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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
2章

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22 一騎打ち

「一騎打ちか。なら名前はもう聞いているようだけど、改めて名乗らせてもらおうか」

「…………」

「俺はルミナス王国第3騎士団団長──アレン。君の名は?」


 夕闇が迫る中、目の前の男が静かに告げる。


 騎士団長アレン。以前戦った騎士と同じく物理防御力に優れているだけでなく、専用職『聖騎士』である彼は『魔法耐性』スキルまで備えた完全防御特化型。


 騎士として覚える『騎馬』も『身代わり』も優秀で、以前の僕のパーティでは欠かせなかった有能職。僕が馬鹿げたステータス振りが出来たのも、この人が守ってくれたから。

 

 そんなアレンさんは僕が名乗るのをずっと待っているが、無視していると困ったように続けて話しかけてくる。


「そういえば俺が勝った時の事を考えていなかったな。――そうだな、その時はこっちで治療を受けてもらおうか」

「勝手にしろ」


 本当に……お優しい事。

 それに敗北条件を決めないなら僕が負ける訳ないのにね。やられそうになったら逃げるんだから。


 さて、そろそろいいか。

 結構待ったけど『聖剣』を使う様子は無さそうだ。


 いや……あれを持ち出されたら僕に勝ち目はないんだ。

 念の為、演出用の小道具「木の棒」を投げつけ素手のまま――


「っああああああー!!」


 気合いだけ、絶妙な遅さでアレンさんに向かって駆けだした。


「悪いけど、村がそんな状態なら急いで向かいたいんだ」


 困ったような顔で棒を弾いた彼もまたこちらへと歩いて、手の届く範囲まで来ると──


「ごめんな。少し気絶しててくれ」


 驚く程手加減された掌底を放つ。

 それでもレベル差というのは絶大で、こんなのにも僕を吹っ飛ばす力は込められているのだろう。


 だけど甘過ぎる……。

 僕は胸だけポッカリと血で汚さない事で攻撃を誘導すると、案の定アレンさんはそこを狙っている。

 こんなの偶然よろけて躱せたように、小芝居を挟む余裕すらある。


「――え?」


 だというのに向こうは今の一撃で決まると思っていたのか、一瞬目を丸くして、怪我をしている脇腹を隠しもしないでつんのめっている。


 あーあーもう、戦闘時にまで素直なのは、悪い事だとその身で学べ!


 僕はよろけた足を軸に体を半回転させ、脇腹に渾身の力で手の腹を叩き込む。


「ぐっ!!」

「――がぁっ!」


 ドッ! という鈍い音と共に、千切れた草が宙を舞う。

 掌底を腹に埋めただけで、まるでコンクリートを殴ったかのようだ。


 ッ――ちくしょう反動が凄い……! 打つ瞬間にインベントリから草を出して挟んだってのに、それでも物凄い痛みと衝撃が全身に走る。


 事前に確かめていた通り、人間離れした力で殴ることによる追加の反動はなかった。

 ただゲームをつまらなくするだけの、そんなリアリティは反映されていないというのに、だ。


「…………草? いや、そうか、俺の怪我の事も聞いているのか。ふふ、少し効いたよ」

「ぐぅぅ……」


 僕は手を押さえて膝をつく。

 ……っ、5秒、休憩だ……!

 隙を見せれば見せるほど安全に戦える優しい相手、痛い時はこんな事も出来てしまう。


 だけど、ダメージが通って良かったな……。

 旅の痛みにも我慢して、ステータスは全て力に注ぎ込んだ甲斐があった……。


 思い切り叩けた事で2つもレベルが上がって、HPが伸びたおかげだろうか。痛みも少しずつ収まっていく。


「……成程、あいつを倒したってのも納得だが、立てるか? まだやれそうなら今度はこちらから行かせてもらうが」

「――っ舐めるな!! ――父さんと、母さんの無念は僕が晴らすんだ!」

「っ!? む、無念って……ま、まさか……!?」


 …………やっちゃった。想像以上の硬い体に焦って、吐いてはいけないタイプの嘘を……!

 アレンさんは可哀想に。拳を強く握り締め、苦渋に顔を歪めて俯いてしまう。


「……いや、俺に……君を同情する資格はないが……だがせめて、君だけは――!」


 それでも前を向き、言葉に気合いを乗せるが空元気だろう、足は重く、なんの警戒もしないままこちらに向かってくる。

 …………とんでもないチャンスだ。

 っうおおおごめんなさい! いくらなんでもここまでの隙は見逃せないっ!!


「――ひっ!」


 僕は近づいて来る彼にビビる振りして後ずさる。

 ――足裏に、魔力を纏いながら。


「大丈夫、決して悪いようにはしな――――っ!!?」


 後一歩で僕に手が届く距離に着いた瞬間、アレンさんの体が突然地面に沈む。

 重装備の彼の顎が勢いよく下がるタイミングに合わせて、足裏でカチあげると――


「――ガッ!」


 血が飛び散った。僕が用意したものじゃない、喋ってる途中だった事で舌でも噛んだか? いける! 一気に追撃を――


「っ……」


 無理か、脇腹はしっかり隠してる。


 僕は諦めて距離を取り、背中に手を回して新しく手に入れたポイントを更に力に突っ込む。

 こういう時悩む必要もない極振りは便利だ。


「…………成程」


 向こうは血を吐いた後、一つ首を振り、呑気に体が沈んだ原因となった地面を足で触って確認なんかしている。


 普通なら今ので舌が千切れてもおかしくないのにこの余裕、化け物である事は間違いない。


「ちょっと……君は異常だな。今のも俺の体勢が崩れる前提の蹴りじゃなかったか? この地面――君の仕業なのかい?」

「そうだよ、あらかじめ仕掛けておいたんだ」


 実力を隠すタイプだと思われないよう、疑われたならすぐ認める。起動方法は僕の生命線、これさえバレなければいい。


 土魔法入門――触れた土を柔らかくしたり固くするだけ。

 攻略サイトには一言。

 家庭菜園なんかに使えると皮肉が書かれていたが、体が地面と触れてさえいれば発動出来る僕からすれば、SPもMPも少ない物凄くコスパのいい魔法だ。


 人間の体は大きい、どうしても躱せない攻撃というものが出てきてしまう。防御なんてレベル差があると何の役にも立たない。

 だからこの魔法だ。相手が素手なら、自分の近くまで踏み込ませなければ躱せない攻撃なんてないから。


「土魔法……かな。凄いな、こんな使い方をされたのは初めてだ。

 ――ふふっ、これなら俺の魔法耐性スキルも役に立たない」


 楽しそうにするアレンさんだけどここで気は抜けない。

 僕を褒めるような発言が目立ってきたので、殴った拳と足の出血量を、インベントリから増やして気を逸らす。


 目標のレベルまであと6つ。このまま一気に稼ぎ切ってやる……!

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