27 PC
「……と、取引、だと」
アレンさんの声は震えている。既に僕を格下に見てる表情じゃない。
好都合だ。大人を相手にため口は気を遣うけど、このまま優位に話しを進めよう。
「そうさ。勿論、取引である以上そっちも得するようには…………」
……ただ……その姿はなんというか、流石に……
「ち、ちーちゃんさ、火傷を治す薬って、手持ちの素材で作れたりする?」
うん……これは甘さじゃない、捕虜に対する必要な配慮だ。
『? ~~、――〇!』
「ちょ、ちょっと待ってまさか治すつもり!? 暴れたらどうする気なの!?」
い、いやでも、この人には本当に苦労させられたけど、戦ってる最中もズンズン僕の好感度稼いでくるんだもん……
絶対大丈夫だと思う……いや、多分……僕がそう言いあぐねているとシノさんは――
「……あ、アレンさんは、貴方が今どういう状況かっていうのは、分かっているのでしょうか?」
なんて、話しかけるのも怖いだろうに恐る恐る解決策の模索をしてくれる。
その光景に、これからも僕の優柔不断さで迷惑たくさん掛けちゃうんだろうなって、漠然と思ってしまう。
「……ああ、君たちには済まない事をした……俺の浅慮で君たちの村に――どこまで本当だったか分からないが、迷惑を掛けてしまった……」
「確かにこの男のおかげで村の被害はゼロでした。でもそれは運がよかっただけで、更にはあんな無法者を大勢引き連れて村に来ようだなんて――迷惑どころの話ではなかったです」
「……返す言葉もない。君たちのような少年少女が俺たちに向かってくるなんて、よっぽどの事だよな……」
まあ怪我で頭が回らなかったかな、なんて擁護の言葉が浮かんできてしまう僕はダメだこりゃ……
改めてシノさんがいてくれて良かった。
「それに……その精霊も彼の妹なのだろう? 俺は……そんな小さな子まで巻き込んでしまった」
「…………まぁそれは私の嘘ですが。団長は妹思いと聞いていたので」
「……そ……そんな嘘を付かざるを得ない状況にさせて、すまなかった」
どいつもこいつも嘘吐きで、アレンさんが引いてる。
「でもそうじゃないんです。この光景を見て、そこを責める気はもうないので……」
辺りには焼け焦げた大勢の団員の死体とボロボロになった荷物たち。
罪悪感はさらさら感じていないけど、確かにこの光景は直視はしたくない。
「なら君が聞いてるのは……いや……そ、そうだ、俺は、俺の甘さで、貴族の息子である彼らを全滅させてしまって……!」
「その罪は――この男と私を連れ帰るだけで到底許されるものではないですよね?」
おお……実際には微妙なところだと思うけど、急に上から断言されると僕ですら自信がなくなってくる……
「……そ、そうだ、俺は……! どうしても、今すぐにでも帰らなくちゃいけないのに……!!」
「そんな火傷じゃ動けない。辺りに散らばっている証拠の数々を隠滅する手段もない。ただでさえ怪我で帰るのが遅れているんですよね?」
「治す……手段があるんだよな……? 頼む! 虫のいい話だって事は分かってる……!! 俺に出来ることならなんだってしてみせるから!」
その言葉を引き出すと、シノさんは疲れた顔でこっちを向いて後は任せたと手で示す。
パーフェクトコミュニケーション過ぎる……
思えば僕も論破されたばっかりで、同じくやり込められているアレンさんを見るとホッとしてしまう。
助かりました、と簡単な手話だけ真似てお礼を言う。
さて、ならお言葉に甘えて――
「治療は──その聖剣と交換で。釣り合わないとは思うけど、僕達の安全の為なので」
「――!? そ、それは……! 敗者である俺に断る権利はないが、聖騎士である俺にしか扱えないもので……」
「その言葉が聞ければ大丈夫」
確かに持ち上げようとするけど持ち上がらないけど、そんな事は一周目で把握済み。
敗者が譲ると言ったんだ。僕も自然に戦利品という認識になれて、すんなりと回収できる。
「…………は?」
「ちなみにこの状態の僕を殺すと、しまったアイテムごと抱え落ちするからね? 無理やり攫おうとしても僕は死んでやる。国宝を失くしたくないなら絶対裏切らないでね」
この国の人間は魔族の支配を受け入れてるからいいけど、魔族領に面した国に神装を失くしたなんて言ったら戦争が起こるね。
迂闊な真似してその引き金にはなりたくないでしょ?
「……自分の命を盾にすることで逆に安全に。こういう追い詰め方もあるんだ」
シノさんがなんか物騒なこと言ってる……! 絶対真似しないでよ危ないんだから!!
「う、裏切るつもりなんてない! だが……君には使えないというのに、本当にそれでよかったのか……?」
「僕は僕達の安全さえ確保できればいいの。本題はそこじゃないしね」
「……助かる」
なんか僕が気遣ったみたいになってる。違うよ、僕はこの使えない聖剣だって欲しかったんだよ。
配信されてる都合上、そんなことは言わないけどね。
どんなに力を強くしても、適合者以外が触ると絶対に持てない重さに変わる剣。
ふふっ、今度は正式に手に入れる事が出来て草。
アレンさんが仲間になってくれて、信用できるようになったらちゃんと返すからね。
「さて、なら改めてその火傷を治させてもらうね――ちーちゃん」
『――!!』
僕の呼びかけに、「待ってました!」とばかりに自分の胸を叩いて答えてくれる。
そして昨日集めた素材をすべて出すようにと示されるけど――まずい、昨日は何かに役立つかもって素材っぽいもので僕に触れたものは手当たり次第回収したんだ。
どれがどれだか分からない……えーと、えーと、とりあえず全部出そう
「…………」
「…………」
『…………』
ドサドサドサ、と僕の体から素材をすべて取り出していると、みんなの視線が痛くなる……
あのね、みんなには分からない感覚だろうけど、ゲーマーっていうのは使い道が分からない素材でもとりあえずインベントリに入れちゃう生き物であって――
『――!!! ――!!』
素材が一つの山となったところでちーちゃんに怒られる。「普段から整理整頓しときなさい!!」かな。ごめんよママ……
「何回見てもこれ慣れんわー」
「い、いや、折角のアイテムボックスの容量を、なぜこんなものに……」
へぇ、スキルのほうは容量なんてあるんだ――て痛! ごめんね、呑気なこと考えてて。
手話はさっぱりだけど、ニュアンス的に「素材は選んでおくからユウはやることやって!」……かな。
そうだね。先ずはインベントリから自宅にあった鍋を取り出し、騎士達の蹂躙によって手に入れた大量のSPで『調合』スキルを習得する。
後は、気が重いけど……あれらの回収か……
目に映るのは焼け焦げた騎士団員だった物の数々。微妙に残った原型が、夢に出そうだ。
また僕の悪夢に新キャラが増えてしまうのか……
いや……気の持ちようだ。例え彼らが新キャラ参戦したところでこんな物騒な世界、新鮮な実戦経験を積めると前向きに行こう。
「……別に明日でもいいんじゃない?」
僕の表情に緊張でも映ってたかな。
さっきまで早く行けって表情を浮かべていたシノさんが、急に心配してくれる。
「ありがとね、完全に暗くなる前に行ってくるよ」
気合を入れて、僕はゲーム内オブジェクトの回収へと向かった。
♢
「見て見て。さっきまで暗くて気付けなかったけど、まだ結構荷物残ってたよ」
包帯の類は他の荷物と一緒に突っ込まれてて不潔だから使えない。水と食料、ロープと超高級品であるコンパスは普通に嬉しい。
「お疲れ様。そりゃよかったよ」
証拠の隠滅が完了して戻ってみると、二人は既にすっかり準備は終わらせていてくれた。
「……なぁ、君は一体……彼らをどうしたんだ……?」
「グロスキー君みたいな権力者もいたんだから、そのままにはしておけないでしょ」
「アイテムボックス……君たちの前では死者は……安らかに眠れもしないのか……」
「シノさんは一生懸命生きてるだけだよ」
「──そ、それは……」
「私だけ庇うなよ。お前も一緒にドン引きされてんだよ」
僕は結構誰にでもこういう反応されるし、間違ってるのは僕だと思うから。
『!! ――!』
「――と、ごめんねちーちゃん折角準備してくれたのに、さっそく始めようか」
「…………必死、か……」
アレンさんがポツリとつぶやいている横で、僕は鍋の前に座って初めての調合へと挑む。
ちーちゃんは早速二つの素材を僕に渡して、手順を説明しようとしてくれるけど……え、割合……? この部分だけ……? そんなに複雑なの?
「し、シノさん、疲れてる所悪いんだけど……」
「……はいはい、ごめんねちーちゃん、もう一回いい?」
ビックリした。調合を重ねて上位の素材にする工程もあって、レシピがなきゃ絶対に分からないやつだった。
手話の提案しておいて、本当に良かった……
♢
そうしてシノさんに通訳に入ってもらってようやく――
「……これで完成か」
目の前に用意した容器に入った、透明な塗り薬を見て感慨深く呟く。
手話での意思疎通を、相当な誤魔化しと時間が掛かりながらも無事初成功させて、2人がハイタッチしている。
まだ手話を開発して2日目、なんだこの2人。
頭の作りから僕とは違うんじゃ……頼りになり過ぎる!
それと素材は積極的に集めなきゃダメだな……いくらあっても足りないぞこんなの……
「……ば、馬鹿な……調合スキル……あれだけの事をしでかしておいて……せ、生産職だったとでもいうつもりか……?」
答えにくい質問はスルーして、動けないアレンさんの代わりに出来たばかりの薬を塗ってあげると効果は覿面だ。
患部が光り始めた思うと、焼けただれた皮膚が見る見るうちに再生していく。
「痛みが……消えていく……なんだ、なんなんだ君達はっ! 何故この辺境に君達のような――」
……すっご。これ絶対市販の物じゃないと思う。
アレンさんも薬のあまりの完成度に、興奮したようにちーちゃんに迫って――
「――いや! そんな事より! き、君は、どんな薬でも――つ、作れるのか……?」
なんか既に仲間に出来そうなほど食いつかれてる……ちーちゃんってやっぱり……とんでもない存在だ。




