24. お代間違ってます
「たいしょー!!」
「あいよ。炒飯二人前な」
新入りが火鼠のチンピラをぶっ飛ばしたとて、今日も大熊猫軒は大盛況。厨房には熱気がこもり、お客さんたちの会話が聞こえてくる。やれ部下と意思疎通が難しいだの、やれ取引先の大店の顔が怖いだの。ちょっと社食と似てる。お疲れ様です。
「すぐ出来上がるから出前箱とスクーター準備しとけ」
「……あっ、はい」
そして私も、労働。ジョンがメモした住所が分かりづらくて結局セシリオに聞く。料理する時のようなイメージで胸元の指輪を握り締めながら住所を読み上げれば、残念ながら方向を教えてくれる。
「炒飯二人前入れといたぞ!」
萎れている私の耳に大将の太い声が貫通した。キーンってする。
「おい、返事!」
「はいっ!」
怖い。魔王城帰りたい。魔王やバジリスクたちに社食を提供したい。
……と思っていた頃も私にもありました。人というのは慣れる生き物というか、本当に出前のお客さんはほぼ妖怪だったし、世界最大の貿易国の港らしく外国人もたくさんいて浮かなかった。
「大熊猫軒ですー! 炒飯のお届けにあがりましたー!」
「はぁい」
真昼間で営業時間外なスナックから出てきたのは金華猫のお姉さん。なんとも色気がすごい。けど頼んだのは大盛り。しかもラーメン餃子付き。こういうギャップが結構面白い。
「毎度ありがとうございます」
「美味しそうだわぁ。ダイさんに今度お店にも来てちょうだい♡って伝えておいて」
喋り方は似てるのにジュリエットと全然違うのはなんでだろう、と不思議に思いながらヘルメットを被って会釈する。
ここ数日は出前の件数が多くて、大通りからならやっと帰り道がわかるようになってきた。
「こんな悠長にしてていいんだか」
独り言がスクーターの音でかき消される。もうすぐ出前を初めて二週間、つまり半月。煌華国に来て一ヶ月ちょっと。一向に進んでいる気配はしない。
「ただいま戻りましたー」
「おう、次行ってこい」
回鍋肉を手渡される。素直に出前箱に入れてしまう私って。調理は夜の方で手伝わせてもらいつつ学んでるからいいけど。でも配達員みたいになっている今日この頃。
「住所はどこですか?」
「港の方へ大通りをまっすぐ行け。いいか、真っ直ぐだぞ」
「へ?」
「そうしたら壁が現れるから、置いてこい」
何その怪しいブツのやり取りみたいなの。闇バイトみたいな感じになってるけども。
「確実に危なくないですか?」
「散々届けてきただろ」
「今まではそんな危ない妖怪じゃなかっ……」
そういえばどっちかといえば明るい職業じゃないというか、昼間は普通だけどって妖怪が多かった気がする。少なくともランチタイムの客層とは合わないよねって妖怪ばっかりで。
「やっと情報が回ったんだ。さっさと行ってこい」
気づいてないのは私だけだった。遠くからでもわかる。セシリオが鼻で笑っている。何も知らないジョンはいつも通り常連さんに可愛がられてるし。
「……行ってきます」
「おう」
無の顔でスクーターを飛ばした。帰って魔王に泣きつきたい。きっと同情してくれるはず。バジリスクとジュリエットは笑うだろうけど。
街中を抜けて、海沿いを通って、ひたすら運転していると次第に建物の雰囲気が暗くなってくる。迷子だったら即引き返すレベル。
「壁、だわ」
物々しい雰囲気で出入り口には黒い服の人たちが立っている。オワッタ。
「こ、ここに置いときます。大熊猫軒でぇす」
プルプルしながら出前箱を下ろすと目の前に人影があった。
「え?」
そこにいたのはお団子カバーをつけた黒髪の少女だった。謎のお札の間から見える目は真紅で、なんか光がない。多分、キョンシー。
「ワタシ、ナナシ。コレ、受け取る」
ナナシ……キョンシーが出前箱を指さす。つまり受け子ってこと?
この恐怖から逃れられるなら……って素直に渡そうとしゃがんだ拍子に手が滑って地面に落としそうになる。
「あっ!!」
けどキョンシーの動きは素早かった。サッと受け取って床にお金を置いてスタスタと去っていく。呆気に取られつつ、とりあえずお代が合ってるか確認する。なんか、似てるけど別のお金がある。
「ちょっと待って!! お金間違ってるんだけど!!」
叫んだところで、ガッと鈍い音が聞こえた。
「おいナナシ、てめえ何やってんだ!!」




