ!」


 このゲームの攻略において、こいつほど頼りになる人間がいないからだ……!


 加えてPNからも分かる通り、自己顕示欲と知識自慢厨を拗らせたこの男は誤情報とは無縁の存在。

 こいつを殺してSPを奪い取った後も、この情報の垂れ流しは必ず役に立つ。


『あんまりゲーム情報ばらまかないほうが…』

「……あんだ、テメェも元プレイヤーか? っせえ!! 俺はテメエみてぇなしょぼい価値観持ち合わせていねぇんだよ!!」


『こういうやつが足引っ張るからユウが調子コくんだよな』

『未来技術手に入れたらこういうやつも晒さね? 普通にウザいわ』

『ごめんなさい調子に乗りました許してください』


 そしてゲーム情報をばら撒くこの男を炎上させることも出来ない。現時点では誰より未来技術に近いから。


「いやあ? あのガキが調子に乗るのはここまでだ。2位も既にコンテ消費済みの鼻くそで――は。ようやくスタートダッシュが速かっただけの無能を、トップから引きずりおろせるぜぇ!」


『え、なんで?一位めっちゃ上手く行ってるように見えるけど』

「──まあ? 確かにアレンを引き込んだときは焦ったがよ、んな抜け道はやっぱ潰されてんだよ! ユズハがくっついてくるんじゃあもう詰んでんだよおお!」


『あ、やっぱ裏切るんだ』

「あの女はなあ、キチ揃いの4軍『副長』の一人なんだよ! うははははっ! 処分することも出来やしねえ! それを知らねえからあんな呪物連れ歩けんだよ!」


 ……初耳だ。そうか。アレンを仲間にする方向で進めてたあのアカウントじゃ、結局先はなかったんだ……


「なんの縛りか知らねぇが、ログアウトしねぇで半端な知識だけで攻略しようとしてやがる。はなから転げ落ちるのは時間の問題だったがなぁ!」


『現代人で知識チートしないの、見てて腹立つだけだし誰得なんだよあれ…』


「……いやぁ? 案外マジなのかもな。なんせあのババアが行方不明なんだ、無理やりプレイでもさせられてんじゃねえか!? ひゃははっ! 辻褄が合っちまうじゃねーか!」


 笑いながら、不意を突いて飛び出した魔物を軽く対処して、さっさと先へ歩いていく。


 クロスボウが完成して一通り試したら、すぐ次へ向かうこの行動力。

 インベントリには余った接着剤や角といった重要な素材を着実に増やしながら――


 くそ、比較して落ち込んでる場合じゃない! 私は私の得意分野で勝負すればいいんだから!


「そうだ3号、先頭はお前が歩け。このまま真っ直ぐだ――出来るんだろ?」

「……出来ます」


 ありがたい。稼げる経験値は戦闘貢献度で相当変わってしまう、ここで役に立つ事を証明して――私も強くならなくちゃいけない!


「武器は? クロスボウ以外でだ」

「必要ありません」

「……ひゅ―、んなら俺はこのまま無知共に解説続けてやるかな――って、なんだよ、視聴者減ってんじゃねぇかよ。1号、何が起きた?」

「さっきの裕也さんの発言の検証で、ユウのタイムシフト見たいってやつらが何人かいました」

「……ああ? ちっ、冗談の分からねぇ奴らだな」

「冗談……だったんですか? 他ならぬ九條が言ったことなので、俺も真面目に捉えちゃいました」


 その2号さんの発言に、九條裕也は憎たらしく「ふーっ」とため息をついて、心底呆れたように答える。


「あのなぁ、あれがマジだったら痛みを感じてるのもマジって事だろ? その状態でお前は騎士団戦に向かえるか? 平和な日本人が? ちっとは考えろボケ」


 ……そうかな。こいつの言ってることは一々説得力あったけど、これは腑に落ちない。

 彼ならあるいは――なんて、何度も配信を見ただけの、ただの勘だけど。


『まあそうだよな…正直団長戦終盤はくっそ鳥肌立ったんだけどなー』

『俺はあんだけ偉そうにしてた癖にガバガバで、悪い意味の鳥肌立ったわ』

『凄かったのは認める』


 ……偉そうに。あれを凄いと思えない奴はこのゲームでは強くなれないと思う。

 だってこのプライドの塊のような男ですら――


「──うるっせぇえんだよ! アイツは終わったっつってんだろ!! どいつもこいつも見た目の派手さに騙されやがってよ! 馬鹿じゃねーのか!?」


 誰よりも彼を意識してるから。


 不意の大声に目の前の茂みが驚くようにガサガサと揺れる。

 このタイミングで魔物!? 騒ぎすぎなんだよ!


「裕也さん! 魔物です! ブルーウルフが2体!」

「っせえ! テメェに任せるつったろ!!」


 元凶の九條裕也は振り返りもしない。私は心で舌打ち一つ、即座に迎撃態勢を取る。


「――いいか? そもそも錬成や魔法陣なんかにSP使った時点でアイツは争奪戦から降りてんだよ。攻撃力が欲しいなら現代知識で十分なんだ。要するに――『火薬』だ」


 くっそ! 速攻で片付ける……!! 今は私にとっても大事な話しをしているんだ!


「結局なあ、『黒色火薬』なんだよ!! それさえ量産体制に入っちまえば、村だろうが街だろうが騎士に近付かなけりゃ略奪し放題だ。強くなるのにあんな馬鹿みてぇにリスク取る必要サラサラねぇんだよおっ!!」


 あれだけ耳障りだったコメントが止まる。今の狂った思想にビビったか。


 ……そっか、そういうつもりだったんだ。クロスボウはただの繋ぎで――最終的にはこの世界にはない反則技で、略奪によるレベルアップが目的だったんだ。


 甘く見てたなー、なんだかんだ同じ人間として見てた。

 そっかそっか、分かりやすくなったな。



 こいつを殺すタイムリミットは――火薬実働化前だ……!!





『なんか…魅入ってたわ…』

『いやあのデブ強過ぎじゃね?』

『ありきたりな黒色火薬の話題に気を取られてちゃんと見れなかった…』

2章終了です。

ここまで読んでくださって本当にありがとうございました!

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