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嘘と無法の生存戦略  作者: peko
2章

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15/30

15 村の人々

 二日目の朝。目覚めても未だにゲームの中にいる現実にガックリと肩を落とす。

 だけど落ち込んでなんかいられない。今日は朝イチで出掛けて、なるべく万全の状態で騎士団を迎えたいんだから。


 パンパンと頬を叩いて気合いを入れ直すと、昨日作った『やることリスト』を確認する。

 スクリーンショット機能で暗闇を撮り、その上に落書き機能で書いた疑似メモ帳だ


『騎士団を追っ払う事(できれば団長を仲間に)』

『失敗したときは他国へ』

『成功したらインベントリで持ち運べる拠点の作成依頼』

『失敗したらお金稼ぎ』

『成功したら仲間集め』


 ……うん、まとめると大したことないように思えていいね。過程は大幅に省いているけど。

 そうして目標を再確認し、出かける準備を終えた僕が外に出ると――


「あら、おはよう。見送りに来てくれたの? ありがとうね」

『――♪』

 

 外では眩しい朝日と共に、大きな荷物を持って2人が待っていてくれた。

 ちーちゃんは今日も元気いっぱい――だけどリボンは自分で結んだのかな、どうにもバランスが悪い。

 全く……仕方ないなあ。今日はおしゃれさ重視で、頭頂に結び目を作ってみよう。


『――!? ――⭐︎⭐︎』


 パパっと結びなおしてあげると、目を輝かせながら『ほほー』と感心した表情でお辞儀をくれる。こちらこそ元気をありがとう。

 反対にシノさんは昨日から無言ですっごい気まずい……失敗した時は僕が責任取ると言っても、普通信用なんて出来ないもんな。


「…………」


 だからと言って、シノさんは代案を出せないから何も言えないのだろう。視線をそらしている。

 ストレスかけて申し訳ないけど、僕もここは譲れない。


「……私達も、途中まで一緒に行くから」

「――え?」


 予想外の提案に、思わず間抜けな声が出た。


「いやダメでしょ……途中までって、魔物が存在する世界で帰りはどうすんの。見張りたくなる気持ちはわかるけどさぁ」

「あのさぁ! まだこっちは全然話についていけてないんだって!

 それにこう見えて料理や、針仕事なんかは誰にも負ける気ないから。ちーちゃんと遊ぶ為に家事の終わらせ方は2人でずっと研究してたんだから、迷惑は掛けないつもり」


 そう言ってシノさんは持ってきていた荷物を叩く。

 裁縫道具かなんかかな。ど、どうしよう、物凄く助かるけど、流石に断らなきゃダメだよな……。


「あのね、だからそういう問題じゃ──」

「あとはまあ、おかげ様で? 私も結構レベルアップしてるし、ここらの魔物になんかやられないから」

「……荷物……持たせて下さい。お世話になります」


 でもこれは、助かりすぎて断れない……! 

 シノさんがどういうつもりか知らないけど、寮生活で学食一本で生活してきた僕は前回、適当に生えてる草で空腹ゲージを凌いできたんだから……!


「あー、うん、よろしく──そっか、なんでも出来る訳じゃないんだね。そこは少し安心した」

「……今はレベルが上がりやすいから出来る事多いってだけで、これからは嫌って程安心出来ると思うよ……」


 こんなに甘えていいのかな……なんて、内心不安な思いを抱えながらも、2人とも準備は済ませてくれたみたいだし早速出発する。

 そして3人で村へと続く道を歩いていると――


「……今度はなに」


 少し先に見える人影は、この村の人達のようだ。

 比較的豪華な服を着た40、50くらいの男女と、20歳くらいの青年3人が遠巻きからこちらを警戒するように見ている。


「お父さん……?」


 後ろでシノさんの呟く声が聞こえた。と同時にちーちゃんには隠れるよう小声で指示を出している。


 お父さん……ああ、村長さんか、シノさんを脅迫してるっていう。本当かどうかはさておき、敵対は避けた方が良さそうだな。


「ん! んん! あのー――」

「シノ!! こちらにいらした騎士様が、もう帰ったとはどういう事だ!?」


 娘さんを預かるから挨拶でもと声を掛けるが、こっちを見もしないで村長は怒鳴り声をあげる。


「な、なんでそんな嘘吐くんだよ! 騎士様は、この村に滞在されるって言っていたぞ!? それに、蔵の食料をいつでも出せるようにしておけとも……」


 後ろの青年の1人も、こちらに近づいてきてシノさんを問い詰め始める。

 あの騎士余計な事を……何これ、また一から説明するの? 絶対面倒なことになりそう。

 どうしようと、シノさんへと目を向けると――


「あのさぁ、今まで娘のピンチを放ってた癖に、騎士がいなくなったと聞いて急に偉そうにするのはどうなの?」


「――ぐ! で、でたらめを言うんじゃない! 私は準備を万全にしてから、騎士様をお迎えしようとしただけで――」

「はいはい。というか騎士様があんたらに何言ったか知らないけど、帰ったんだから仕方ないでしょ?」


 このふてぶてしい態度で迎撃してくれる。

 凄い、証拠はなくなったと聞いてすぐ、ここまで強く出れるもん? なんて面の皮の厚さだ……。


「ふ、ふざけるな!! これは――村の存続に関わる重大な問題だという事も、お前には分からんのか!?」


「はぁぁぁ、そんなに疑うなら見てくればいいじゃん。もう帰ったってのに、さっきからビクビク警戒しちゃって。見ていて恥ずかしいんだよ」


「――っ! どけっ!」


 あからさまな挑発に、村長は顔を真っ赤にしてシノさんを乱暴にどけて道を進む。

 いや……確かに僕は証拠なんて残してないけど――


「…………な、なんだこれは!? こ、ここで爆発でも起きたかのように……なんだ、これは一体どういう事だ!?」


 視線の先には、更地になった地面と抉れた土。そして辺り一面に散らばる家の残骸を見て、村長が絶句している。


 だよね……何も考えずにその辺に色々捨てまくったし、不自然過ぎるって。

 どういう事って、あー、理由、理由は――


「なんか壊れてました」

「……ふ、ふざけるな!? 一昨日にシノの事で会った時には何ともなかった筈だろう!?」

「だったら何?」

「っ!?」


 不法投棄は――本当にすみません。

 でも僕はあの騎士を対処したんだからの精神で開き直る。

 この状況を推理なんて不可能なんだし、堂々としていればマウントは取られない。


 まあ、精神的に負けていないだけで何の解決にもなっていないんだけど、弱みを見せたら駄目な人みたいだし。


「お、おい、村長がそいつと会ってたって、どういう事だよ? シノの事って、なんなんだよ?」


 先ほどとは違う青年が、村長に恐る恐る問いかけている。

 なんだよ、僕が誰と会ったっていいだろ。僕の彼氏か? 村長も僕と同じような顔で問い返している。


「――俺は! おかしいと思ってたんだ! 昨日になって突然シノがこいつの所に嫁ぐとか――」


 あー、さっきシノさんが言ってたやつ――「ねえちょっと……」って、何、どうしたの?

 なんだなんだケンカか? と見ていると、シノさんが焦ったように僕の服を引っ張る。


「悪いんだけど、今裏の森にちーちゃん隠れてるから――一旦どこか遠くに連れてってもらえない?」

「? まあ、いいけど」

「――急いで!」


 僕達が小さく会話している間も、村人達は村長に対して、シノさんを売ったんじゃないかと問い詰めている。

 その隙に、よく分からないけど言われるままちーちゃんのもとへ向かおうとしたところで――気付いた。


「――ええい、うるさいうるさい!! お前らは、こいつがしでかした事を知らんのだ! いいか? シノはこの村を裏切――ぐっ!!」


 村長は保身の為か、詰められるとあっさり2人を切り捨てようとしている事に。

 近くにいた僕は咄嗟に村長の口を塞いで黙らせたが――


「――そ、そうよ! 私が苦労して産んだ、せっかくの精霊術師なのよ!? なのにこの子は村に何の役にも立たない無能な精霊と、勝手に契約なんかしてっ!!」


 離れた場所に立っていた村長の奥さんらしき女性が、ヒステリックな大声でぶちまけてしまった。


 こういう事か……ちーちゃん、近くに隠れているなら、聞こえてるよね、今の。

 あーあ、シノさんの言う通りだった。自分達が追い詰められたら間違いなく、両親は2人を売るって。


「せ、精霊術師……? シノが……? 嘘だろ」


「いや、で、でもさ、それがもし本当だったら……これからは魔物なんかも狩り放題なんじゃないか!?」


「馬鹿か、国に連れてかれるに決まってんだろ! でもその代わり、報奨金はたんまりって話……なんだけど……」


「そうだよ……シノは、さっき無能の精霊と契約しちゃったって……」


 契約破棄のスキルの事は誰も知らないのだろう。

 周りは今の言葉を理解し始めると同時に、若い青年達は途端にざわつき始める。

 それだけ昔の人は苦労してるって事なのかな、正直こういう汚い感情を目の前で見るのはきっつい……


「――ユウ、あんたはちーちゃんの凄さは分かってるよね?」

「え? それはまあ。なんならシノさんより分かってるまであるよ」


 意外にも冷静なシノさんにそう問いかけられる。

 こっちは既にちーちゃんの知識に頼りっぱなしなんだが? それに僕は今より未来の人間なんだし、色々思い付きもする。


「そんな訳! いや……いい、じゃあさ、ここはいいからユウはちーちゃんを迎えに行ってあげられない?」


「……大丈夫なの? なんかあっち、シノさんに敵意を向け始めてる人もいるんだけど」


「いいから。――あのさ、ちーちゃんは最初、私が契約をお願いしても、自分は無力だからって断ってたんだ」


 あー、ちーちゃん単体だと知識って中々活かせないかもねぇ……


「だから、ユウにはあの子の魅力を余す事なく語ってあげて欲しいんだよ。私が言っても、昔私を助けた恩で言ってるだけだと思っちゃうから」


 活かす環境がないとそうなっちゃうか。

 了解。僕はそう返事をしてすぐに向かおうとすると――


「おい待て! こっちはお前に言っておく事があるんだ。勝手に動くんじゃない!」

「――へ?」


 なぜか村長に呼び止められる。

 あれ、シノさんに聞いた限りじゃ、僕とは円満に話は済んだみたいなのに。なんで怒ってんだろ?


「ふぅ、そこで驚くか。本当にどうしようもないなお前は」


 ――む。シノさんとドヤ顔似てて腹立つ。


「一昨日ワシが求めた情報を、お前はシノが貰えるならとあっさり渡したが――馬鹿が、渡していい情報と悪い情報の、区別もつかんのか?」


 もう昨日以前の僕の話はやめてくれない……? 別人なんだってその人!


「最弱職『村人』でもレベルを上げる方法。素晴らしかったぞ。お陰で昨日は徹夜だったがな、レベル4まで伸ばす事が出来た」


 ああ、見返りってそういう……。

 村の外れの戦闘チュートリアル広場かな? 主人公なら知っててもおかしくないけど……教えちゃうんだ、以前の僕……。


「それは凄いですね」


 本当に。完璧にしてやられてる。流石シノさんのお父さん、しっかりと盤面をひっくり返してる。


「──分かってないのか? これはつまり、お前との取り引きなんぞ、もう守る必要などないという事だ!!」


 勝ち誇った村長の高笑い。でもそれは騎士を倒してなかったらの話だからね?


 あ、いや、僕は今レベル10だから問題ないけど、シノさんは――大丈夫そうだ。こっちに向かって「早く行け」と手を振ってくれてる。


 はいはい、じゃあ後はよろしく。

 僕は背中越しに聞こえる村長の怒鳴り声を無視して、1人裏の森へと向かった。

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