21 初手誤算
連続投稿2話目です。
──やっと来た!
こんな日暮れ前まで待たせてくれて! 村までほぼ一本道なのに、入れ違いを心配しただろ!
念のため少し離れた場所に隠れてもらっている二人に岩の影から小さく合図を送り、僕は遠くに見える騎士団へと目を向ける。
先頭に見えるのは騎士団長の『聖騎士』アレン。
年は20中盤くらいだろうか。薄緑色の髪に碧眼の、相変わらずとんでもない美男子だ。
白銀の鎧を纏った堂々とした歩き方からは怪我の影響なんて微塵も感じない。
そして腰にはこのゲームのキーアイテムと言える神装――『聖剣シルフィード』。
絵になり過ぎて嫉妬する気にもなれない。
対して後ろの団員連中は……チンピラ集団だな。みすぼらしい鎧にボロ布みたいなマントを引っかけて、だらしなく肩を揺らしながら歩いている。
これは遅れる訳だ……こんなの団長さんはちゃんと統制取れてるのか?
内心で苦笑しながらも、僕にとっては好都合――いざとなったら問題なく逃げられそうだ。
一つ頬を叩いて気合を入れて、僕はヨロヨロと騎士団に向かって歩き始める。
間もなく向こうも僕に気付くと──
「──な!? き、君は──」
こっちが驚くほど動揺する彼を見て、やっぱり優しい人だと確信――これ以上口を開く前に突っかかる!
「お、お前らがアイツが言っていた騎士団だな!? この先の村には――僕が行かせない!!」
目の前に現れた、体は血だらけ、ボロボロの服に、手には木の棒の僕は、どう見ても圧倒的雑魚。
実際緊張で心臓が暴れていて、リアリティだけはあまりに高い。
そんな僕の姿に言葉が頭に入らなかったのか、団長は凄い勢いで駆け寄ってくる。
「な、なんだ! 君、酷い怪我じゃないか!? いったいどうしたんだ!?」
「ち、近寄るなっ! お、お前らの仲間が……騎士が、僕の村で……若い女はみんな襲われて、みんなが……なのに! まだ村から搾り取ろうって言うのかあっ!」
アレンさんに木の棒を向けて声を震わせ、涙ぐんだ表情で気になるだろうワードを散りばめて叫ぶ。
……効果は抜群だ。
その整った顔が一瞬で曇り、眼は驚きと困惑で揺らいでいる。
「――ま、待て! なんの事だ……? 俺たちは民を守るために存在している。人違いではないのか……?」
動揺が声に滲む。だけど僕の言葉は完全には信じきれていないようだ。
くそ、見る目がないだと? 真性のクズだったあいつまで信じるお人好しか!
「――ふ、ふざけるなっ!」
僕はさらに声を張り上げ、木の棒を握る手に力を込めた。
「アイツは笑いながら、逆らった家には火をつけて……子供たちだって逃げ惑ってた! お前らがそんな奴を野放しにしたんだ!」
「う、嘘だろ……そんな事!」
彼の眉が寄り、錯乱して声を上げる。
うっ、想定よりも純粋な様子に僕が罪悪感で苦しくなる。
思わず「嘘だよ?」って言ってあげたくなる……!
だけどダメだ、周りの連中はニヤニヤしているし手心は加えられない、このまま予定通り一騎打ちの流れに――
「――アレン邪魔。あのクズを偵察にした時点で普通分かるんだよこんな事。話が進まないから下がってて」
「な! ま、待てユズハ! アイツはそんな事出来るような奴じゃないんだ!」
持ち込もうとしたのに、ユズハと呼ばれた肩までの金の髪を持つ、騎士団には場違いの小さな女の子に水を差されてしまう。
なんだこいつ、団長に対して偉そうに……さっきまで全く存在感が無かった女性。一周目でも見た事がない。
「アレンさあ、嫌いな上司に見せる団員の顔を、もしかしてマトモに受け取ってるわけ?」
「――は? お、俺が、嫌われてる……?」
「……可哀想な奴。入団初日に誘われたわ。正義マンに隠れて略奪やら何やらするには、全員の協力が必要だとか。キモイから断ったけど」
「――!? な、なんだよそれは……お前らそんな訳ないよな?」
「っ! いや……まあ、そんな訳……はは」
「――お前らボクにシラ切れると思ってんの?」
「いや……その……」
あーあ、誰彼構わず悪い事に誘うと、いつかこうやって地雷踏んじゃうんだよね。
――ってどうでもいいわ! 何これ、なんでこんなに血だらけの僕が放置されてんの!?
「はい、そういう事、加害者が弁明とか見苦し過ぎるから。アレンは下がってて」
「う、嘘だろ……俺は、本当に――」
い、いやいや、僕が話したいのは団長だけで――
「さて、おいガキ。お前の話は分かった。だけどそれがどうしたの?」
気怠げな半眼で見下ろしてくる彼女に、僕は一瞬言葉に詰まる。
「どうしたって――だから! 僕たちはお前らの所為で――」
「こんな時代に弱いままでいるお前らが悪い。帰れ」
「む、村にはもう何もない!!」
「知らんっての。あのさぁ、このカス共とここまで歩いて、ようやく後は寝るだけって時に面倒事を持ってくるとか――」
こ、こんなに可哀想な見た目の僕を、閉店間際に来るクレーマー扱いだと……? 本当になんなんだよこいつは。
「殺されて当然だから。なのにボクは見逃してやると言ってんの。5秒待つから、今すぐここから消えろ」
ダメだ話にならない!
後ろのカスの皆さん言われてますよ!? シメとくべきですよこいつ!
「ま、待てユズハ! やめてくれ……確かに俺は、間違えたようだが……だからこそ今は――!」
「なに見下してるんだ……」
「――なに?」
「お前らの仲間は僕が殺した!! もう僕は――弱者なんかじゃない!」
もうこんな女はスルーだ、アレンさんにだけ噛み付いていく。
そう思って叫んだ僕の言葉に反応したのは――
「――ぷっ」
後ろのチンピラ達だった。
「ギャハハハハッ! 何? アイツ殺されたの!? この村の少年Aに!?」
「いや、よく見ろ! あのカスちゃんと……この村民を満身創痍までは追い込んではいるぞ……?」
その言葉に更に盛り上がる外野。あんなに強かったのにカス扱いなのか……?
「……あんなパシリを殺したからなに? 言っておくけどそれだけの事じゃ、お前があと2人いようが一瞬で殺せるんだけど」
「――!」
身内ノリに付いていかない女が、小声で話しかけてくる。
さりげなく、指を隠れているはずのシノさん達に向けながら。
──心臓が跳ね上がる。な、なんでだ? なんで2人がバレている!?
僕は咄嗟に二人に逃げるよう合図を出そうとして、彼女が僕にだけ分かるよう伝えた違和感に動きが止まる。
余計な真似をしなければ見逃してくれるという事か……?
「こ、殺したのか……? いや、君の言う事が本当だとしたらそれは仕方ない、が……ユズハ。悪いが先に村へ行って確認してきてくれないか」
「やっぱりこういう展開に……疲れたっつってんじゃん。行くわけなーい」
「頼む。俺たちは夜目が効かないんだ……彼の言う事が本当なら、村の人々には少しでも助けが必要な筈なんだ」
「うっざい。そんなに心配ならダサい事言ってないでお前が――いや…………」
あ、なんかピンと来た。この話の流れで急に考え始めた女を見て、ようやくどういう奴なのか見当がついた。
この様子なら放っておけば――
「貸し一つね」
「!? ああ、ありがとう! 頼んだよ」
やっぱり……団員とは仲悪そうだしこっちを選ぶと思った。
一人になりさえすれば、いくらサボってもバレないんだから。
もし本当に村に向かわれると僕の嘘はバレちゃうけど――
「聞いたでしょ? 2日分の食料と水。早く出せよトロいなクソ。
――は? 走っていくんだから多めに持っていくのは当然でしょ」
大丈夫そうだ。この様子なら、嘘で良かったとばかりに歓待でも受けてくるぞ。
現代で増えてきた、出世より楽な方を選ぶタイプ。シノさんの事をバラさなかったのも多分面倒だから。
村もシノさんがいなくなった分1人くらい食い扶持が増えても大丈夫だろう。
女は荷物を強引に受け取ると、僕には一瞥もせずに走っていく。
「彼女を通してくれた事。礼を言う」
「女一人くらい村の人間でどうにでもなる。でもお前らは――絶対に通さない!!」
とにかくこれで面倒な奴がいなくなったんだ。改めて――
「騎士団長アレン! 一騎打ちで勝負しろ! 僕が勝ったら――大人しく全員このまま帰れ!」
「……なあ、一度落ち着いてくれないか? 君の言う事が本当なら、今すぐに助けなくちゃいけない――」
「僕を弱者としておいて、逃げるのか?」
僕の言葉にアレンさんは「……ふぅ」と小さく息を吐き、「俺は受けようかと思うが構わないか?」と、後ろの団員に声を掛ける。
「どうでもいいっす」
「……あああああっクソクソクソがああ! あの女いつまでも偉そうにしやがってよおおーー! いつか絶対に犯し殺してやる!」
団長も滅茶苦茶舐められてる……大丈夫かこの団。
――ともあれ、やっと予定通りの流れに乗れたな。はぁ、モブまで人間的過ぎて疲れたよ……
僕は木の棒を握り直し、足を開いて構える。
心の準備は既に終わってる。一対一は僕の得意分野、ここからの方が僕にとってはよっぽど気楽だよ。
これでようやく待ちに待った――ボスチクの時間だ!




