13 ゲームクリアに向けて
《VRゲーム『ユートピア』――この世界の人間は、圧倒的な力を持つ『魔族』に生きる事を許されている。
そんな絶望の中、歴史上初めて、魔を祓う力を持つ『神聖武具』の適合者が8人同時に現れた。
これは“最初で最後の解放のチャンス”とされている。
生かすも殺すもプレイヤー次第》
確かこのゲームのストーリーはこんな感じだったはずだ。
『人類の解放』――なんてあからさまなトゥルーエンドは目指すつもりはないから、殺す一択なんだけどね。
大陸の南西に位置する『ルミナス王国』の中で更に南端、この寂れた村が僕の現在地。
薄暗い洞穴の少し外、地面にちーちゃんが書いてくれた地図のようなものを見ながら、現状を考える。
ユートピア大陸を4つに分かつ大国――だけど重税と私腹を肥やす上層部の腐敗で、その末端はボロボロだ。
魔族領と面していないこの国は外も比較的安全で、それをいい事に国中から富を集中させている。
そんな背景もあって、この国は魔族の支配を受け入れている。
魔族の要求は『定期的な労働力と食料の提供』、そして『必要以上に力をつけるな』というもの。
上層部にとってそんな要求など自分には被害がないとして、国力はともかく金だけはある大国だ。
そしてそんな大国の騎士団の一部が、今ここに向かってきている――と。
僕にとってはゲームなんかじゃない、こんな世界で。
なんだこれ、すでに挫けそうだわ。RPGの主人公って本当凄い事してるよね……
だけど僕だってゲームクリアを目指す事にしたんだ。主人公として目茶苦茶優遇されているのに、想像だけでビビって立ち止まってなんかいられない。
「――これで、良しと」
優遇のひとつがこれ――スキル選択。
このゲームのプレイヤーはスキルを大量の選択肢の中から、自由に選択出来るようになっている。
レベルが上がると手に入る「SP」を使って、『土魔法入門』を覚えた。
土を柔らかくしたり、硬くする魔法。
あとは温存だ。
胸の痛みは……我慢出来るところまでは、我慢する。
回復手段を採ろうとは思ってたけど、スキル選択画面の1番下にある『未来技術』を読んで考えが変わった。
信じ難い事ばっかり書いてあるけど、九條の名前と、このAIと接した今ではもう疑えないから。
その中の2つは必要ないからスルーするとして、問題はこの『未来技術III』。
これは、出来れば僕が取る。
こんなに胸糞悪い物詰め込んで、いくら何でもふざけ過ぎだ。
こんな技術を欲しがる人に取られても気分悪いし、これはハッピーエンドへ向かえる唯一のものだと思うから。
まあ無理するつもりはないけど、配信されてる以上出来る限り攻略法は隠したい。
……配信か。笑っちゃうよね、これだもん。
『現在配信中:視聴者数 4』
増えてんじゃないよ気持ち悪いなぁ!!
4人……僕を閉じ込めた奴だけじゃあないんだろうな……メニューの『掲示板』ボタンを押してみると――
『記念スレ立て【誰かいる?】(1)』
なんて、犯罪者が立てるにはあり得ない程、能天気なスレッドがひとつあるからだ。
元々の狂った難易度に加えて、ログアウトも出来ず、痛みまで感じるこのゲームに手を出してこの余裕。
只者ではないだろう事は容易に想像出来て、是非意見交換をしたいところだ。
なのに見られるのはスレタイだけで、開く事は出来ないし、僕がスレ立てする事も出来ない。
配信されているんだから、僕の声は向こうに届けられるはず。だから向こうの声を聞く事が禁止という事だ。
だったら……助けを求めるべきか……? これは歴とした誘拐で、監禁だ。必死でこの状況を訴える事が出来れば――
ないな、少なくとも現時点では。
僕の本体が向こうにある以上、栄養補給も下のお世話も誘拐犯に任せなきゃいけない状況なんだ。犯人を刺激するような、そんな迂闊な事出来る訳ない。
それ以前に僕、向こうには幼馴染しか頼れる人がいないし――
なんて考えていると、洞穴の外から足音がして、2人が結構な量の荷物を抱えて帰ってきた。
「――――!」
「ごめんお待たせ。ちょうどいいから色々取りに──おい……さっきの男の死体は……?」
ちーちゃんは元気よく僕の目の前に来て、笑顔でお辞儀をする。何度も触ったりして、どうやら僕のあげたリボンは気に入ってくれたみたい。良かった。
反対に僕を疑いの目で見てくるのはシノさん。
現状、僕の怪しさが振り切れ過ぎているから仕方ないけど。本当、よくこんな僕と普通に話してくれるよね……
「大丈夫。何度か試したらちゃんとしまえたから安心してよ、ほら――」
これ以上疑われてもいい事ないし、肩から騎士の顔だけ出して見せる。
「っ!! …………そう……分かったから……しまっていいから――ちーちゃん! そんなのに興味持たない!」
『――??』
なんでー? なんでそこから生えるー? とばかりに僕の体をペチペチと叩くちーちゃん。
ふふふ、この世界には既にアイテムボックスってスキルがあるって話だから、インパクトを出して正解だった。
ほらほら、今度は体にしまっちゃうぞ!?
『――!? ――!!』
再度インベントリにぬるりと入れると、ちーちゃんは驚いた顔で僕の肩を凝視している。
これは……荒れていた気持ちが、物凄い勢いで整っていく……。
「……はあ……とりあえずこれ、村で取れた薬草ね。効果は低いけど気休めにはなるでしょ」
……優しい。
そうだな。僕の目標はゲームクリア。
エレのアカウントにはノーマルエンドがいくつか実績登録されていたから、条件はある程度知っている。多分そこを目指すと思う。
力を持たない条件だけは国に守らせつつ地道に地盤を整えていく。
この国の懲罰担当はリザ。二度と戦いたくない。
どのルートを辿るにしても、長時間掛かってしまうことは確実で、このまま根無し草でいるなんて気が狂ってしまう。
悠長かもしれないけど、騎士団が解決したら次は地盤の安定、そして仲間の勧誘。
うん、やっぱり全部説明しよう。
何も持っていない今は無理だけど、この2人は信用出来るし、能力的にも絶対に雇いたい。
「ありがとうね。じゃあ、ちょっと長くなるし、信じられないような事かもしれないけど、丁度いいから全部説明していいかな?」
「は、全部? それは……いいけど、嫌だなぁ……あんたホント訳分かんない事になってんだもん……」
見るからに心の準備が出来ていないシノさんには申し訳ないけど、深く突っ込まれると困る事も多いから一気に話し始めちゃおう。
僕は座り直して居住まいを正す。
そうして僕が説明を始めると、シノさんは腕を組んで聞き始めた。




