第7話
真理の母、江戸知子はこの世を去った。
江戸真理は、母の言葉を胸に刻み、家を後にする。気が付くと空はオレンジ色になっていた。
江戸は明人に母の訃報を伝え、町民が避難している中学校に向かっていた。
「そこに、家に帰れない人がみんな集まってる。おばさんのことは残念だったけど、しん兄が帰ってきたっていったら、みんな喜ぶと思うよ」
「ああ、悪いな。明人も辛いだろうに、よくしてくれてありがとう」
「いいんだ、兄さんはきっと帰ってくるから」
「そうか」
(探しにいきたいけど、怪物がいて無理だ。あいつらを相手にしながら人探しなんて)
「そうえば、しん兄はどこまで読めるの?神様からの啓示」
(また、これか)
「俺は、11まで読めるよ」
「え!やっぱりしん兄はすごいや!そこまで読めるひとなんて島にはいないよ」
「そうか、そうかもな」
少し歩くと、味噌のいい香りがしてくる。炊き出しをしてるみたいだ。
懐かしい坂道を歩き、中学校につくと、そこには100人程が避難生活をしていた。
「こんなにいるのか」
「家が無事でも海が近い家の人はみんな来てるからね」
「町内会の人はどこにいるか分かるか?母さんから伝言を預かってるんだ」
「職員室にいるよ、たぶんずっと会議してると思う」
学校内はあの頃のままだった。職員室を開けると、お偉いさんっぽい人たちが葬式のテンションでこちらを見てきた。
「どうも、江戸知子の息子の江戸真理です」
「おー、かんさんのとこのせがれじゃねーか。ともさんの調子はどーだ?」
近くに座っているおじさんが聞いてくる。
「母は先ほど亡くなりました」
「そんな」
「亡くなる前、町内会のみなさんに『ありがとうございました』と言っていました。俺からも言わせてください。本当にありがとうございました」
「いや、感謝されるようなことは何もしてねーよ。はあ、そうか。ともさんまで」
涙を浮かべる人、怒りを露わにする人、俺を慰めてくれる人、知子の死に対して様々な感情を持つ人がいた。
江戸は自分が来た方法と海の状況を説明した。
「そうですか、そんなことになっているとは。しかし、真理くんが来てくれたおかげで島からでることができるようになったわけですよね!担いで運んでもらえば、今度こそ全員脱出できる!素晴らしい!」
「島を置いて逃げるっちゅうことか!そんなことできねえって言ったろ!」
スーツの男の提案にすぐに反論が入る。
「すいません。人を抱えながらだと、飛べないんです。それで、母も連れてけませんでした」
江戸の言葉で、気を落とす人が多くいた。
「やっぱりそうか」
「やっぱり?」
疑問に思い聞き返す?
「飛べるやつがいたんだよ。引っ越してきてばっかのやつが一人。そいつもおんなじこと言ってた。そんで、助けを呼びに本土に行ったが、一向に連絡はきやしねえ」
「どうせ、そのまま逃げちまったんだろ。これだからよそ者は」
(なるほど、これは俺だけじゃねーのか)
「あー、もう終わりだ。このままみんな食われてしまいだ」
(ん?食われてしまい?あいつらは海の中から出てこれないはず。そうえば、あのウツボは陸にいた。海の近くの家も壊されていた)
「怪物は陸にあがってきたんですか?」
「あ?そうだよ。雨が降ってる間だけな。テレビ見てねーのか?」
(そうか、雨か!雨が降れば怪物は陸まであがってくるのか)
現状を知るため、職員室の奥にあるテレビを見に行く。
そこには、非常事態を知らせる速報が流れていた。そして、ニュースキャスターが繰り返していたのは、沿岸部と川沿いに住む人の避難警告と、政府が『終読者』を探しているという内容だった。
江戸がテレビを見つめていると、一人の男が聞いた。
「そういや、あんちゃんは、一体どこまで読めるんだ」
殺気のようなものを感じる。
「11です」
江戸がそういうと、別の男が江戸に殴りかかる。
「てめーか!!!てめーが終読者か!!よくもこんなんにしやがって!!!殺す!殺す!!」
周りが急いで止めに入る。
「おい!やめろ!終読者は12だろ!」
必死に周りが男を遠ざける。
「くそ、くそ!なんでだよ」
男は泣き始め、周りは静まり返る。
「大丈夫か、あんちゃん。すまねえな。みんな限界なんだ。11まで読めてるやつはいるってテレビで言ってた。12まで読めるやつを探してるんだ。あんちゃんは終読者なんかじゃねえ」
「いえ、なんで終読者を探してるんですか?」
「そいつを殺せば、怪物がいなくなるって噂だ。だから、テレビも必死こいて探してんだろ」
「なんだよ、噂って」
(そんなことあんのか。終読者のせいで、怪物が現れたってことかよ。じゃあ、俺が死ななきゃいけねえってことかよ)
江戸は動揺を隠せない。
(大丈夫、俺が12まで読めてるなんてみんな知らない。大丈夫)
「あなたなら、終読者を殺せるんじゃない?」
眼鏡をかけた女が江戸に尋ねる。それを皮切りに、周りの人達の抑えていた憎しみがあふれ出る。
「それがいい!お前が終読者を探してこい!」
「読める文が長いほど、能力が強くなるってテレビでも言ってたわ!」
「娘を亡くしたんだ、俺たちのために君が復讐してくれ!」
「君、あの化け物を殺したんだろ!だったら、終読者だって殺せるんじゃないの?!」
「頼む!殺してくれ!」
「殺せ!!」
「殺せ!」
「分かった。とりあえず海の化け物を殺してくるから。みんなはここで待っててくれ」
江戸は知った。世界を取り巻く現状を。恐怖に襲われた人間がどうなるかを。これから自分が向き合わなければいけない憎悪を。
「あー、もうめんどくせえ」




