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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
2章

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19/32

19 野営の一幕

 騎士を迎え討つ場所を決め、僕たちは就寝の準備に取り掛かる。地面に布を敷いただけの、簡素な寝床だ。


 ここは少し村が近いって心配はあるけれど、道は少し広がっていて見通しが良く、すぐ横には小高い岩場があって背後を守るには都合がいい。

 なにより少し離れた場所には黒々とした森が広がっていて、万が一の時にはそっちへ逃げ込めそうなのがいい。


 日はすっかり落ちて、満天の星空の下――メニュー画面の頼りない光があたりを照らしている。

 シノさんは火をつけようかと言ってくれたけど、煙は立てたくなかったから明かりはこれだけだ。

 この世界はそこまで真っ暗にならないからこれで十分。


 二人に僕の色々を話した時点でもう、メニュー画面は一切隠してない。

 なんならさっきまでちーちゃんと一緒に大量のスキル一覧をみて、ひとしきり盛り上がったところだ。


 今は1日の終わりの区切りとして掲示板を何気なく覗いているんだけど……。

 そこには新しく――


 『ユートピア/utopia 攻略スレpart1(213)』と──

 『ユウの真似してる奴らキモ過ぎるから辞めろ(1)』の2つが立っていた。


 …………嘘でしょ、泣きそうかも。ユウはあだ名だから別にいいけど、こんなのプライバシーが無さすぎる……!

 は、配信画面はっ――


『現在配信中:視聴者数 121』


 ……キモいッ!! ちょっと本当に訳わかんない、もう寝るだけだぞ僕は! 何を見ているんだよこいつらは!


 いくら何でも異常だ……原因は、もしかしてこれか……? 配信画面の端に映る――『rank:1/8409』の文字。


 いくら未来技術が破格とはいえ、この狂ったゲームにこの人数がいるわけないとスルーしてたけど、これはランキング1位って意味なんじゃ……。


 ってやめやめ!  今は考えても仕方ない。気分悪いし、明日の戦いに集中しよう。

 配信のことは――また後で考えればいい。


 そう思考を切り替えて、僕がメニュー画面を叩くようにいじっていると――


「そう言えばユウ――って、あんたなんて顔してんのよ……」

「はは……いやちょっと気持ち悪いもの見ちゃってさ」

「ふーん? まあいいけど。あの騎士の服、縫ってあげるから私の荷物と一緒に出してよ」


 シノさんがインベントリにいれておいた椅子に腰掛けながら、そんな提案をしてくれる。


「……えーと、もう真っ暗だよ?」

「全然大丈夫。家事は得意だって言ったでしょ? そのメニュー? だけは出しっぱなしにしていてほしいけど」

「それは問題ないけど……急にどうしたの?」

「せっかく回収したのに、あのままじゃ着られないじゃん」


 お、おぉ……よく気が回るなあ。確かに騎士の服なんて着てたら目立ちすぎるから、どうしようかとは思っていたんだけど――


「ありがとう、でも今は大丈夫。ちょっと使い道を思い付いてね」

「? そうなんだ。じゃあ――どうしようかな。見張りの間何かして欲しい事ある?」

「……シノさん。いくらなんでも働きすぎだよ。今日は色々あったんだから休んでよ」


 旅に出る前言っていた通り、今日のご飯はシノさん達が用意してくれた物だ。

 僕にとっては空腹ゲージを満たすだけで済むのに、わざわざ近くの森に入って、ちーちゃんの知識で食べられる美味しい果物を短時間で取ってきてくれた。


 それだけじゃない、道中拾えた物だけじゃ足りなかった錬成に使う素材もしっかり集めてきてくれた。

 僕には明日の為に休むようにと言い残して。正直言って、申し訳なくなるほど助かっている。


「だからさぁ、ユウに夜の番なんかさせて、明日に支障が出たらこっちが困るんだっつの」


 夜の番――そっか、シノさんは見てなかったのか。道中も、一部はずっと出していたんだけど。

 よし、ここはしっかり褒めてもらって、沈んだ気持ちは切り替えさせてもらうか。


「――ふっふっふ、ここまでの道中で、魔物1匹にすら出会わなかったの不思議に思わなかった?」

「……何、なんか理由あったの? 精霊王様が近くにいてくれたからじゃないの?」

「やれやれやれやれ……頭はいいのに、観察力は低めかな?」

「殺すぞ」

「まあまあ、見てよ。これさえあれば――僕たちに見張りなんて必要ないんだ!」


 そう言って僕は、いちいち勿体ぶりながらインベントリから女神像を取り出し横に置く。

 ズシン、と地面が揺れるほどの重い音。

 メニューと星の光に照らされて、苔むした、だけど幻想的で神々しい姿が現れて――


「――っ!? ぅおおおおいっ!!」


 いつも冷静だったシノさんが今日1番の声を上げて叫ぶ。うんうん、いい反応だ。……いい反応過ぎない?


「そっ! そ、そそそそそ――」


 ふふ、そう――道中情けない姿を晒した僕だけど、実はこうやって陰ながらサポートを――


「――そ、それはっ!! それはダメだろうがあっ!! というかそれ村にあったヤツ!」

「…………え?」


 シノさんの突然の剣幕に驚いて思わずちーちゃんの方に目を向けると――すっかりおねむ!


 『スピー、スピー』と、小さな寝息を立てながら、渡しておいたマントを掛けて大の字で寝ている。お休みなさい! じゃなくて、なんかそれっぽいいい訳は――


「――い、いやでも……そう! こんなに汚れちゃって! 可哀想じゃない? だから僕は――」

「あ、あんたが近くに住んでるから! 村の誰も近寄れなかったんでしょうがっ!!」


 ……僕の綺麗事混じりの悪あがきも、以前の僕のせいで綺麗に論破される。この展開何度目だ?


「……はぁぁ、最悪だぁ……ほんと怖いよこの人、ルール無用過ぎるもん……」

「し、シノさんって意外と信心深かったんですね」

「そりゃ、今までずっと村を魔物から守ってくれたんだし……まあ……あんたんとこのやつだけはなんなの? とは思っていたけど」

「そうそう。これそういう悪人なんかまで守っちゃう代物なんだから、ギミックとして扱うくらいが丁度いいんだって」


 実際ゲーム的にはそうだろうし。

 それにこの女神、この時代に眼鏡なんか掛けて、エレに少し似てるって、絶対『九條星羅』じゃん。

 この世界をハードモードにした張本人を信じるのはさぁ……


「いやそんな割り切れないけど……はぁ……いや、なんにせよごめん、予想外過ぎて。恩恵受けてばかりで文句だけはつけちゃって……」

「え? いやいややめてよ。そういう反応でここでの常識知れるんだから!」

「――あ、でも人は近寄れるんだから、周りに罠でも仕掛けてこようか?」

「……仕掛けられるの?」

「そりゃ村では狩りでもしないと生き残れないから。私の荷物出してもらっていい?」

「はー、いやありがとうね。ただ今回は大丈夫」


 さっき一応土魔法で周りの地面はドロドロにしておいたから。

 魔物が出る外をこんな夜中に、それも平気で『信号』を打ち上げるような怖いものなしがいる場所の近くを、悪人がうろうろしてるとは思えないから。こんな最低限だけど。


 『土魔法入門』――習得できる人数が∞だったから配信で有用性を見せたくなかったし、凄く助かる。

 「次の機会には是非お願いします」と伝えると何故かシノさんは固まっている。


「…………一大決心して付いてきて、私がやった事は果物と素材取ってきただけか……ふ、笑える」

「……え? なにどうしたの!?」


 いやいやいや、食べ物用意してくれる人が信用出来るって、こんな世界じゃそれだけでありがたいのに!

 今回はたまたまする事が少なかっただけ――って説明するけど彼女には全然響いていない。


「……よく分からないけど、なんか焦ってる? どう考えてもシノさん、僕よりよっぽど有能なんだけど……」


 そもそも今日の僕がやった事って、インベントリとか2周目知識とかの外付け技能のお陰だから、上に見られると恥ずかしいんだけど。


「~~っなんでもない! 変なこと言ってごめんなさい! 私はもう少し考えたい事あるから……ユウは先にお休み!」

「ええぇぇ……なんでさシノさんも休んでよ」

「……私は明日帰るだけなんだから問題ないって」


 大丈夫かな……役立つとか有用性とか言ってたけど、ちーちゃんと同じような悩みでも抱えてんのかな。


 僕の世界じゃ戦うのが上手いってだけの僕より、その頭の良さと多才さはずっと需要あるのに、価値観の違いに思考がついていけないや。


 んー、考えていても仕方ないし、寝よう。

 なんか、明日は大変な一日になるってのに気が紛れてる。旅なんて苦痛なだけのはずなのに、なんだかんだいろいろあって楽しかったもんな。

 お金が貯まったら、真っ先に二人とも雇ってやる! ――お休みなさい。

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