14 ルート選択
「――と、いうわけなんだけど」
「…………はああぁ」
僕が別の、ここより発展した世界から来た事、限定的ではあるけどこの世界の未来を知っている事なんかも含めて説明し終えた僕に待っていたのは、シノさんの大きなため息だった。
一応ゲームの世界って事は省いておいた。意味分かんないだろうし、無駄に悩ませるだけだろうから。
「その説明し切ったって顔やめてくれない? 仮に全部受け入れたとしても、納得出来ない事だらけなんだけど」
「――まあまあ、自分でも馬鹿な話だと思うけど、これから先も訂正する事はないし、受け入れた方が早いと思うんだ」
笑顔でそう言って次の話をしようとする僕に、こめかみを指で押さえ、諦めたような顔を浮かべるシノさん。本当に苦労をかけます。
「そんなわけで僕が知ってる次の展開なんだけど、まずここに向かってる騎士団20人、そしてその団長は負傷していると。ここまでは知ってるよね?」
「……そうね」
「それでその団長ってのが、まあ、正々堂々とした人でね。病気の妹の為にあんな騎士団に入ってるってだけで」
AIが進化してるから断言は出来ないけど、そんな性格でもないと次のイベントは発生しないだろうから、大きくは変わらないと思う。
「……いや正々堂々って、迷惑掛けられてるこっちは全然納得出来ないんだけど……それが?」
「その団長を仲間にしたいんだけど――ちーちゃんさ、もしかしてなんだけど。この世界の病気にも詳しかったりする?」
恩を更に増やしていく。
だけどこれは一応シノさんの契約破棄の阻止にも役に立つだろうから、許して欲しい。
「――は? な、何勝手な事言ってんのよ!? ちーちゃんまで巻き込もうとするんじゃ――」
『――――!』
ちーちゃんがペチペチと、興奮したシノさんの足を叩いて止めに入る。
「だ、ダメだよ、ちーちゃん! 失敗したら逆恨みされちゃうかもしれないんだよ!?」
『――!』
そんな心配の言葉に両手で「頑張る!」のポーズをするちーちゃん。うぅ、いい子だ……
「というか矢面に立つのは僕だけだからね? ちーちゃんには完全に安全になった後、知識を貸して欲しくて」
僕がそう言うとシノさんは、一度聞いてから判断すると、渋々話の続きを促してくれた。
そんな訳で改めて団長の妹の症状を説明すると、ちーちゃんの気合い十分だった顔が、少し考えた後どんどん浮かない顔になっていく。
そして最後には首を横に振った。
うっ、流石にそう都合良くはいかないか。
でも……少し考えたんだ。もしかして、何かが足りないだけなのか?
そう思ってスキル習得画面なんかも見せながら色々聞いてみると、どうやら『錬成』というスキルか、貴重な素材のどちらかが足りないらしい。
「待て待て待て、結局その青いのはなんなのよ……?」
シノさんがメニュー画面について聞いてくるけど、この説明は話したい事に直接関係ないので置いておく。
なるほど……スキルがあればいけるのか。
僕はスキル画面の『錬成』について調べてみると「素材を混ぜ合わせて別のアイテムにする」との事だ。
これは……取ってもいいんじゃないか……?
習得する為の必要SPはかなり多いけど、団長を仲間に出来る事を考えたらお釣りが来る……と思う。それに汎用性だって抜群だ。よし。
早速、僕の方でスキルを覚えると伝えると――
「覚えられるかぁっ!! 覚えるだけで人生大成功って生産スキルを、錬成? 初めて聞きましたって男が、数日で手に入れられるか!」
ついにシノさんがキレる。
確かに大概のRPGでは、アイテム合成系のスキルやお店が一番活躍してるまであるし、簡単に手に入らないのも納得だ。だけど――
「普通なら難しいだろうけど。今回僕には一国の騎士団長と敵対して戦えるっていう、とんでもない機会があるんだよ?」
敵対していないと、いくら戦っても経験値は入らない仕様のせいで、生産職には絶対に真似出来ないレベル上げ。
僕には圧倒的強者と戦って得られる経験値があるんだから。
「――ば、バカなの!? 勝てるわけないじゃん! そもそも人数が違い過ぎるでしょ!」
「だからさっき言ったように、ただの村人相手に大勢で掛かってくる人じゃないんだって」
これは騎士団長との一騎打ちイベント。
精霊術師を輩出した村へ、近くまで来ていた団長が褒賞の通達に来る。
その際に可能性を見せる事で『王国ルート』に分岐するという重要イベントだ。
前の週、僕はそのルートで労せず団長を仲間に出来たけど、国には大分酷い目に遭わされたから関わらない方向で行こうと思ってる。
だけど僕は──団長という美味しいところだけは頂きたい……!
正直めちゃくちゃ怖い。
だけどVRRPGでは一部を除いて敏捷のステータスはないのが基本だ。早くなればなるほど身体を動かす難易度は飛躍的に上がるし、配信映えもしないから。
だからこのゲームのステータスは基本的にはHP、MP、攻防力、魔法防御力の5つだけ。
そして騎士の重装備なら――うん、失敗しても、僕一人なら逃げられる。
「それにね、勝つ事――は無理でも負けない事は出来なくもないんだ。この無法の世界で正々堂々だなんて、物凄い弱点を持ってるんだよ?」
例えば――さっきの騎士が村で好き勝手して、とんでもない被害が出たって設定でいけばどうだろう?
人の心を持っているなら反撃すら簡単じゃないと思う。僕を憐れんでいる間は経験値稼ぎ放題だ。
そう伝えるとシノさんは嫌な顔で僕を見て――
「ユウは一度死んだ方がいいと思う……」
……なんて事を言うんだ……力が足りてないまま正々堂々挑むなんて、何にもいい事ないのに!
「でもさ、実際村は平和で私たちも元気だし、騙されるわけないじゃん」
それでもドン引きしながら倫理を置いて考えてくれるのは凄く頼もしい。
「そこはほら、復讐の為とか言ってこっちから出向けばいいし、見た目もほら――」
僕は重傷に見えるよう、インベントリに収納してあった血液を全身から吹き出して見せると――
「──ひ、ひぃひゃぁぁあっ!」
『!!――――!』
パァンッ、と小気味よい音が鳴り、頬が熱くなる。
ビンタされた。
「あ、あんた急に、な、なんて気持ち悪い物掛けてくれるのよ!?」
か、掛かっても回収出来るって。
僕の特技を地味とか言うから見せたくなっちゃうんでしょうが!!
全く、ちーちゃんは突然のサプライズに目を丸くして大喜びなのに……汚い物かけちゃってごめんねー。
よし、この空気は変えたいし、今度のお詫びはこれにしよう。
僕はスクリーンショット機能を使って、髪型がオシャレになったちーちゃんを撮影して写真を渡す。
『――!――――!』
「――な、何これ! ちーちゃんの――絵!?」
写真なんて見た事のない2人は手の中の精密過ぎる絵に大はしゃぎ。ちーちゃんは凄く喜んでくれてる。私も欲しいとばかりに手を伸ばしてくるシノさんの手を、ペシとはたいて拒否する。
今は大事な話の途中でしょ!
「とにかく! もし失敗してもインベントリの事を打ち明けて、村には近付かせないようにするからさ。僕が帰ってこなかったらこのまま村で過ごせばいいから」
この死ねない世界でクリアする為には――僕の代わりにあのリザの魔法を、一度は耐えてくれた彼。
世界でたった八人。
専用クラスの一つ『聖騎士』は絶対必要なんだ。罪悪感で雁字搦めにして、絶対に仲間に引き入れてやる……!
この話で長い長い洞窟内のお話は終わりです。
お付き合いいただき本当にありがとうございました。
明日はようやく外に移ります。




