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知恵の神殿と、砂漠の賢者

最初の試練、「知恵の神器」が眠る、古代の神殿へ。そこは、数々の、謎解きと、罠が、仕掛けられた、迷宮だった。絶体絶命の危機、私たちの、窮地を救ったのは、シンドバッドの、元・神としての、驚くべき、叡智だった。

私とシンドバッドの、試練の旅は、ザルバード王国の、東の果て、古代に、「賢者の谷」と呼ばれた、場所から、始まった。

そこには、最初の神器、「知恵の宝珠」が眠るという、古代の神殿が、あった。

風化した、石造りの、巨大な、神殿。入り口には、古代文字で、こう、刻まれている。

『――力持つ者、富持つ者、いずれも、この先へは、進めず。ただ、真の、知恵を持つ者のみに、道は、開かれん』

「……いかにも、面倒臭そうだな」

シンドバッドが、やれやれ、といった様子で、肩をすくめる。

私たちは、覚悟を決め、神殿の、中へと、足を踏み入れた。

内部は、巨大な、迷宮となっていた。そして、私たちの、行く手には、次から、次へと、知恵を、試す、罠が、仕掛けられていた。

最初の部屋は、「星の部屋」。

天井には、無数の、星が、描かれ、床には、いくつかの、石板が、置かれている。

『――天の、川の、向こう岸にて、離れ離れになった、恋人たちを、結びつけよ』

織姫と、彦星の、伝説に、なぞらえた、謎解き。

私は、天文学の、知識を、総動員し、正しい、星座の、石板を、正しい、位置へと、動かしていく。

最後の、石板を、置いた時、壁が、開き、次の部屋への、道が、現れた。

「やるじゃないか、女王陛下。伊達に、王家の、教育を、受けてはいないな」

「あなたこそ、見てるだけじゃなくて、少しは、手伝ったらどうです?」

私たちは、軽口を、叩き合いながら、先へと、進んだ。

次の部屋は、「音の部屋」。

そこには、大小、様々な、鐘が、吊り下げられ、壁には、古代の、楽譜が、刻まれている。

『――魂を、鎮める、聖なる、旋律を、奏でよ』

私は、音楽の、素養は、あまりない。

「……これは、困ったわね」

私が、頭を、抱えていると、シンドバッドが、初めて、前に出た。

「……貸してみろ」

彼は、壁の楽譜を、一瞥しただけで、その、複雑な、旋律を、完全に、記憶したようだった。

そして、彼は、石を、手に取ると、驚くほど、正確な、リズムと、音程で、鐘を、打ち鳴らし始めたのだ。

神殿に、響き渡る、清らかで、美しい、旋律。

それは、ただ、楽譜通りに、奏でているだけではなかった。彼の、演奏には、魂が、宿っていた。

演奏が、終わると、床の、一部が、開き、次の道が、現れた。

「……あなた、音楽の、才能も、あったのね」

「伊達に、何千年も、生きてはいないさ。暇つぶしに、色々やったからな」

彼は、少し、得意げに、笑った。

しかし、試練は、ここからが、本番だった。

最後の部屋。そこは、巨大な、広間になっており、中央には、一つの、天秤が、置かれていた。そして、その、向こう側の、台座に、「知恵の宝珠」が、青白い光を、放っている。

『――最後の、問い。世界の、全てを、手に入れることができる、魔法の、ランプと、愛する、者との、ささやかな、幸せ。どちらか、一つを、選べ。汝の、魂の、価値を、天秤に、かけよ』

究極の、選択。

そして、私たちが、どちらかを、選ぼうと、した瞬間。

天井が、轟音と共に、崩れ落ちてきた。

「罠か!」

私たちは、慌てて、身を、かわす。

天秤の、謎解きは、フェイク。本当の、試練は、この、崩落する、神殿から、脱出することだったのだ。

しかし、入り口は、巨大な、岩で、塞がれてしまっている。

私たちは、完全に、閉じ込められてしまった。

「くそっ……! ここまでか……!」

万事休す。

誰もが、諦めかけた、その時。

シンドバッドが、静かに、言った。

「……いや。道は、まだ、ある」

彼は、崩れ落ちた、瓦礫の、山を、じっと、見つめていた。

「ファラ。この神殿は、特定の、音の、周波数に、共鳴して、崩れるように、設計されている。さっきの、『音の部屋』の、鐘の音が、その、引き金だったんだ」

「え……?」

「だが、逆に言えば。別の、特定の、周波数を、与えれば、この、崩落を、止めることも、可能なはずだ」

彼は、目を、閉じ、集中した。そして、かつて、神であった頃の、記憶の、奥底から、この神殿を、創造した、古代の、建築家が、隠した、「安全装置」となる、音の、旋律を、探し出していた。

「……見つけた」

彼は、目を開けると、近くに、落ちていた、金属のパイプを、手に取り、それを、正確な、リズムで、壁に、打ち付け始めた。

カン、コーン、カン、カン、コーン……。

それは、不規則な、しかし、どこか、心地よい、響き。

すると、不思議なことに、あれほど、激しかった、神殿の、崩落が、ぴたりと、止んだのだ。

そして、私たちの、目の前の壁が、静かに、開き、そこには、宝珠へと、続く、一本の、道が、現れた。

「……すごい……」

私は、ただ、呆然と、彼の、離れ業を、見つめていた。

彼は、魔力は、失った。けれど、その、頭脳と、叡智は、どんな、魔法よりも、強力な、武器だった。

私たちは、ついに、「知恵の宝珠」を、手に入れた。

彼は、もはや、ただの、元・神ではない。彼は、その、知識と、経験で、道を、切り開く、真の、「砂漠の賢者」だったのだ。

私は、そんな、彼の、隣に立てることを、心から、誇りに、思った。

私たちの、試練の旅は、まだ、始まったばかり。

けれど、二人でなら、きっと、乗り越えていける。

そんな、確信が、私の胸に、満ちていた。

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