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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
2章

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17 精霊の王

「違うってちーちゃん! これは、こうした方が分かりやすくない?」

『!? ――♪』


 村を出て、数時間程経っただろうか。

 整備などされている筈のない、石ころだらけの道らしき道を歩いているが、後ろでは二人が元気いっぱいで手話の開発をしている。

 最初は僕も混ざっていたけれど、二人の頭の回転に付いていけず早々に撤退する事となった。

 撤退――しなきゃ良かったかもなぁ……


「待て、確かにそれは分かりやすいが、元々言葉を使える者がいないと伝わらないだろう?」


 後ろから新しい声が聞こえる。

 なんか知らない人がいつの間にか参加してるから……


 どちら様か尋ねたら、物凄い威圧感で「失せろ人間」と一蹴されたので未だに誰か分からない。

 それでいて全く不快な気分にならないから多分、僕にとって雲の上の存在なんだと思う。


 黄金に赤が混じった、とんでもなく綺麗な長髪に、目は鋭くて大きな態度がとても良く似合う、カッコ良過ぎる女性。

 まず歩いていない所が只者じゃない。

 宙にふわりと浮いて、こんな軽い話題を高みから話してくるのに、凄くしっくり来てしまう。

 ちーちゃんが懐いてるし、精霊のお偉いさんとかかな……?


「余が自ら出向いて教えていたら、種全体に広まるまで時間が掛かりすぎる。他の方法はないのか?」

「あー……手話については私もさっき初めて知ったばかりで……詳しくはあの人間が知ってます」

『――♪』


「――ほう?」


 ……見てる見てる怖い! ちーちゃんもおいでおいでしてるけど、行っていいの……?

 余とか言ってて多分めちゃくちゃ偉い人だし……高校生礼儀作法とか知らないよ?


「人間、聞いていたな? 良い案はあるか?」


 あ、ある訳なくない? 見てよ、僕一人話についていけなくて輪から外れてたじゃん!

 あぁぁぁ、いや、ただシンプルでいいって事なら……。


「あの……そういう事であれば、右手で母音、左手で子音をそれぞれの指で対応させるのはどうでしょうか? あ、母音というのは――」


       ♢


「かああああ、くうううう。……本当だ。『ん』以外は伸ばすと最後にはその母音ってのになる。凄い……かも」

「い、いや僕もこれ教わっただけだからね? だからちーちゃんその尊敬の表情やめてね、本当に」


 手話というよりこれは、指文字を何倍も劣化させたような物だし……。


「母音と子音――聞いた事はある。が、成程。人間は下らん事を考えるものだと思っていたが……

 ふふ、ふふふ、ふははは! いいぞ! それならルールを教えるだけで済む。効率のいい言語にするのはその後でいい!」


 あ、悪役笑いやめろおっ! 敵か? 思うだろ!!

 精霊間で意思疎通取れるようになるとか、種族バランス壊してるような気がして怖いのに……流石にこの未完成さなら、役立てるのは難しいと思うけど。


「……だが待て。それでは不定形の者共はどうする? 国が不穏な動きを見せている今、王として、種全体の意思を統一せねばならんのだ」


 分からない知らない……。

 というか王って……これ絶対答えなきゃいけないやつ!


「おい、この者が見えるか?」


 王様はそう言って自らの手のひらを上に向けて示してくるが、何を聞いているのかも分からない。シノさんに目を向けても首を振っている。

 なんなんだろう――いや、少し光ってる?


「生まれたばかりだが、『光』の精霊だ。余をここに連れてきたのもこやつらだ。見てほしい物があるとでも言いたげにな」

「な、なるほど……」


 へー、凄いな。九條星羅はなんでこんなの創っ……え? もしかして……その儚げ過ぎる光とも意思疎通を取れるようにしろって言ってる!?


「こやつらはこの世界の何処にでも遍在していてな。介せば、遥か彼方の者とも意思を通わせる事が叶うのだが――可能か?」


 言ってた……無茶振りなんだよもう……えーと、えーと


「……よ、よくは知らないのですが、僕の地元にはモールス信号というものがありまして……」



       ♢



「――ふむ。短点を母音、長点を子音として、指に相当するものは光の強弱で表す、か――」

「は、はい、そんな感じで、へへっ」


 あ、ああ……ごめんなさいモールスさん! 全く洗練されていない、伝達効率最悪の物をあなたの名前を付けて渡しちゃいました……!

 そもそも作ったのってモールスさん? それすらも知らないのに!


『⭐︎――⭐︎ 〜〜〜♪♪』

「いやちーちゃん! 私たちはまず手話を作らないとでしょ!? というかそれすらしてる場合じゃ……」

「…………………………」


 後ろの2人は新しい知識にキャッキャはしゃいでる。

 こっちはこの王様に、凄い間を作られてドキドキが止まらないってのに……!


「――余にはない発想だった。これよりだいぶ詰めさせてはもらうが――まあいいだろう」

「!? こ、光栄です!」

「褒美を与える。何が欲しい」


 ご褒美、いや流石に貰えない。

 大元の知識すら僕のじゃないんだから――じゃない! 今そんな事言ってられないんだった!

 だって――


「で、では、何か、この整備されていない道を歩くのに役立つような、靴のような物を頂けたりしないでしょうか……足が凄く痛くて……」


 僕はもう……これ以上、歩けないんだから……。


「アンタ、これから騎士団長に戦いを挑むんじゃないの……? 凄い情けない事言ってるけど大丈夫なの?」


 こんな田舎で育ってきた君らには分からない……現代人は、こんなデコボコな道を長時間歩けないんだよ……。


「――ふむ、では余の権能の一つをやろう。人間にとなると相当格は落ちるだろうが、その程度の望みであれば叶うだろうな」


 そう言ってその白く透き通った指を伸ばし、僕の頭に触れると――


「っ!?」


 僕の体が淡く発光する。

 何これ! 体が光ってるのに感覚無くて怖い!!


「そして『知』と、その主。貴様らは何を望む」


 僕に何かを渡し終わったのか、次はシノさん達に話しかけている。

 ……足の痛みは治っていない、靴はボロ靴のまま。

 何が変わったのか? とメ二ューを開いてみるとスキル欄に「オートリカバリー(弱)」の文字。

 ぱ、パッシブスキル!? こんなもの貰っていいの!?


 ……なんだか意識してみると、確かに……少しずつではあるけど体が癒されていく感覚が……ぁ、ああ、あああっ!!


 ――っじゃない! 配信されてるのにこんなに恍惚としちゃダメだろ!! 落ち着けぇ、これは僕だけのアドバンテージにするんだ。


 だって僕が渡したのは知識の本当に触りの触りだけ、たまたまこの方の求めてた取っ掛かりと合致しただけだ。

 ライバルだってこの世界の痛みには苦労する筈、出来ればそのまま苦しんでいてもらいたい。


 ――痛みのある世界を舐めていた。

 コンクリートで道は整備され、いくら歩いても疲れない靴がごろごろあった時代に生きた僕が、散々イキっててほんと恥ずかしい。

 こんなの想像を遥かに超えて欲しかったものだったけど、失礼のないレベルの喜びに抑えろ僕……!


「い、いや! 私は何もしていないですし、とんでもないです!」


 幸い精霊王様はシノさんに話しかけていてこちらを見ていない。僕は小さく「ありがたき幸せ」と、喜びを抑えて跪く。

 そしてちーちゃんは僕があげたリボンを何か強化してもらってる。なにそれ、凄く嬉しい……!!


「――その手話だが、これより洗練された物は、貴様たちが作るのであろう?」

「そ、それは! はい、えーと、そうなると思います。ちーちゃんと色々話したいですし」

『――◯♪』

「では完成後には使いを同行させる。見て覚えさせるつもりで構う必要はないが、その間そやつは好きに使うがいい」

「――え? ええっ!?」

「余の片腕だ。必ず役に立つだろう」

「あ、ありがとうございます!」


 そしてシノさんにも、物凄いパワーアップフラグが立ってる。気前が良過ぎるよこのお方……


「さて余はそろそろ行くとする。すぐにでもこれを広めねばな。

 ふっ、もし……もし近い未来、みなが言語を操れるようになれば……ふふっ」


 こ、こっちに聞こえるか微妙な声量で、未来を語るのやめろお! 敵か? 思うだろ!!


「――――――」

「――ふ。どうやら『光』達も楽しみにしているようでな。精霊術師が願えばいつでも力を貸す、だそうだ」

「わ、私!? あ、ありがとう、よろしくね、えーと、みんな?」


 光は何処にでも存在するからいつでも呼んでいいらしい。なんだか凄い展開……それに何処にでもって――

 ああ、この世界電灯もないのに、夜が真っ暗闇にはならないのはこの子達のお陰かな?

 何も見えない時間があるなんて、ゲームとしては欠陥だから――


 無粋過ぎる……目の前で、二人が空に浮かぶ無数の『光』に向かって笑顔で挨拶している微笑ましい光景を見て、僕は考えるのをやめた。

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