慈愛の森と、女王の資格
最後の試練、「慈愛の神器」が眠る、迷いの森へ。そこは、全ての、生命が、平等に、生きる、聖域。森の、賢者である、精霊王は、私に、問う。「女王とは、何か」「民を、愛するとは、何か」と。私の、覚悟が、試される。
最後の、試練の地は、大陸の、南の果てにある、「ささやきの森」だった。
そこは、古代の、精霊たちが、今も、住まうという、神秘の、森。その、中心にある、「世界樹」の、根元に、最後の神器、「慈愛の王冠」が、眠っているという。
森に、足を踏み入れた、瞬間。私たちは、その、清らかで、濃密な、生命の、気に、包まれた。
鳥たちが、さえずり、動物たちが、私たちを、恐れることなく、近寄ってくる。
しかし、森は、同時に、巨大な、迷路でもあった。
同じような、景色が、どこまでも、続き、私たちは、すぐに、方向感覚を、失ってしまった。
「……これも、試練の、一つか」
シンドバッドが、言う。
私たちは、何日も、森の中を、彷徨い続けた。食料は、森の、木の実や、キノコで、凌いだ。
その、過程で、私たちは、多くの、ことを、学んだ。
森の、生き物たちは、互いに、助け合い、決して、必要以上に、奪うことはしない。
強い者も、弱い者も、それぞれの、役割を持ち、一つの、大きな、調和の中で、生きている。
それは、私が、目指すべき、国の、姿、そのものだった。
森を、彷徨い始めて、七日目のこと。
私たちは、ついに、森の、中心にある、巨大な、広場へと、たどり着いた。
そこには、天を、突くほどの、巨大な、一本の、大樹が、そびえ立っていた。
「……世界樹……」
その、根元には、苔むした、玉座があり、そこに、一人の、老人が、座っていた。
彼は、人間ではなかった。その体は、樹木で、できており、髪は、葉で、できている。森の、賢者、精霊王「ドライアド」だった。
『――よくぞ、参った、人の子らよ』
その声は、風の、そよぎのように、私たちの、心に、直接、響いた。
『我が、神器を、求めるか。……ならば、その、資格が、あることを、示してみせよ』
彼は、私に、問いかけた。
『娘よ。お前は、女王として、この、森の、生き物たちを、見て、何を、学んだ?』
私は、背筋を伸ばし、答えた。
「……全ての、生命は、対等である、ということです。強い者も、弱い者も、それぞれが、かけがえのない、存在であり、互いに、支え合って、世界は、成り立っている。王とは、民の上に、立つ者ではなく、民と、同じ、目線に立ち、その、調和を、守るための、ただの、役割に過ぎないのだと、学びました」
私の答えに、精霊王は、満足したように、頷いた。
『では、もう一つ、問おう。もし、お前の、愛する、この男と、お前の、民、その、どちらか、一方しか、救えぬとしたら、お前は、どちらを、選ぶ?』
それは、あまりに、残酷な、問いだった。
私は、言葉に、詰まった。
シンドバッドの、顔が、脳裏を、よぎる。彼を、失うことなど、考えられない。
しかし、女王として、民を、見捨てることも、許されない。
私は、しばらく、黙り込んだ後、覚悟を、決めて、答えた。
「……わたくしは、選びません」
『ほう?』
「わたくしは、どちらも、諦めません。愛する人も、民も、両方を、救う道を、最後まで、探し続けます。たとえ、それが、どれほど、困難な道であろうと。それこそが、全ての、生命を、慈しむ、ということだと、信じますから。……もし、それでも、どちらかしか、選べぬというのなら、わたくしは、わたくし自身の、命を、差し出しましょう。それによって、二人も、民も、救われるのであれば」
私の、答え。
それは、教科書通りの、答えではなかったかもしれない。
けれど、それは、私の、魂からの、偽りのない、決意だった。
私の、答えを聞いた、精霊王は、その、樹木の顔に、深い、笑みを、浮かべた。
『――見事だ、娘よ。それこそが、真の、「慈愛」。お前には、その、資格がある』
精霊王が、手を、差し伸べると、世界樹の、根元から、光が、溢れ出し、そこから、蔦と、宝石で、編まれた、美しい、王冠が、現れた。
「慈愛の王冠」。
私が、その王冠を、手に取った、瞬間。
森の、全ての、生き物たちが、私たちの前に、集まり、そして、深く、頭を、垂れた。
彼らは、私を、この森の、そして、全ての、生命の、調和を、守る、真の、女王として、認めてくれたのだ。
私は、女王としての、本当の、意味を、この森で、学んだ。
それは、権力で、支配することではない。
ただ、ひたすらに、深く、そして、平等に、全ての、ものを、愛することなのだと。
私たちは、ついに、三つの、神器を、全て、手に入れた。
私たちの、試練の旅は、終わりを告げた。
しかし、これは、終わりではない。
ここから、始まるのだ。
私と、シンドバッドが、二人で、手を取り合って、この国に、真の、調和と、慈愛に満ちた、未来を、築いていく、長い、長い、物語が。