表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

1/9

第一話

貞操観念逆転世界。

そんなSFみたいな設定が、俺の日常になって早二ヶ月が過ぎた。結論から言えば、まあ、なんとかなっている。


女性の方が力が強く、社会的に優位。痴漢の犯人もストーカーも、その大半が女。最初は面食らったが、要は元の世界の「女の子」みたいに、ちょっとだけ身辺に気を付けていればいい。そう割り切れば、案外普通の高校生活が送れるものだ。


「ん……もう朝か」


カーテンの隙間から差し込む光で目を覚ます。俺――相川陽太あいかわ ようたはベッドから這い出し、制服に着替える。眠い目をこすりながらリビングのドアを開けた。


「陽太、あんたまたその寝癖!だらしないわよ!」


ソファでニュースを見ていた姉さん――相川朱音あかねが、俺の頭を指差して眉をひそめた。大学生の姉さんは、海外にいる両親に代わり、俺の保護者として口うるさく身の回りの世話を焼いてくる。


「別にいいだろ、これくらい」


「よくない!男子は清潔感が第一なの!変な女に『この子ならいける』って思わせる隙を作っちゃだめ!」


そう言って、姉さんは俺を洗面所に引きずり戻すと、手早く髪を濡らして整えてくれた。


「あんたが鈍感で無頓着すぎるのよ!いい、学校でも曖昧な態度はとっちゃダメ。嫌なことは、ちゃんと嫌って言うの!」


「わかってるって」


このやり取りも、もはや朝の恒例行事。「行ってきます」と手を振り、俺は玄関のドアを開けた。


家を出て、最寄り駅から乗り込んだ電車は、案の定ぎゅうぎゅう詰めの満員電車だった。


「……うお、混んできたな」


女子高生の波に押されながら、俺は吊り革を握る。この世界では男子は希少種らしく、好奇の視線にはだいぶ慣れた。「イケメン観察」くらいのノリだろうと、楽観的に捉えている。


――ピロン。

ポケットのスマホが鳴り、防犯アプリの通知が目に入る。


『××駅構内にて、女子生徒によるしつこい声かけ事案が発生。男子生徒の皆さんは…』


「はいはい、気をつけますよ」


他人事のように呟き、俺はスマホをポケットにしまった。危機感がないと言われればそれまでだが、ビクビクしていても仕方がない。


始業前のざわついた教室。なんとか遅刻は免れたものの、眠気はピークに達していた。俺は自分の席に着くなり、机に突っ伏して小さくあくびをする。


「陽太くん、おはよう。眠そうだね、また夜更かし?」


隣の席から、呆れたような、でもどこか楽しそうな声がした。クラスの学級委員長、天野美月あまの みつきだ。


「ああ、おはよう。ネトゲやってたら、つい止まんなくなっちゃってさ」


俺が顔を上げてへらりと笑うと、美月は「もう。ちゃんと睡眠とらないとダメだよ。授業中、寝ないでよね?」と、まるでお母さんのように言う。


そんな他愛ない会話をしていると、ポケットのスマホが短く震えた。メッセージアプリを開くと、昨夜一緒にネトゲをしていたフレンドからだった。


『昨日のレアドロップ、朝イチで売れたぞ!山分けな!』


その報告に、俺は思わず「お、まじか」と寝ぼけ眼をこすりながらも、嬉しそうな声を漏らしてしまった。


「……楽しそうだね。友達?」


ふと、隣から静かな声がした。

見ると、美月が俺の顔をじっと見つめていた。さっきまでの明るい笑顔は消えている。


「うん。昨日一緒にゲームしてたやつから。レアアイテム売れたって」


「へぇ……。その子って、女の子?」


探るような質問。俺は特に深く考えず、正直に答えた。


「んー、どうだろ。名前とかアバターはそれっぽいけど、ボイチャしたことないからわかんないな」


そう答えた瞬間、彼女の周りの空気が、すっと冷えた気がした。美月は何も言わず、ぷいと顔をそむけて自分の教科書を机の上に並べ始める。


……やばい、何か地雷踏んだか?

明らかに不機嫌になっている。朝からこの気まずい空気はごめんだ。


「あー……でも、学校でこうやって朝イチで話すのって、天野くらいだけどな」


面倒事を避けるため、当たり障りのないフォローを入れる。特別扱いされて嫌な気はしないだろう、という浅はかな計算だ。


すると、教科書を並べる美月の手がぴたりと止まった。ゆっくりとこちらを向いた彼女の表情が、少しだけ和らいでいる。


「……本当?」


「本当本当。委員長が隣だと、なんか色々ちゃんとしてるから安心するし」


思ったことを口にしただけだが、効果はてきめんだったらしい。美月は頬をほんのり赤らめ、嬉しそうに俯いた。


「そっか……。うん、わかった」


機嫌、直ったかな?

そう思ったのも束の間、彼女は顔を上げると、とびっきりの笑顔でこう言ったのだ。


「じゃあ、あんまり私以外の子と連絡、取っちゃだめだよ?朝の挨拶も、私だけにしてほしいな。約束ね」


「ええ……善処します」


俺が曖昧に返事をすると、美月は満足そうに頷いた。そして、自分のカバンから小さなフルーツ味のキャンディを一つ取り出すと、俺の机の上にことりと置いた。


「はい、あげる。眠気覚まし。ちゃんと、約束できそうだから」


ご褒美、ということだろうか。

よくわからないが、お菓子をもらえたのはラッキーだ。俺は「サンキュ」と言ってキャンディを受け取った。


隣で嬉しそうに微笑む彼女の完璧な笑顔。うん、やっぱり女の子は笑顔が一番だ。

最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございます!


少しでも「面白いな」「続きが気になるな」と思っていただけたら、ぜひ下の評価ボタン(★★★★★)をポチッと押して応援していただけると、作者がめちゃくちゃ喜びます。


第二話は今日の夜出す予定なのでお楽しみに!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ