第2話
江戸は重い頭を抱えながら目を覚ました。
カーテンを開けると、街は普段とは違う騒がしさに包まれていた。
家々の明かりがつきっぱなしで、近くでは煙が上がっている。
「あれ……火事か?」
テレビをつけると、ニュースキャスターが噛みながら叫んでいた。
『緊急速報です!先ほど報道フロアを襲った原因不明の頭痛が全国的に起きていることが分かりました。交通機関が麻痺し、各地で人身事故が発生しています!』
「なんじゃこりゃ……」
江戸は状況に全くついていけなかった。ふと、先ほど見えた煙を思い出す。
気づけば足は動いていた。
「これが、全国で起きてんなら、えらいこっちゃだぞ。この神書とやらが本物だとしたら、神様とやらが、ほんとにいることになんぞ」
パジャマのままサンダルを突っかけ、煙の方角へと走り出す。
途中、体に違和感が広がる。
視界が妙にクリアで、皮膚に見えない何かがまとわりついている感覚。
「なんか気持ちわりぃ……こりゃ、どうなってんだ」
それでも足を止めずに進むと――そこには異様な光景が広がっていた。
燃える車が、溶けた鉄のような物質に飲み込まれている。
そしてその前で、涙を流すひとりの少女が立ち尽くしていた。
「……おいおい、ガチファンタジー世界突入かよ」
少女は必死に泣き叫んでいた。
「そこいたら危ねーぞ!」
江戸は少女を抱え、車から遠ざかる。
「まって、ママとパパがまだ中にいるの!」
江戸は黒焦げの車を見て、絶句する。
「わかった、とりあえずここで待ってろ」
鉄にのまれた車の中には原型を留めない二つの遺体があった。
振り返ると、少女がこちらを見ていた。
「……悪い。父さんも母さんも、もう……」
「ミユのせいだ!ミユが助けてって言ったから、2人は死んじゃったの!」
少女の苦痛の叫びとともに、鉄がうねりだす。
「おいおい、どうなってんだ」
(まるで、この子に反応してるみたいだ)
「頭痛くなって、おっきい音がして、熱くて、怖くて、助けてって言ったらパパが助けてくれて、ママを助けに行ったら…」
「お前のせいじゃない」
「違う! ママは動けなかったの!なのに、パパはミユを助けてくれて……火が出て……消さなきゃって……!」
少女の声は震えていた。
途切れ途切れに、必死で言葉を繋ぎ止める。
「お前は悪くない」
「ミユが……『助けて』なんて言ったから!ごめんなさい…ごめんなさい」
涙も出ないほどの自己否定をしている少女の小さな肩が大きく震える。
「ミユが……死ねばよかったんだ。ミユが!!」
その瞬間、車を覆っていた鉄が一本のつららとなり、少女目掛けて飛んでいく。
江戸は咄嗟に、鉄をつかむ。それは今にでも江戸を貫こうとしている。
(もしかしたら、これはミユの心に反応してる)
「死にたいなんて思うから、こんなんが飛んでくるんだ」
「お前の気持ち全部はわかんね。でも、俺もそんな経験をしたことがあるよ。電源切って、セーブ地点まで戻りたくなるよな!あの瞬間に戻って、やり直したいよな!」
ミユが江戸の方を見る。
「でも、もうお前が死にたいって言っても、甘やかしてくれるお父さんや、叱ってくれるお母さんはもういないんだ!」
ミユの目から大粒の涙が溢れる。
「だから、セーブしよう。これからもお前の物語は続くんだから」
鉄はゆっくり地面に落ちる。
ミユは静かに泣いていた。
(俺の思いが伝わったかは分からない。ただのオタクの言葉で、救われるとも思っても無い。それでも、伝えたかった。誰も親の代わりになんてならないけど、お前を叱る人がこれからいっぱいいること、お前の未来を楽しみにしてる人がいたことを)
「ありがとな、止めてくれたんだろ、お前はやっぱり強い子だ」
ミユはへにゃりと座った。
(この事態の原因は、位階新書ってやつを信じるなら、終読者ってやつだ。許せない)




