第七話
「よっしゃあああ! クラスマッチ来たーー!」
ホームルームの終わり際、担任が告げた一言に、教室中が歓声に沸いた。
年に一度、クラスの名誉(と賞品の焼肉食べ放題券)を賭けて戦う球技大会、通称クラスマッチ。
貞操観念が逆転してるこの世界では、当然スポーツの主役は女子だ。筋力も持久力も、女子の方が圧倒的に上。だから、男子はおとなしく応援か雑用っていうのが暗黙のルールらしい。
種目はバスケとバレー。バスケ経験者の俺としては、ちょっと心が躍る。まあ、どうせ出られないんだろうけど。
「なあなあ橘!あんた、中学の時バスケやってたんだろ?」
「男子がいる方が絶対盛り上がるって!一緒にバスケやろうぜ!」
案の定、クラスの運動部に所属してる活発な女子たちが、わらわらと俺の席に集まってきた。
体を動かすのは好きだし、正直、ちょっと魅力的だ。
「え、いいのか? 男子が出ても」
俺が乗り気でそう返すと、途端に教室の別の場所から不満そうな声が上がった。
「えー、男子が混ざるの?」
「本気でプレイできないじゃん。怪我させたらどうすんの」
うわ、めんどくせえ。
クラスの空気が、一気にギスギスし始める。俺一人を巡って、女子たちが二つの派閥に分かれて睨み合っている。どうすんだよ、これ。
その、一触即発の空気を切り裂いたのは、凛とした声だった。
「皆さん、落ち着いてください」
我らがクラスの学級委員長、天野美月だ。
彼女はすっと立ち上がると、完璧な笑顔でその場を収め始めた。
「気持ちは分かりますが、橘くんにだけ危険な思いをさせるわけにはいきません。でも、橘くんの力を借りたいという意見も尊重すべきです。ですから……」
美月はそこで一度言葉を切ると、俺の方をまっすぐ見て、こう提案したのだ。
「橘くんには、選手ではなく、このクラスの専属マネージャーとして、チームをサポートしてもらうというのはどうでしょうか?」
マネージャー? 俺が?
予想外の言葉に、俺だけでなく、クラス中がキョトンとする。
「橘くんの運動神経は、皆さんご存知の通りです。だからこそ、一番大切なクラスの司令塔を任せたいんです。ドリンクの管理から作戦の伝達まで……あなたにしか頼めません」
その熱のこもった言葉と、非の打ち所がない提案に、クラスの空気は一変した。
「男子を守る」という大義名分と、「クラスの一員として側に置く」という独占欲の両方を満たす名案。さっきまでいがみ合っていた女子たちが、「それなら安心!」「陽太くんがマネージャーとか最強じゃん!」と満場一致で賛成し始めた。
おいおい、俺の意思はどこだよ。
まあ、面倒な争い事が収まるなら、それでもいいか。
「……そういうことなら、分かったよ」
俺が渋々頷くと、美月は嬉しそうに微笑んだ。
放課後、俺は美月に呼び出され、二人で体育倉庫に備品を取りに来ていた。
「ごめんなさい、陽太くん。あなたの気持ちも聞かずに、勝手に決めてしまうような形になってしまって」
美月が、申し訳なさそうに眉を下げる。
「いや、いいって。委員長のおかげで、面倒なことにならずに済んだし、感謝してるよ」
薄暗い倉庫の中で、二人きり。なんだか、少し変な感じだ。
美月はボールを数えながら、ぽつりと呟いた。
「でも、本当は……選手として汗を流す陽太くんより、こうして隣で支えてくれる方が……私にとっては、嬉しいかな」
「え?」
聞き返す俺に、彼女は「ううん、なんでもない!」と首を横に振って、いつもの完璧な笑顔を向けた。
その笑顔が、なぜか少しだけ、いつもと違って見えたのは、きっと気のせいだろう。
こうして、俺はクラスで唯一の「男子マネージャー」という、なんだかよく分からないポジションに就くことになったのだった。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!
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投稿遅れて申し訳ございません。クラスマッチ編開幕ですね。あと二話ぐらい続く予定。今度こそ20時ぐらいに投稿しようと思います!お楽しみに!
追加で、近々ハイファンタジーの方でも領地経営系を書く予定なので、そちらもよろしくお願いします!