25. 回鍋肉を食べなさい
吹っ飛ばされる瞬間はまるでスローモーションみたいで。黒い服の人……門番に殴られたキョンシーはまったく抵抗しなかった。一緒に吹っ飛んだ出前箱を空中でキャッチして、何事もなかったかのようにそこにいる。
「ナナシ、これ持ってく。邪魔」
「っんな怪しい出前をボスが取るわけねえだろうが。毒でも盛ってあったらどうすんだよ」
さらにもう一発。いちゃもんをつけているような感じで、本気でボスの身を案じてるようには見えない。ただキョンシーを悪者にしたいだけのように見える。
……というか。
「ちょっと、誰が怪しい出前ですって?」
その通りだけど。チンピラぶっ飛ばしちゃったし思惑がないわけでもないけど。でも毒なんて入れるわけがないし、大将の美味しい回鍋肉に失礼でしょうが。舌の上でとろりと甘くじょっぱくお肉の脂がとろけて最高で、キャベツと白米との相性がめちゃくちゃいいんだからね!
「まだいたのか! とっとと失せろ!」
「さっきから代金間違ってるって言ってるでしょ!?」
何より子供を殴ったのが許せない。子供は苦手だけど、キョンシーってつまりジョンと似たようなもので。この子はどう考えても十歳前後。
「毒っていうなら毒味すれば! ただしなんてことなかったら代わりに代金払ってよね!」
キョンシーから出前箱を奪い取り、蓋を開ける。美味しい匂いをくらえ。
「ほらほら、毒が入ってるんでしょ。食べて倒れたらこっちのせいにできていいんじゃない?」
「なっ」
「ボスのためよ?」
謎理論だ。どう考えてもおかしい。けど今こいつは正常じゃない。目の前には大将特製の回鍋肉。なぜか強気な配達員。冤罪をふっかけようとしていたキョンシー。
「はい、お箸。あとお米」
取りやすいところまで皿を持ち上げてやる。とんでもない構図だとしても仕方がない。
後に引けない雰囲気に回鍋肉をつまむ門番。口に入れてすぐに手元の白米もパクリ。王道だわ。
「……」
無心で食べ進めている間に座るように促して、出前箱の上に回鍋肉の皿を置く。見た目に似合わないどこかの工事現場みたいな食べ方になったところで……キョンシーの腕を掴んで逃げた。
「これ被って」
ヘルメットはキョンシーに被せて、荷台に乗せる。この世界の法律とか知らないけど非常事態です許してください。ブオオオとスクーターを走らせたところで門番が気づいて追ってきたけど、慌てて手に力を込めたら凄い音を立てて加速して撒けた。
「……これ以上追ってこないっぽいわね」
繁華街の方までやってきて、スクーターから降りる。とんでもないことになった。無心になるほど美味しい大将の料理に感謝。絶対にこの味を社食に持って帰るわ。
「大丈夫?」
「……ナナシ、あれ持ってけない。もう、ない」
「そうね、ごめんなさい」
殴られたところを確認するけどアザにもなってない。キョンシーっていうのは頑丈なのだろうか。
「あんた家族は?」
「ナナシ、家族、知らない」
「じゃあ戻さなくて大丈夫ね」
それにしても……勝手に連れ帰ってきちゃってどうしよう。でもあんなとこに置いとくわけにもいかないし。
まあいいや、セシリオに聞こう。セシリオならきっとなんとかしてくれる。なんてったって世界を滅ぼそうとまでしてたんだし。
お昼営業終わりの大熊猫軒のドアを開けた。
「へぇ……」
「置いて来いっていったろ……何別のもん連れ帰ってきてんだ」
白露さんが細い目をより細める。大将がふわふわな頭を掻いた。
「あははははは……あの、その、これには深いワケが」
声を聞きつけたセシリオが奥から出てきて、とりあえず事の顛末を説明する。お願いだからそんな睨まないで。だったらあんたが運んで。
「いっそそのまま組織を壊滅してきてくださればよかったのに」
「物騒なこと言わないでよ。というかそっちか護衛で腕っぷし係でしょぉ!?」
「回鍋肉代の損失は給料から天引きするように魔王城に申請しておきます」
「不可抗力だってば!」
呑気にケラケラ笑ってるジョンを圧で黙らせる。
「経緯はしょうがねえとしても……そいつ、違法キョンシーだろ」
大将がため息をつく。い、違法キョンシー?




