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反乱の狼煙と女王の器

隣国の協力を得て、ついに祖国奪還の戦いが始まった! 初めての戦、兵を率いる重圧。舞姫でしかない私に、女王の器などあるのだろうか。シンドバッドの支えを胸に、私は民のため、剣を取る!

マハラ王国の全面的な支援を受け、私たちの反乱軍は、かつてないほどの規模に膨れ上がっていた。数千の兵士、豊富な物資、そして、伝説のジンという最強の切り札。祖国奪還は、もはや夢物語ではなかった。

作戦は、国境付近の砦「アズラール」を奇襲し、そこを拠点として、一気に王都へと攻め上るというものだった。


「開戦の狼煙は、私が上げる」


作戦会議の席で、私はそう宣言した。兵士たちの士気を高めるため、そして、私がただ守られるだけの姫ではないことを示すために。ラシード国王は私の覚悟を認め、シンドバッドは「面白くなってきた」と不敵に笑った。

決戦前夜。私は、一人、月明かりの下で剣の素振りをしていた。心臓が、早鐘のように鳴っている。明日、私は初めて、人を殺めることになるかもしれない。その重圧に、手が震えた。


「……らしくないな、ファラ」


いつの間にか、シンドバッドが隣に立っていた。


「怖いか?」


「……怖くない、と言えば嘘になるわ。舞姫だった私が、兵を率い、国を治めるだなんて。本当に、私にそんな器があるのかしら」


私の弱音に、彼は何も言わず、私の剣を持つ手を、彼自身の大きな手で包み込んだ。そして、私の体の後ろに回り、正しい剣の型を教えるように、私の体を導いた。


「お前は、お前らしくいればいい。お前には、人を惹きつける華がある。困難に立ち向かう勇気がある。そして、民を想う優しさがある。それこそが、女王の器だ。細かいことは、俺や、ラシードや、お前の仲間たちがやればいい」


彼の背中の温かさと、耳元で囁かれる優しい声が、私の不安を溶かしていく。


「それに、忘れるな。お前がどんな道を選ぼうと、俺は常にお前の隣にいる。お前が剣を取るなら、俺はそれ以上の力でお前を守る。お前が玉座に座るなら、俺は最高の道化となって、お前を楽しませてやろう」


「……道化ですって? 失礼ね」


「褒め言葉だ」


私たちは、どちらからともなく笑い合った。そうだ、私は一人じゃない。この、不遜で、気まぐれで、けれど誰よりも頼りになるジンが、そばにいてくれる。

そして、夜明け。

アズラール砦への奇襲が開始された。私は、先陣を切って、マハラの兵士たちと共に砦の城壁へと突撃した。


「私が、亡国の姫、ファラ・アル=ラシードである! 暴君ジャファルの圧政に苦しむ者たちよ! 今こそ、立ち上がる時だ!」


私の声は、魔法の力で増幅され、砦中に響き渡った。砦の兵士たちの中に、動揺が走る。彼らもまた、ジャファルの圧政に苦しむ、この国の民なのだ。

案の定、砦の内側から、私たちの呼びかけに応じる者たちが現れた。彼らは内部から城門を開け、私たちは一気になだれ込んだ。

戦いは、熾烈を極めた。私は、舞うように剣を振るった。人を斬るのではない。敵の武器を弾き、戦意を削ぐための剣。けれど、敵も必死だ。一人の兵士が、死角から私に斬りかかってきた。もうダメだ、と思った瞬間、その兵士は、見えない風の刃によって、吹き飛ばされた。

上空で、シンドバッドが、まるで戦場の指揮者のように、優雅に腕を振るっている。彼の起こす突風が、敵の陣形を乱し、味方を援護する。

しかし、敵もただやられてはいない。砦の司令官が、最後の切り札を使った。彼は、魔術師から与えられたという、黒い水晶を掲げた。すると、倒れた兵士たちが、まるでゾンビのように、次々と立ち上がり始めたのだ。その目は虚ろで、痛みを感じない不死身の兵士となって、私たちに襲いかかってきた。


「なんて、非道なことを……!」


味方に、動揺が広がる。その時、ラシード国王率いる本隊が、到着した。


「姫殿下、ご無事か! ここは我らがお引き受けする!」


ラシードの兵士たちが、不死の軍団を食い止めている間に、私たちは、司令官を討つべく、砦の中枢へと向かった。

司令官は、天守閣で、私たちを待ち構えていた。


「亡国の姫が、舞い戻ってきたか。だが、もう遅いのだ。魔術師様は、この戦いの間に、最終準備を終えられる。砂漠の古代兵器『バハムート』が目覚めれば、お前たちなど、一捻りよ!」


「バハムートですって!?」


私は、その名に戦慄した。建国神話に登場する、一度目覚めれば、国一つを一夜にして砂漠に変えるという、伝説の破壊兵器。


「そんなものを目覚めさせて、国がどうなるかわかっているの!?」


「知ったことか! 我らは、魔術師様に、永遠の命を約束されたのだ!」


狂気に満ちた司令官に、もはや言葉は通じない。


「ファラ、下っていろ。こいつは俺が片付ける」


シンドバッドが前に出ようとするのを、私は手で制した。


「いいえ、シンドバッド。この人は、私の国の人間。私が、ケリをつける」


私は、剣を構え、司令官と対峙した。激しい剣戟の末、私は、彼の持つ黒い水晶を叩き割り、その剣を弾き飛ばした。

勝負は、決した。


「……なぜ、殺さない」


「あなたも、ジャファルと魔術師に騙された、犠牲者だから。罪は、法の下で裁きを受けてもらうわ」


私の言葉に、司令官は、呆然と、その場に崩れ落ちた。

アズラール砦は、陥落した。私たちの、最初の勝利。兵士たちが、私の名を呼び、歓声を上げる。私は、その声援に応えながら、遠い王都の空を見つめた。

古代兵器、バハムート。本当の脅威は、まだ目覚めてもいない。私の戦いは、私の国は、一体どうなってしまうのか。一抹の不安を抱えながらも、私は、女王としての第一歩を、確かに踏み出したのだった。

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